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【データ法】英国・2024年のAI法制の展望 ーEUとは異なる独自の道へー
こんにちは。
お読みいただきありがとうございます。
今回は、最近のデータ法界隈で最もホットなトピックであろうAIについて書きたいと思います。
EUでは、いよいよAI Actの成立が見えてきました。
AI Actとは、(EU曰く)世界初のAIの包括的な法的枠組みであり、2023年12月、EUの立法機関である欧州議会(European Parliament)と欧州連合理事会(Council of the EU)が一定の合意に至っています(*1)。
遠くないうちに、立法手続が済む可能性もありそうですね。
では、既にEU加盟国でなくなったイギリスのAI法制事情はどうなっているのでしょうか。今日は、そんなことを書きたいと思います。
なお、法律事務所のニューズレターとは異なり、分かりやすさを重視して、正確性を犠牲にしているところがありますので、ご了承ください。
英国の基本スタンス
上記のEU AI Actは、AIの利用に関して、EU加盟国全域において分野横断的に適用される規則です。EUの個人データの保護におけるGDPRと同じ位置づけですね。
個人データ保護については、イギリスは、EUとの協調を明確にしています。具体的には、Retained EU Law(Assimilated Law)というテクニカルな立法手続により、UK GDPRと呼ばれる、GDPRとほぼ同じの個人データ保護法を置いています。UK GDPRの詳しい紹介はこちらをどうぞ。
AI規制については、EUとは異なる独自の道へ
データ保護については、EUと歩調を合わせるイギリスですが、AI規制に対するスタンスは、EUのトップダウン式のそれとは明確に異なりです。
現在、英国政府は、AIシステムの安全性と規制する包括的な法律の導入を予定していません。GDPRに味を占めて、AI規制のグローバルスタンダードを作ろうとするEUとの対比が鮮明ですね。
2023年AI白書
このタイトルは分かりやすいようにぼくが個人的に付けたものです。正式名は、英国政府が2023年3月29日に発表した「A pro-innovation approach to AI regulation」と題された白書です。
英国のAI規制に対するアプローチについては、この2023年AI白書を振り返るのが良いと思います。
上記のように、英国は、2023年AI白書において、現時点では包括的なAI法を導入する予定が無いことを表明しています。
もっとも、各所管官庁にフリーハンドでAI規制を委ねると、セクショナリズムによる規制の断片化を引き起こしかねません。そうなると、事業者のコンプライアンスコストが増加し、AIを利用したイノベーションが阻害される可能性があります。
そこで、英国政府は、分野間での統一的な規制を行うためにソフトローを利用する方針です。
ソフトローとは、法的拘束力はないものの、当局の権威の下で作成されたルールです。ガイドラインや通達と呼ばれるものですね。これにより、事業者の活動の方向性を定めて、柔軟な行政規制を実現する手法です。
具体的には、どのようなフレームワークなのでしょうか?
イギリスのAI規制に関する5つの原則
2023年AI白書では、次の5つの原則を掲げられています。
① Safety, security and robustness
② Appropriate transparency and explainability
③ Fairness
④ Accountability and governance
⑤ Contestability and redress
短い単語なので、和訳は不要でしょうか。
これらの原則に従うことで、規制とのバランスが取れたAI発展のイノベーションが実現するということだそうです。
主要規制当局によるガイダンスの公表
英国政府は、2023年AI白書の中で、主要な規制当局に対して、上記5つの原則を実施するためのガイダンスの公表を求める予定であることを明らかにしています。
政府は、これらのガイダンスをモニタリングすることで、規制当局間のAIに対する態度の一貫性を担保する考えです。
このアクションを白書の公表から1年以内に行うと書いてあるので、2024年には、ガイダンスが公表されるのではないかと思っています。
次の機関は、2023年AI白書の中でも重要性が説かれており、2024年にガイダンスを公表することになるのではないかと思います。
Information Commissioner's Office (ICO)
データ法の記事でいつもお馴染みのICOです。AIの諸問題は、データプライバシーと密接に関係しており、ガイダンスを出すことが予定されます。ICOは、既にAIとデータ保護に関するガイダンスを公表しているので、そのアップデートとなるのかもしれません。
というか、ちょうど今日、ICOからガイダンスに関するパブコメの第1弾が発表されました。テーマは、ウェブスクレイピングを利用した学習の法的根拠ですね。
こちらが、ICOの素案ですが、ウェブスクレイピングを利用した学習は、正当な利益(legitimate interest)に依拠し得ると考えているようですね。
Competition and Markets Authority (CMA)
次に、CMAです。以前、イギリスのステマ規制について書いた記事で登場したかもしれません。日本で言うと公取+消費者庁ですかね。
FInancial Conduct Authority (FCA)
金融サービスを監督するFCAも、白書の中で何度も言及されており、ガイダンスを出すはずです。イギリスの主要産業である金融サービスもAIの活用が活発なので、FCAのガイダンスは見逃せませんね。
Health and Safety Executive (HSE)
HSEも、ガイダンスを公表することが予想されています。日本でいう労基署+政策官庁のようなイメージの組織です。
Equality and Human Rights Commission (EHRC)
EHRCも、ガイダンスの公表が予想される当局の一つです。日本の法務省人権擁護局に似ているのかなと思います。余談ですが、ドメインが「.uk」ではなくて「.com」ですね。でも、本物のWEBサイトです。
AI規制ロードマップ
他に注目すべきもとしては、AI規制ロードマップが挙げられます。
2023年AI白書では、ここまで述べたような各規制当局のガイダンスを政府がモニタリングして、全体として統一的なAI規制を実現するメカニズムを確立するために、AI規制ロードマップを発表すると述べています。
このロードマップは、2023年AI白書の初公表(2023年3月)から6か月以内に公表されるとのことでしたが、まだ公表されていません(笑)
イギリスあるあるです。
でも、さすがに2024年中には公表されるのではないでしょうか。
公表されれば、英国におけるAI規制の法的枠組みを方向付ける重要文書になることは間違いないです。
まとめ
かなり端折ってご紹介しましたが、いかがだったでしょうか。
2024年の英国のAI法制の展望は、まとめると(ちょっと長くて上手くまとまっていませんが)、次の通りです。
・ EUがAI Actによる分野横断的な規制を目指す一方で、英国はそのような包括的なAI法を設けず、ソフトローを活用する独自路線を歩み始めている
・ 英国政府は、各規制当局のガイダンスをモニタリングすることで、各分野で統一的なAI規制に対する態度を担保していく予定である
・ 2024年、ICO, CMA, FCAなどが、AI規制に関わる重要なガイダンスを公表する可能性が高い
・ 同じく、2024年、英国政府がAI規制ロードマップを公表する可能性が高く、英国のAI規制のフレームワークにとって重要な文書となり得る
ここまでお読みいただきありがとうございました。
皆さまのご参考になればうれしいです。
【注釈】
*1 このAI ActがEU法となるためには、ParliamentとCouncilの双方で正式に法案が可決される必要があります。近日中に可決される予定であると上記のプレスリリースにありますが、いつになるのでしょう。今回の基本合意も当初の予定から遅れていたという理解なので、案外近日中じゃないかもしれません。
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