「箇条書き」をやめてみる──ChatGPTにはできない、人間が「ナラティブ」に書くこと
いつもは「地図」にまつわる記事を投稿することが多いのですが、今回のテーマは「ナラティブに書くこと」のすすめ。
会議の議事録や、プロジェクトの要点を「箇条書き」でまとめる──。
これは多くの会社で日常的に行なわれていることです。
タイトルは「やめてみる」としましたが、箇条書きは便利なツールです。
それぞれの項目同士の関係性、重要度の高低、時系列などまで表現された「箇条書き」に目にしたときは、私も「さすが!」と唸ってしまうことがあります。
しかし、優れた箇条書きを作成するには、それなりの能力と経験が必要であるのもまた事実です。
よくあるのが、何が重要なのかが判然としなかったり、順序がばらばらだったりと、とりあえず「項目」を並べただけの箇条書きです。
ChatGPTをはじめとする生成AIが進化し続けていることを考えると、単純に情報をまとめたり、ディストリビューションする仕事は生成AIに任せるというケースも今後増えていくのではないでしょうか。
人は「ロジック」だけでは動かない
しかし、「情報をまとめただけ」の箇条書きでは伝わり切らないシチュエーションも存在します。
それはなぜでしょうか?
「わかりやすさ」や「まとめやすさ」と引き換えに、「コンテクスト」「文脈」が失われてしまっているからだと私は考えます。
項目と項目の関係性が不明確な資料を見た人は、わかったつもりにはなれるかもしれませんが、本当の意味で理解しているとは言い難いでしょう。
書いた当人も、項目と項目とが論理的につながっていると考えがちですが、「なぜ」と問われると、案外説明できなかったりします。
トヨタには「なぜ」と5回問う文化が根付いているのは有名な話ですが、「なぜ」に答えるためには、「なぜなら……」と説明する必要があります。
一方、箇条書きには「なぜなら」がありません。
「なぜなら」がない情報は、厳しいことを言えば「情報」ですらなく、「ファクト」を羅列したに過ぎません。
それによって何かをジャッジすることは不可能です。
また、そもそも人は「ロジック」だけで動くのではなく、「コンテクスト」や「文脈」、あるいは「熱量」を感じ取ることでアクションする決断をします。
ナラティブに、情熱的に語られた資料のほうが、人を引き付け、心を揺さぶることができるのはそのためです。箇条書きは"論理的すぎる"のです。
実際、マップボックスの社内資料では、原則、箇条書きを禁止しています。
ナラティブに書かれた資料は文章量が多く、用意する側も読む込む側も一苦労。
ですが、「コンテクスト」のない箇条書きで議論を進めるのと、ナラティブに書かれた資料をもとに議論を進めるのでは、結果に大きな違いが生じると私は考えています。
ちなみに、あのアマゾンも「箇条書き」を禁止している企業として有名です(「パワーポイント」も禁止らしいです)。
アマゾンでは、「パワーポイント」や「箇条書き」の会議資料を見ることはほとんどありません。
なぜならアマゾンでは、会議の資料は「文章(ナレーティブ)形式で書く」というルールがあるからです。
なぜアマゾンでは箇条書きやパワーポイントが禁止されているのでしょうか。
それは箇条書きだと、行間を読むことで、人によって解釈の違いが生じやすいからです。
また発表者も行間に様々な思いや考察を埋め込んで説明することが多いので、後日それらを思い出そうとしても非常に難しいからです。
皆さんも、先週行われた会議の内容を事細かに思い出すことはできないと思います。
それが、箇条書きのパワーポイント資料だとより顕著に表れてしまうということです。
アマゾンが「コンテクスト」を重要視していること、そのために「文章」で書くことをルール化していることが読み取れます。
打ち合わせ後に、私がスマホに入力していること
とはいえ、いきなり長い文章を書くのは簡単ではないかもしれません。
私が実践している方法をご紹介します。
まず、打ち合わせや会議等が終わったあと、移動中の時間などを使って、ひたすらスマートフォンに文字を打ち込みます。
打ち合わせの内容にもよりますが、ざっと次の項目を埋めていきます。
出席者(Attendee)
目標(Goal)
メモ(Note)
ToDo(NextStep)
ポイントは「メモ(Note)」の部分です。
ここでは箇条書きを一切使わずに、文章で、ナラティブに表現します。
文章量の平均は、Wordベースで1ページくらい(1000字程度)です。原稿用紙でいえば、2枚半。
これだけでも、普段いかにナラティブに、あるいは論理的に考えていないかを痛感できます。
慣れてくれば、文章化しなくても、自分の頭の中でストーリーを描くことで思考を整理したり、人に説明できるようになります。
もしチャレンジするなら、打ち合わせや会議後すぐに取り掛かることをおすすめします。
「コンテクスト」は時間の経過とともに「曖昧」になっていくからです。
みなさんも、1カ月前の会議の議事録を見て「あれ、これはどういう話でこうなったんだっけ……」と感じたことは、一度や二度ではないはずです。
このナラティブに書く技術が身に着けば、冒頭で述べたような「さすが!」と思わせることができる箇条書きも作成できるようになっていきます。
最後に1つだけ、身もふたもないことをお伝えすると、箇条書きにしろ、ナラティブな文章にしろ、誰が話すかによって聞き手の印象が変わってしまうのは避けようがありません。
たとえば、同じ内容の発言をしても、業界の権威が語るのと、新人が語るのとでは「説得力」に差が出てしまうのです。
こうしたハンデ、バイアスを修正するためにも、ナラティブな文章を書くスキルを磨くことは有用であると私は思います。
少し話は飛びますが、ひょっとすると、私たちが漫画に感動するのは、「ナラティブ」だからかもしれません。
主人公や仲間たちは、一見、非合理的な行動に出たり、「えっ、それは無理では……」と突っ込んでしまいたくなるような作戦を実行した結果、見事勝利をおさめたりします。
それでもというか、だからこそ、私たちの心は動き、感動するのではないでしょうか。
最後に
これまでも「交渉術」「情報収集法」「伝え方」等のスキルについて投稿したことがありますので、ご興味のある方はご一読いただければ幸いです。
パートナーシップのための交渉 | ZC交渉術#1
ビジネス交渉時のお作法 | ZC交渉術#2
はじめての事業開発(前編) 情報収集について | ZC交渉術#3
最適な「伝え方」 : 3つの基本で、相手を動かす
ぜひ、参考にしてみてください。