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掌編「ぼくの書いてる小説について、彼女が知っている二、三の事柄」(未発表長編より抜粋)
「面白いの?」
「ぼくの小説?」
彼は単刀直入な質問に戸惑った。
「なんて言ったらいいかな、それはつまり、面白いというのがどういう面白さを言っているかにもよるんだけど……」
「つまらないの?」
彼女はまどろっこしい説明を聞くつもりはなさそうだった。
「いや、その、面白いよ。自分でこんな風に言っていいか分からないけど」
彼は、少なくとも自分では面白いと思って書いたものがいくつかあったことを思い出しながら言った。
「もしかしたら、読みたい?」
こんな風に聞くときは常にダメでもともとのつもりでいるのだが、相手が彼女となればいつも以上にその気持ちを強く持って、訊ねた。
「読まない」
彼女はにべもなく断った。
「そ、そうだよね」
彼は、これほど間髪を入れない拒絶を受けたことはさすがになかったので、少なからず動揺した。
「本なんて時間の無駄。バッカみたい」
「そ、そうだよね」
その考えには彼もあながち反対ではなかったが、彼女の口から発せられるとどうしても自分とは違う根拠に基づいているように思えて仕方なかった。
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