見出し画像

【英国LLM留学】英国法弁護士への道#3 │試験科目(FLK1)

こんにちは。
お読みいただきありがとうございます。

ぼくは、イギリスに留学中の弁護士です。
2023年にロンドンのロースクール(LLM)を修了し、現在は、ロンドンの法律事務所に出向中です。

引き続き、ぼくが英国法弁護士に登録されるまでを振り返っていきます。もしかしたら、聞きなれない略語が出てくるかもしれません。よければ、第1回の分からお読みいただけると分かりやすいかと思います。

なお、英国法弁護士で大変なのは、試験勉強ではなく事務手続です。各手続に関する要件等については、できるだけ確実な情報に基づいて話を進めていきますが、最終的には、ご自身で確認頂くようお願いします。


2022年6月:SQE1の内容を詳しく知る

テキストの開封

前回、QLTSchoolから届いた段ボールに梱包された大量のテキストを見てそっ閉じしたところで終わったと思います。

気づけば6月です。ぼくは、ようやく重い腰を上げて、紙のテキストをスキャンしてPDFにすることにしました。(自炊のための裁断機は元々持っていました)

一応、受講生のポータル上でもテキストが閲覧可能なのですが、アクセスにはインターネット環境が必要なため、オフラインでも読めた方が楽だろうと考えたからです。それに、留学先に紙のテキストを持っていこうとするとそれだけで荷物がいっぱいになりそうだったからです。

もし、留学前に予備校を契約して、その後留学に行く場合には荷物がかさばると思います。ぼくのようにテキストをPDF化せず、紙のテキストで勉強したいのあれば、どのタイミングで契約するかも悩みどころですね。

話は逸れましたが、QLTSchoolから送られてきたテキストは24冊!!といっても、試験科目が24個あるわけではなく、一つの科目についてテキストが複数冊あるものもあります。

以下では、SRAのこちらのWEBサイト(*1)を参考に、試験科目について見ていきたいと思います。

SQE1の概要

既にどこかで書いたかもしれませんが、SQE1の概要は以下のとおりです。

・ FLK1FLK2から成るコンピュータべ―スの択一式試験
・・ FLK1は、午前と午後でそれぞれ90問を153分で解く
・・ FLK2も、午前と午後でそれぞれ90問を153分で解く

まず、FLK1は、次の試験科目から成ります。

FLK1(全180問)
・ The ELS, Constitutional and Administrative Law(25~30問)
・ Contract(25~30問)
・ Tort(25~30問)
・ Business Law and Practice(35~40問)
・ Dispute Resolution(25~30問)
・ Legal Services(25~30問)

なお、各科目の問題数配分は(おそらく)公表されていません。上記の問題数は、QLTSchoolのMock Testに基づく大まかな配分です。ただ、実際に試験を受けたぼくの感想としては、大きく違っていないと思っています。

次に、FLK2は、以下のとおりです。

FLK2(全180問)
・ Criminal Law(25~30問)
・ Criminal Litigation(25~30問)
・ Land Law(50~60問)
・ Wills and Administrations of Estates(25~30問)
・ Trusts(25~30問)
・ Solicitors Accounts(数問)

以下では、各試験科目について、簡単に説明します。併せて、その試験科目をカバーするQLTSchoolのテキストについても挙げていきますが、今はテキスト構成も変わっているかもしれません。その場合はご容赦ください。

The ELS, Constitutional and Administrative Law

一つの科目というよりは、複数の科目の寄せ集めです。

まず、ELS(English Legal System)は、イギリスの司法制度やコモンローに関する一般的な知識を問う科目です。また、既にイギリスはEU非加盟国ですが、未だ国内で有効なEU法由来の法令が存在する関係で、EU法に関する知識も問われます。

SQE1は、基本的にどの科目から勉強しても良いと思いますが、ELSは、全ての科目の土台になるため、初めに手を付けた方がよいと思います。実際、法律の勉強と言うよりは、英国法の豆知識といった感じで、割と興味を持って学習できると思います。

この科目は、そのまま『The English Legal System』のテキストがカバーしています。

次に、Constitional Lawです。日本の司法試験では、憲法は最重要科目の一つですが、SQEに関してはあまり重要度は高くありません。問題数が少ないうえ、SQE2では出題されないからです。

司法試験と同様に、統治と人権から出題されますが、人権からの出題数は少ないです。統治に関しては、イギリスは、日本と同じく議院内閣制を採用しており似ているところが少なくないため、ぼくはあまり勉強には苦労しませんでした。

この科目は『Constitutional Law & Administrative Law』の一部と『Human Rights』がカバーしています。

そして、Administrative Lawです。こちらも、司法試験の行政法とは異なり、SQEでは重要度はあまり高くないです。試験範囲も異なって、Public Order Lawと呼ばれる選挙活動や集会に対する公権力による制約に関する法理論と、Judicial Reviewと呼ばれる行政裁判に関する問題の2本立てです。

特にPublic Order Lawは、日本だと最も厳格な基準で判断されるべき表現の自由の制約が割とあっさり許容されていて面食らうと思います。

この科目は『Constitutional Law & Administrative Law』の一部がカバーしています。

Contract

英国法では、日本の民法に当たるような民事法の一般の制定法がありません。そのため、司法試験の科目でいう民法の分野は、SQEでは、Conctract(契約法)やTort(不法行為)、Land Law(物権法・担保物件法)といった領域に分かれています。Contractは、試験科目としても、実務家としても、もっとも重要な科目の一つです。

