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WATSUかアンダーウォーターか?
これからWATSUを学びたいという方から、WATSU(水面)とアンダーウォーター(UW)の違いについて、お問い合わせをいただきました。いままで私の考えをちゃんと説明したことがなかったと気づいたので、ちょうどいい機会だと思い、考えをまとめておきたいと思います。これはあくまでセラピスト側に対する私の個人的な考察であって、どちらがいいとか悪いとかという話でもないですし、受け手であればどちらでも自分の好きな方を受ければいいと思っています。
水面のワークでは、クライアントは完全に心身を委ねられます。寝る人も多いです。身体にとっては最高の自由です。敵(重力)がいなくなり、ボス(脳によるコントロール)がいなくなって、身体は初めて自由になります。「委ねる」という状態ですね。委ねることが苦手な人もいるのは事実ですが、そこがワツラーとしての腕の見せどころです。そういう人が委ねられたときに感じる開放感や感動は格別です。またボディワークとして、身体を自由にした後、今度は整えることが重要です。重力に戻した後でもその人が楽でいられるよう、緩めて、整えて、返すことがWATSUの技術です。
UWの場合は、なんの制約もない無限の自由を手に入れたようで、経験したことのない開放感に感動する人は多くいます。なによりUWには例えようのない流動美があります。ただ、逆に常に自分の呼吸を意識していなければならないので、水面のように、委ねるとか整えるという効果は薄くなります。遊園地の乗り物のような楽しさは感じるけどそれ以上ではない、という感想もあります。
UWの非日常性は例えようがなく素晴らしいものなのですが、私自身はWater Danceのプラクティショナーになっても物足りなさを感じていて、というか、しっかり核心をとらえてないような気がして、これまで自分から進んでは施術をしてきませんでした。Water Danceの他のUWのワークも研究しましたが、ピンと来たものはありませんでした。
プロのボディワークとしてUWをするには、もう少し深く考察する必要があると考えています。ここから先はマニアックな話です。
UWでは、その人のクセや感情もフルに開放されます。シームレスで3Dな流動美の中で体を自由にすることが目的なのですが、受け手は自分のクセを保持できるし、むしろ身体のクセは強く出ます。しかしUWでそれに対して働きかけすることはほぼ不可能です。姿勢のクセ、動作のクセ、反応のクセ、誰でもパターンとして持っています。それが身体に辛さにつながっていることが多いので、何とかしたいわけですが、UWでは特にクセが強く出る傾向がある上に、その偏りに対して何のアプローチもしてあげることができません。本人は楽しかった、という感想であっても、結果的に自分のクセを増長して終わるケースが多い。これが1点目。
2点目は、UWは感情をゆさぶります。ポジティブもネガティブも。セラピストは、それに対して準備ができていないといけません。想定しなかった感情の記憶がカミングアウトするようなこともあります。中医学の五行思想では、木火土金水それぞれに感情がありますが、水の感情を知っていますか? 「恐怖」です。水が作用する感情って、深いんです。自分でUWを学んでみて、受けてみて、施術してみて、そのポテンシャルを強く感じます。その対策はできているのか? これは両刃だぞ? 私は自分に問いかけました。
こういう課題に対して、私は自分なりの答えをまだ模索しています。
まず1点目について。UWでの強烈な開放をうまく利用しつつ、それとは別に「委ねる」からの「緩める」「整える」 この作業は水面のワークが担うべきなのです。UWのセッションでも、半分くらいの時間は水面で過ごします。セッションの前後10分程度は水面のワークをしますし、潜水と潜水の間にも、水面ワークが入ります。
水中では好きなように振る舞ってもらえればいいと思います。浮上して、呼吸したその瞬間に、整えるチャンスがやってきます。浮上したときにこそ、脱力してワークに身を委ねる機会があるのです。そこで生きるのはWATSUの技術です。そのときに水面で何をするか? その反応をみて次の潜水で何をするか? その連鎖は非常に高度な技です。これを教えてくれるインストラクターを今のところ私は知りません。今の私にはまだ届かない領域です。
