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【英国法】消費者契約における不公正な条項 ー無効になり得る条項20選ー

こんにちは。
お読みいただきありがとうございます。

本日は、英国の消費者契約における不公正な条項(unfair term/unfair consumer notice)について、書きたいと思います。

以前、責任制限条項の有効性というタイトルで、次の記事を書きました。

これは、BtoBつまり企業間の契約における話であり、消費者契約は対象外であると説明していたと思います。

他方で、消費者契約すなわちBtoCの契約は、企業に比して不利な立場に置かれがちな消費者を保護するため、特別な規定が置かれています。これは、日本も英国も同じですね。

そこで、今回は、消費者契約において、不公正な条項であることを理由に無効になる可能性がある条項を紹介していきます。

なお、法律事務所のニューズレターとは異なり、分かりやすさを重視して、正確性を犠牲にしているところがありますので、ご了承ください。


Consumer Rights Act 2015

英国において、消費者契約を規律する主な法令は、Consumer Rights Act 2015(以下「CRA」)です。

不公正な条項

S. 62は、次のように定めています。

62  Requirement for contract terms and notices to be fair
(1)  An unfair term of a consumer contract is not binding on the consumer.
(2)  (以下略)(*1)

つまり、不公正な消費者契約の条項は、消費者を拘束しません。したがって、相手方事業者にとっては、不公正な条項に依拠することができません。無効とされたも同然ですね。

グレーリスト

また、S. 63は、次のように定めています。

63  Contract terms which may or must be regarded as unfair
(1)  Part 1 of Schedule 2 contains an indicative and non-exhaustive list of terms of consumer contracts that may be regarded as unfair for the purposes of this Part.
(2)   (以下略)

つまり、Schedule 2のPart 1に列挙されている条項は、不公正なものと扱われるかもしれないと言っています。

不公正な条項となり得るもの

早速、Schedule 2のPart 1を覗いてみると、Paragraph 1から20まであります。

お気づきの通り、タイトルにある「無効になり得る条項20選」は、このことを言っています。すなわち、この記事は、Para 1-20の内容をひたすら解説していくものです(笑)

1項:作為又は不作為に起因する死亡又は傷害に対する責任を制限する条項

企業の作為又は不作為(act or omission)に起因する消費者の死亡又は傷害に対する企業の責任を免責又は制限する条項は、不公正とされる可能性があります。

なお、企業の過失(negligence)に起因する消費者の死亡又は傷害の免責又は制限は、まったく認められません(*2)。これは企業間契約の制限責任条項と同じですね。

2項:相殺を含む法的権利を制限する条項

契約上の義務の全部又は一部の不履行又は不十分な履行に関して、消費者の法的な権利を不適切に排除又は制限する条項は、不公正とされる可能性があります。

特に、企業が消費者に対して負う債務を相殺により消滅させ得る条項について言及されています。

3項:企業が拘束されず、消費者のみが拘束される条項

消費者を拘束する一方で、実質的に企業がそれを履行するかどうかを決定できることになっている条項は、不公正とされる可能性があります。

つまり、企業の役務提供について、その実施が企業の意向のみに依存する条項は不公正となり得るということができます。

4項:キャンセル時の不平等な補償が定められた条項

消費者が契約を締結又は履行しなかった場合に、企業が消費者から支払われた前金等を返還しないことが定められている一方で、企業が逆の立場になった場合に消費者が同額の補償を受けられることが定められていない条項は、不公正とされる可能性があります。

5項:キャンセル時の過大な補償が定められた条項

消費者が契約を締結又は履行しなかった場合に、消費者に対して不相応に高額な補償金の支払いを義務付ける条項は、不公正とされる可能性があります。

6項:債務不履行に対する過大な補償が定められた条項

消費者が契約上の義務を履行しなかった場合に、不相応に高額な補償金の支払いを要求する条項は、不公正とされる可能性があります。

7項:不平等な解除権が定められた条項

企業側に一方的な契約解除権を与える条項は、不公正とされる可能性があります。また、まだ役務が提供されていないにも関わらず、契約を解消した場合に消費者から支払を受けた金銭を保持することを認める条項も、不公正とされる可能性があります。

8項:重大な事由の無い即時解除権が定められた条項

重大な事由が無いにも関わらず、企業が合理的な通知なしに期間を定めない契約を解除できることを定めた条項は、不公正とされる可能性があります。

9項:更新拒絶のための期間が十分でない自動更新条項

見出しのとおりですが、消費者が解約しない限り、定期契約が自動的に更新される条項で、更新拒絶のための余裕期間が不当に短いものは、不公正とされる可能性があります。

10項:消費者が契約締結前に実際に知ることができなかった条項

契約締結前に、消費者が実際に知る機会がなかった条項は、不公正とされる可能性があります。

11項:取引条件の一方的な変更権が定められた条項

契約に明記された正当な理由なく、企業が契約条件を一方的に変更できることを定めた条項は、不公正とされる可能性があります。

12項:契約の目的の一方的な変更権が定められた条項

消費者が契約に拘束された後で、契約の目的(subject matter of contract)を一方的に変更できることを定めた条項は、不公正とされる可能性があります。

subject matterをどう訳せばよいのか困ったのですが、aimの意味での目的ではなく、どちらかという目的物に近いニュアンスです。ただそうなると次の13項と意味がかなり重複してしまうので、困りものです。