勉強してみると気づかれると思うのですが、案外、日本の契約法と似ています。また、既に外国との取引法務に触れている方にとっては、業務の中で会得していた実践知が学問的な裏付けを得る場面にかなり出くわすと思うので、楽しく学習できると思います。

学習事項は多岐にわたりますが、主要なところでいうと、契約の成立要件、契約の無効事由、契約条項の解釈などでしょうか。

この科目は、『Contract Law』のテキストがカバーしています。

Tort

こちらもFLK1の重要科目の一つです。ぼくの感覚としては、英国の契約法が日本の契約法に似ている以上に、英国のTortは日本の不法行為のそれに似ています(むしろ日本が真似しているのかもしれませんが)。

SQEでは、一般不法行為のほかに、製造物責任、土地工作物責任、及び、使用者責任に関する問題も出題されます。

我々に馴染みのないものとしては、nuisance(迷惑行為)やRylands v Fletcherの法理などが挙げられますが、難解なトピックではありません。後者については、こちらで紹介していますので良ければどうぞ!

この科目は、『Torts』のテキストがカバーしています。

Business Law and Practice

おそらくFLK1の中で最も出題数が多い科目です。日本の法律に置き換えれば、会社法、倒産法の一部、税法の一部から構成されています。実務家にとってもキチンとマスターしておきたい科目ですね。

ここまで同じようなことばかり言っていますが、会社法についても、ぼくの感覚だと日本とイギリスでかなり似ています。そして、似ているだけでなく、出題範囲も、SQEと日本の司法試験で、ほぼ重なっています。そのため、勉強には苦労しないはずです。

もっとも、出題数が多い分、割と細かい手続的なところも訊かれるので、得点源にするのは難しいのではないかと思います。

あとは、Taxationは、法人税に限らず、所得税、キャピタルゲイン税、VATについても問われます。ぼくは律義にテキストを読んで、問題演習までやりましたが、問題数も多くないので時間が無ければ捨てていいかも知れません。

この科目は、『Business Taxation』の一部と、『Business Law and Practice』のテキストがカバーしています。

余談ですが、最近、日英の株式会社の組織・運営に関する規定を比較しています。良ければどうぞ。

Dispute Resolution

日本の司法試験では、民事訴訟法に相当する科目です。

もしQLTSchoolのテキストを手に取られた方がいれば共感頂けると思うのですが、この科目だけテキストが異様に分厚いです。今確認したら、375頁もありました。

司法試験の民事訴訟法ような理論科目の側面はなく、ひたすら手続の内容を覚えていかなければなりません。ぼくは一応、テキストを通読しましたが、この科目の勉強にかなり時間を取られてしまいました。FLK1の中では一番厄介だった科目です。

何かコメントがあるとすれば、おそらくどの予備校のテキストでも、また学術書でも、序盤に訴訟費用(cost)の章があると思うのですが、地味にめちゃくちゃ重要です。本試験でも頻繁に出題されます。ぼくは当初、日本の民事訴訟を勉強する感覚で、マイナー分野だと流し読みしていたせいで、もう一度戻って学習しなおすはめになりました。

あとは、Part 36 Offerという日本にはない特徴的な和解申出の仕組みがあり、これもしばしば試験で問われます。あまり好きではなかったDispute Resolutionの学習ですが、この分野だけは楽しんで勉強できました。

リファレンスばかりでしつこいですが、こちらで紹介しています。

なお、Dispute Resolutionについては、その名の通り『Dispute Resolution』のテキストが、この科目をカバーしています。

Legal Services

マイナーな科目のように見えて、実は、出題数は、ContractやTortと変わりません。そのため、これらの科目と同じウェイトで学習する必要があるかもしれません。

出題範囲は割と広く、法曹倫理や非弁行為のような日本の予備試験でも題材となっている分野や、SRAが要求する賠償責任保険の付保に関するルールや、マネーロンダリングに関する問題も出ます。また、非弁規制とは別に、金融サービスに関する規制に関するトピックも扱います。さらに、2010年平等法も出題範囲ですので、雇用差別の関連で労働法チックな問題も出ます。

このように、がっつり勉強しないといけない科目なのですが、ぼくは、そのことを知らず、マイナー科目扱いをしていたので、試験直前になっても知識が身についておらず痛い目を見ました。

『Legal Services』及び『Financil Services』のテキストがこの科目をカバーしています。

小括

ここまでお読み頂きありがとうございました。
今回は、SQE1のうちFLK1について詳しめにご紹介しました。

FLK1の各科目を俯瞰してみると分かるように、全体的に民事系の科目が並んでいます。また、日本の法律と内容が近い法分野が並んでいるので、法務部や弁護士の方は、勉強もやり易いはずです。

次回は、FLK2について紹介しようと思います。

追記:次回はこちらです!

このエントリーがどなたかのお役に立てば、嬉しいです。
また次回もよろしくお願いします!


【注釈】
*1 こちらのWEBサイトは、"APPLICABLE FOR ASSESSMENTS FROM 1 SEPTEMBER 2023"と記載されており、ぼくが受験した2023年1月の情報とは異なるかもしれません。そのため、以下の記載は「受験記」とは少し趣を異にするかも知れませんが、ご容赦ください。


免責事項:
このnoteは、ぼくの個人的な意見を述べるものであり、ぼくの所属先の意見を代表するものではありません。また、法律上その他のアドバイスを目的としたものでもありません。noteの作成・管理には配慮をしていますが、その内容に関する正確性および完全性については、保証いたしかねます。あらかじめご了承ください。


X(Twitter)もやっています。
こちらから、フォローお願いします!

弁護士のイギリス留学に関するいろいろなことを書いています。
よければ、ぜひご覧ください!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?