【英国LLM留学】英国法弁護士への道#4 │試験科目(FLK2)
こんにちは。
お読みいただきありがとうございます。
ぼくは、イギリスに留学中の弁護士です。
2023年にロンドンのロースクール(LLM)を修了し、現在は、ロンドンの法律事務所に出向中です。
引き続き、ぼくが英国法弁護士に登録されるまでを振り返っていきます。もしかしたら、聞きなれない略語が出てくるかもしれません。よければ、第1回の分からお読みいただけると分かりやすいかと思います。
前回は、SQE1のうち、FLK1について説明しました。本日は、FLK2について紹介していきたいと思います。
なお、英国法弁護士で大変なのは、試験勉強ではなく事務手続です。各手続に関する要件等については、できるだけ確実な情報に基づいて話を進めていきますが、最終的には、ご自身で確認頂くようお願いします。
2022年6月:SQE1の内容を詳しく知る(続)
以下では、FKL2の各科目について、簡単に説明します。併せて、その試験科目をカバーするQLTSchoolのテキストについても挙げていきますが、今はテキスト構成も変わっているかもしれません。その場合はご容赦ください。
なお、こちらのSRAのサイトを参考にしています(*1)。
FLK2の概要(再掲)
各科目を見ていく前に、FLK2の試験科目と問題数を再び載せます。なお、180問とありますが、90問のテストを午前と午後に分けて実施します。詳しくは、前回のエントリーを参照してください。
では、一つずつ見ていきます。
Criminal Law
犯罪に関する法律です。司法試験でいう刑法にほぼ重なります。
もっとも、刑法総論の関する議論(故意、未遂、因果関係、共犯など)はほとんどなく、日本で言えば刑法各論に当たるような、各犯罪の成立要件の理解が、基本なレベルで聞かれる感じです。
日本の刑法は、(確かドイツ由来の)構成要件該当性、違法性、責任の三段階で犯罪の成立を検討していく枠組みですが、イギリスでは、Actus ReusとMens Reaの二つが、犯罪の構成要素であると伝統的に言われています。このような和訳が適切かどうか分かりませんが、前者が行為を中心とした犯罪の客観的側面、後者が故意を中心とした犯罪の主観的側面だと理解して、ぼくは勉強を進めていました。
このように、思考の枠組みは異なるものの、論じられる内容は案外似ていて、ぼくは勉強に苦労しませんでした。多分、センスのある人なら、初見で解いても半分ぐらいは正解できるのではないかと思っています。
この科目は『Criminal Law』のテキストがカバーしています。
Criminal Litigation
FLK2では、刑事訴訟法の問題も出てきます。司法試験では、捜査と公判の二本柱ですが、SQE1もだいたい同じです。
問われる内容は、日本の刑事訴訟法と似ているので、そこまで勉強には苦労しませんでした。ただし、いかんせん手続法で暗記すべき事項の量が多く、短期間の学習だと高得点を取るのは難しいかもしれません。
なお、英国では、日本国憲法が保障する一事不再理(39条)に対する例外があり、特定の司法プロセスを経ることで、確定した無罪判決の再審理が可能です。もちろん、検察が何度でも起訴し放題というわけではなく、制限はありますが、当時のぼくは衝撃でした。
さらにいうと、英国では、現行犯以外でも、裁判官の令状によらず、警察が被疑者を逮捕することが可能です。もっとも、軽微な罪の場合は24時間を超えて拘束することができず、それ以外の罪については、裁判所の令状が無い限り36時間を超えて拘束ができません。また、勾留期間は最長で96時間です。日本のように逮捕の要件が厳格ではない一方で、長期の身体拘束は行われない制度設計となっています。
この科目は、『Criminal Litigation』のテキストがカバーしています。
Land Law (Property Practice)
SQE1で最も勉強に苦労した科目です。司法試験との対応でいうと、物権法(動産以外)と賃貸借と重なります。また、不動産登記法も含まれており、さらに、建築や消防関連の行政法も一部含まれています。
あくまでぼくの意見ですが、土地法に関しては、「この○○は、日本でいう△△に近いな」という風に理解できるものが、他の科目に比べて圧倒的に少ないです。
ぼくが特に苦労したパートは、不動産登記です。どの事項(Restriction、Charge、Easement、Leaseなど)が、どの登記(Property Register、Propriatorship Register、Charge Register)に登記されるかは、きっちり理解しておかないと、のちのち躓きます。これは、権利の有効性や権利の第三者への効力の判断にも影響してくるので、きっちり抑えておくべきだと思います。