13項:商品等の一方的な変更権が認められた条項

正当な理由なく、企業が提供する商品・サービスを一方的に変更できることを定めた条項は、不公正とされる可能性があります。

14項:契約金額の一方的な変更権が認められた条項

消費者が契約に拘束された後で、契約金額の変更の裁量権を企業に認める条項は、不公正とされる可能性があります。

もっとも、期間の定めのない契約における例外(Para 23)や物価スライド条項の例外(Para 25)がある点に注意が必要です。

15項:解除権のない価格変動条項

契約締結時に合意した価格に対して最終価格(final price)が高すぎる場合に、消費者に契約解除権を与えることなく、企業が商品・サービスの価格を引き上げる条項が、不公正とされる可能性があると規定されています。

CRAに最終価格の定義はありません。推測するに、価格変動条項自体が、上記14項などに反せず有効であっても、この条項が適用された結果、高すぎる価格となったときに、消費者に契約解除権を与えない条項について、述べているものだと思います。

ただ、きちんと意味が取れているか不安なので、原文も載せておきます。

A term which has the object or effect of permitting a trader to increase the price of goods, digital content or services without giving the consumer the right to cancel the contract if the final price is too high in relation to the price agreed when the contract was concluded.

※ ぼくの理解に相違があれば、こっそり教えてください!!

16項:企業が商品等の契約適合性について決定できることが定められた条項

商品・サービスが契約に適合しているか否かについて、企業が決定できることを定めていたり、排他的に解釈できることを定めていたりする条項は、不公正とされる可能性があります。

17項:代理人の約束に対する企業の責任を制限したり、企業の約束の方法を制限する条項

企業の代理人の約束(commitment: あることを行うことや特定の方法で行動することの約束)を企業が尊重する義務を制限する条項や、企業の約束について一定の形式的要件を課す条項は、不公正とされる可能性があります。

18項:企業の債務不履行に関わらず全ての債務を履行しなければならないことが定められた条項

企業が債務不履行に陥った場合でも、なお消費者が契約上の債務を全て履行しなければならないことを定めた条項は、不公正とされる可能性があります。

19項:消費者の同意のない契約譲渡を認める条項

企業が、消費者の同意を得ることなく、契約上の権利と義務を譲渡することを認める条項は、不公正とされる可能性があります。

このような条項は、割と入れがちなので注意が必要ですね。

20項:法的救済を困難にする条項

消費者が、訴訟上の手段又はその他の法的手段を取る権利を制約する条項は、不公正とされる可能性があります。

20項は、特に次のような条項を例にあげており、これらを契約に盛り込もうとする場合は、慎重な検討が必要となりそうです。

・ 紛争解決手段を法規定が適用されない(*3)仲裁に限定すること
・ 消費者が利用できる証拠を不当に制限すること
・ 適用法令によれば企業側にあるべき立証責任を消費者側に課すこと

おわりに

いかがだったでしょうか。
本日は、英国の消費者契約における不公正な条項について書いてみました。

CRAの条項をまとめただけの、省エネな記事でしたが、英国で消費者を相手方とする契約書や利用規約を作成する場合には、Schedule 2を傍らに見ながら、ドラフトするのが良いと思います。

なお、今回は、無効となり得る条項についての紹介でしたが、英国の消費者契約において、問答無用で無効となる条項もあります。

1項のところで触れた、企業の過失に起因する消費者の死亡又は傷害の免責又は制限する条項などですね。これらについては、また別の機会に紹介できればと思っています。

ここまで読んで頂きありがとうございました。
この記事がどなたかのお役に立てば、嬉しいです。


【注釈】
*1 CRAは、term of consumer contractとconsumer noticeを区別しており、後者については、s.62(2)の方で、不公正なものは拘束力を有しないと定めています。consumer noticeとは、企業が消費者との取引に入る際に消費者に対して通知する条件であり、企業と消費者が必ずしも契約という形で合意に至るわけではないことに配慮した規定となっています。
*2 s. 65, CRA
*3 原文は、"requiring the consumer to take disputes exclusively to arbitration not covered by legal provisions"なのですが、not covered by legal provisionsの意味がちょっと分かりません。ただ少なくとも、消費者が法的手段にでることを著しく制限するような場所・ルールでの仲裁は認められないと理解はすべきです。


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