2点目については、それほどは気にしなくてもいいのかもしれません。どんなトラウマが出てきたところで、商売的には、こちらの関知するところではございません、という同意書一枚で済むのかもしれません。ただ、そういう無作為は、私個人的には納得できません。もともとWater Danceを創設したアジャーナ先生は、カップルや妊婦に対する心理カウンセリングの専門家で、カウンセリングの一環としてWater Danceが生まれました。なので彼女自身は感情的な反応に対する準備ができていますし、むしろそれが狙いなのです。ただ、彼女のWater Danceトレーニングを修了してみて、私は「やっぱり心理的な取り組みまでは教えないんだな。そりゃそうだよな。自分で勉強しろってことだな」と思いました。
ただ実のところ、1点目に課題にした、水面&UWの連動ボディワークがちゃんとできれば、コントロールできないほどの感情的な脱線が起こる可能性はかなり低いのではないか、と考えています。心と身体がどれだけリンクしているかは経験的に痛いほどわかっているので、ちゃんとからだを整える作業ができていれば、感情的反応に対して万全ではなくても無防備ではないと直観的には思っています。
この2点について理解した上でUWを実践できているインストラクターがもし世界にいるとすれば、恐らくAquatic Integrationのキャメロン先生一人だけだと思います。私はまだ彼女のUWを学んでいませんが、彼女は、「UWの責任」を重く受け止めていて、クライアントに初めて会った日にUWすることを「無責任」と断じました。彼女の経験と知見からして、UWの「両刃」を理解しているからこそ、「無責任」と断じられるのです。
WATSUを勉強する中で、一番のチャレンジは、「クラスメイトと一般の人を施術するのはまったく違う」ということです。(やったらわかります) UWの場合、この傾向はさらに大きくなるのです。インストラクターも、受講しに来た生徒さんにUWをやるのは簡単なのです。一般の人の場合に反応がどのように出てくるか、こちらの想定とのズレ幅がWATSUよりさらに大きい、というわけです。そのリスクの重みを、リハビリやトラウマの患者さんを毎日の現場で診ているキャメロン先生は理解しているのです。
長くなりましたが、これから水中ボディワークを習う方で、水面かUWかを考えている方に、私なりの意見をシェアします。
まずWATSUを勉強してください。そしてAIも勉強してください。たくさん施術経験を踏んでください。
UWは平行して学んでもいいです。UWもたくさん友人と練習を積んでください。
ただ、プロとして施術する場合、まずは、継続的なWATSUの施術関係を持つこと。そして、何回かの施術の後、施術効果が思うように出ないときに、UWを検討してください。UWをやる目的をしっかり説明して、自分の身体の取り組むべき点をしっかり理解してもらって、要は目的と動機をしっかり共通理解した上で取り組めば、水面だけではありえないブレイクスルーが起こる可能性があります。
もし私の言うようなプロでなくて「もっと軽く」UWをしたいと思うのであれば、それはご自由です。ただ、リスクについては十分に理解しておいてください。
例えばダイビングインストラクターの方が、ダイブ後の一興としてゲストに海で施術したい、ということであれば、むしろ水面よりもUWの方がやりやすいです。遊び感覚でやること。時間は短め(長くても20分以内)。であれば、リスクは少なく、きっと楽しく盛り上がることでしょう。そういうノリと、自分ひとりのために用意された時間と場所の中で60分のセッションをするのとは、まったく受け手の精神状態が違いますよね? ということは精神的なリスクがまったく違うということです。
UWについての私の意見は、しっかりUWのリスクと責任を理解した上で、軽く短く楽しいノリでやるか、一人のクライアントを複数回発展的に施術する関係性を築くモデルを作るか、どちらかだと思っています。
スパで予約してきた初見のゲストにUW、というのは世界中で実践されています。人生最高の感動体験をした、というゲストもたくさんいるのは事実です。でもね、その逆の経験をしたゲストがいたとしても、それが公言されることはないのが営業の常なんです。「私には合わないんだ」そう思うゲストも増えてしまいます。
初見のゲストにUWをするのは、私は勧めません。ゲストにもセラピストにも。でも、反対することもしません。みなさん自分自身で判断してください。
じゃあ、メニューに掲げていないのにUWをやりたい!という初見のゲストが来たら、私ならどうするか?
それは、やります。
1点目の水面&UW連動の方法を探るために。1点目の解消が2点目のリスクを軽減する、という自分の仮説を実証するために。機会をみてキャメロン先生のAI-3講習(UW)も受講したいと思っています。
今はそういう状況です。
今後、沖縄WATSUセンターでUWの講習をやるかどうかは、会員の皆さんのアンケートなどをとりながら、検討していきます。