【英国法】代理店規制#1 ー適用範囲ー
こんにちは。
お読みいただきありがとうございます。
本日は、イギリスの代理店規制について書きたいと思います。
日本企業が海外でビジネスをしようとする場合、色々なスキームが考えられます。もっとも分かりやすいのは、海外に子会社を設立することですよね。ほかにも、法人格を持たずに拠点を作る方式もあり得ます。
代理店を使うことも、海外進出の方法一つです。たとえば、現地の会社と代理店契約を締結して、ある商品を積極的に取り扱わせるとともに、商標権を許諾してプロモーションも実施させます。これらによって、自社の商品を当該外国の市場で効果的に流通させることが可能となります。
しかし、多くの法務担当者は、代理店と聞くと脳内でリスク検知のアンテナが立つのではないでしょうか。というのも、代理店は、代理店契約の相手方となる取引先(例えば海外企業)と比べて一般的に弱い立場にあり、多くの国では、彼らの保護を目的とした規制を設けているからです。例えば、中東では、代理店規制が非常に厳しいことで有名です。
では、イギリスでは、どのような代理店規制が定められているのでしょうか。できるだけ分かりやすく紹介したいと思います。
なお、先に謝りたいのですが、タイトルに「#1」とあるとおり、1回でまとめられませんでした。近々に「#2」を作成して完結する予定です。
なお、法律事務所のニューズレターとは異なり、分かりやすさを重視して、正確性を犠牲にしているところがありますので、ご了承ください。
The Commercial Agents Regulations 1993
イギリスの代理店規制を語る上で最も重要な法令が、このThe Commercial Agents Regulations 1993(以下「1993年規則」)です。
1993年規則は、イギリスのEU加盟国時代に定立された商業代理人指令(*1)に基づくものであり、Brexit後もなお有効な法令です。いわゆるRetained EU Law(Assimilated Law)ですね。解説についてはこちらをどうぞ。
つまり、イギリスの代理店規制は、EU諸国(*2)のそれと基本的に同じです。
1993年規則は、代理店の保護を目的の一つとしており、重要な条項の多くは、当事者の合意によって排除することができません。
そのため、問題となっている代理店契約が、1993年規則の適用を受けるか否かは、当事者の権利義務の内容に大きく影響します。
以下では、1993年規則がどのような場合に適用されるのかを見ていきます。
適用範囲1:商業代理人に該当するか?
1993年規則の適用の有無は、代理店が、商業代理人(commerfcial agent)に該当するか否かという点に着目をして確認すべきです。
1993年規則のs. 2(1)は、商業代理人について、次のように定めています。
この定義から、次の点が重要になるのが分かると思います。
① 仲介者(intermediary)であること
実務上は、当該代理店が仲介者に該当するか否かが、ほとんどの事例において商業代理人か否かのポイントとなります。
これは、ざっくり言うと、代理店が在庫のリスクを負うか否かです。
代理店が在庫リスクを負うならば商業代理人には該当せず、負わないなら該当しないと、基本的には考えられます。なお、ぼくは、お客さんに回答をするときは、前者を販売店(distributor)、後者を代理店(agent)と区別して説明するようにしています。日常的にこの手のビジネスに触れている商社の人などは、この辺の言葉の使い分けにかなり敏感だと思います。
ちなみに、商業代理人の定義における「仲介者」の直前には、self-employed intermediaryというように、「自営業者」という枕詞がついています。もっとも、これは、別に個人事業主に限定されず、会社も含まれます(*3)。そのため、ほとんど意義の無い部分だと理解しています。
② 物品の売買に関する代理店であること
商業代理人は、物品(Goods)の売買に関する代理店でなければいけません。つまり、サービスの提供・受領に関する代理行為を行う者は、商業代理人には当たりません。
物品の該当性との関係では、ソフトウェアが物品に該当するのか、よく議論に上がります。結論としては、代金と引き換えに、売り切りの永久ライセンス権を付与する方法によりソフトウェアを提供する場合には、物品に該当します。他方で、SaaSの場合は、ソフトウェアの利用はインターネットを通じて行われ、通常は永続的なライセンスではなく、サブスクリプションの形式で提供されています。したがって、SaaSによるソフトウェアの提供は通常、物品の売買では無いと解されています。
適用範囲2:代理店は英国で活動しているか?
また、両当事者が英国に所在するのであれば問題になりませんが、双方又は一方が、非英国所在者であった場合、地域管轄の観点から、1993年規則が適用されるのか検討する必要があります。
考え方は、割とシンプルです。
1993年規則のs. 1(2)は、次のように定めています。
すなわち、1993年規則は、グレート・ブリテンでの商業代理人の活動について、適用されます。
じゃあ、北アイルランドは除かれるのか、と思う人もいるかもしれませんが、北アイルランドでは1993年規則とほぼ同じの法令が設けられているため(*4)、英国での商業代理人の活動と読み替えても問題ないです。
結論としては、商業代理人の活動が英国で行われれば1993年規則が適用され、そうでなければ不適用です。
例外:代理店契約の準拠法がEEAの国である場合
1993年規則のs. 1(3)は、次のように定めています。
代理店契約の準拠法として、EEA(EU、アイスランド、リヒテンシュタイン、及びノルウェー)のいずれかの国を指定している場合、1993年規則は適用されません。
これは、EEA諸国は、商業代理人指令に基づき、1993年規則と類似の法令を国内法として整備しているからだろうと推測されます。
例外と書きましたが、日本企業はヨーロッパのハブとなる現地企業を、イギリス以外に置く場合も多いです。代表的なのは、オランダ、ドイツ、フランスですね。そのため、在独の日系企業が英国の代理店を使って英国内で事業展開するというのは、あながちレアケースではありません。その意味で、英国の代理店との間でEEAの法律を準拠法とすることは、割とあり得る話かなと思います。
例外の例外:商業代理人の活動がEEAの国で行われているが、代理店契約の準拠法が英国法である場合
ややこしいですが、この場合には1993年規則が適用されます。
おそらく、EEA諸国は、1993年規則と類似の法令を整備しており、このような類似の法令にも、1993年規則のs. 1(3)と同様の定めがあるからだと思われます。
ここまで、1993年規則の適用範囲についてまとめましたが、長くなってきたので、今回の記事は第1回として、残りは次回に持ち越したいと思います。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
この記事がどなたかのお役に立てば、嬉しいです。
追記:第2回はこちら!
【注釈】
*1 Commercial Agents Directive (86/653/EEC) (OJ 1986 L382/17)
*2 正確には、EUにアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーを加えたEEA諸国ですが、便宜上EU諸国としています。
*3 Bell Electric Ltd v Aweco Appliance Systems GmbH & Co KG [2002] EWHC 872 (QB)
*4 Commercial Agents (Council Directive) Regulations (Northern Ireland) 1993
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