なお、(試験勉強当時の復習も兼ねて)英国の不動産登記簿の読み方について、日英比較をしてみたことがあります。良ければご覧ください。
逆に、賃貸借のうち、賃貸借契約に関するものは、日本の民法と似ていることもあり、そんなに苦労しません。ただ、Equitable Rightやコベナントが絡んでくると一気に面倒になります。
この科目は、『Land Law』と『Property Practice』のテキストがカバーしています。なぜQLTSchoolのテキストが2本立てなのかは、わかりません。
Wills and Administrations of Estates
ざっくりいうと相続法です。司法試験では、民法の中でもマイナー分野である家族法の、そのまたサブカテゴリーに当たる分野ですが、FLK2では、刑法や刑事訴訟法とほぼ同じボリュームで出題されます。
英国の相続法は、信託が絡むので、日本とは内容がやや異なります。もっとも、割と理論的な話が多く、覚えることが少ないため、ぼくは楽しく勉強出来ました。
日本の遺留分のような制度はなく、被相続人は、遺言により、遺産の処分内容を自由に定めることができます。また、英国では遺言の内容は、手数料を支払うことで誰でも閲覧することが出来ます。そのため、遺言が秘密裡に行われることがあり、なんと一定要件の下でそのような遺言も認められています。詳しくはこちらをどうぞ。
また、こちらの判例では、死因贈与(と表現するのは、もしかしたら不適切かもしれませんが。)に関する興味ぶかい事例を紹介しています。
この科目は、『Wills and the Administration of Estates』のテキストでカバーされています。
Trusts
SQE1では、信託法が独立した科目として出題されます。日本の司法試験ではない科目ですね。
内容としては、信託の成立要件、チャリティなどの特殊な信託、受託者の義務などがメインです。
また、英国では遺言による財産移転は信託を通じて行われることから、勉強する知識がある程度重なります。そして、信託の受益者の権利は、衡平法上のものなので、衡平法に関する事項も学びます。
司法試験の科目にないことから、日本の弁護士がSQEを勉強するに当たって、力を入れて勉強しなければならない科目第2位(トップはLand Law)だと思っています。
この科目は、『Equity & Trusts』のテキストでカバーされています。
Solicitor Accounts
文字通り会計です。数問しか出ないので捨ててもいいと思うのですが、ぼくは、テキストも読んで、問題演習もしました。でも、あまり理解できていません(笑)
こんな感じの問題が出ます(*2)!
これを見て、直感的にキツいなと感じられたなら、SQE1合格という目的との関係では、捨てても良いかも知れません。
この科目は『Solicitors' Account』のテキストがカバーしています。
FLK1とFLK2に関する補足
ここまで、FLK1とFLK2を細かく紹介してきましたが、実は合意が別々に判断されます。例えば、FLK1はパスしたがFLK2は落ちた、みたいな事態もありえます。
この場合、その次のSQE1では、FLK2のみを受けてパスすれば、SQE1クリアとなります。片方合格の資格がいつまで有効なのかは調べていないので分かりませんが、周りで片方だけ受かった友人は、たいてい次のタイミングでもう片方も受かっています。
お金はもったいないですが、いざ申込みをしたものの、もし勉強が間に合わなさそうなら、いずれか一方に勉強時間のリソースを集中させるのも一案かなと思っています。
小括
ここまでお読み頂きありがとうございました。
今回は、SQE1のうちFLK2についてご紹介しました。
個人的には、FLK1よりFLK2の方が、やっかいな科目が多く(Land Law, Trustsなど)、周りの受験仲間(外国人含む)に聞いても、FLK2の方が苦手と言っていた人が多いです。
次回は、SQE1の申込みについて書きたいと思います。
追記:第5回はこちらです。
このエントリーがどなたかのお役に立てば、嬉しいです。
また次回もよろしくお願いします!
【注釈】
*1 なんと、前回のエントリーから今回のエントリーまでの間に、Specificationが変更されています!前回紹介したリンク(こちら)は、"APPLICABLE FOR ASSESSMENTS FROM 1 SEPTEMBER 2023"と記載されている一方、今回紹介したリンクは、"APPLICABLE FOR ASSESSMENTS FROM 1 SEPTEMBER 2024"となっています。1年ごとに変わる感じでしょうか。2023年と2024年の比較は行っていない点、ご了承ください。
*2 こちらのSample問題のQ27です。
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