なぜ「歩くだけのポイ活」は流行る?──「寄り道」のススメ
緊急事態宣言が明けて、みなさんも密を避けながら出社を再開したり、会食の約束をし始めているタイミングでしょうか。
ビジネスにおける”人流”にも、復活の兆しが見え始めています。大手IT企業の楽天グループは、「週3日出勤」から「週4日出勤」に切り替えると発表しました。
注目すべきは、出勤日数を増やす理由が「コミュニケーションの活性化」となっていることです。これは、以前に私がnoteでも取り上げたマイクロソフトのレポートの論旨と合致しています。
ITのイメージが強い楽天グループですら、リアルな対話の重要性を重視していることは、今後のチーム作りや、ビジネスの進め方に影響を与えるのかもしれません。
即日10万DL達成「移動でポイントが貯まるアプリ」
アプリ業界でいえば、宣言明けを待つかのようにローンチされた「Miles(マイルズ)」が、日経クロストレンドの「2022年ヒット予測ランキング」で第1位になるなど話題になっています。
JALも出資しているシリコンバレー発のサービスで、移動するだけでポイントが貯まるとあって、ローンチ後すぐに10万ダウンロードを達成。一時期、App Storeでペイペイよりも上位にランクインしました。
参加特典は100以上あり、ファミリーマート、JR東日本、マルイなど大手企業がパートナーとして名を連ねています。ポイント好きと言われる日本人との相性の良さも、躍進の理由の1つでしょう。
特徴的なのが、徒歩は10倍、電車は3倍、車は1倍というように、移動手段によって貯まるポイントの倍率が違う点です。
経営分野における環境経営や、投資分野でのESG(Environment、Social、Governanceの頭文字)投資、さらにはウェルビーイング・健康志向といった個人のニーズの変化を捉えたサービスとなっています。
「移動」のプロセスに”喜び"や"意味”を見つける
航空会社には「JALマイル」「ANAマイル」のようにマイレージプログラムがありますし、これまでも移動をポイントに変えるサービスはいくつもありました。
たとえば、日本コカ・コーラのアプリが2018年に提供したのは「Coke ON ウォーク」というプログラムです。目標歩数を達成したり、一定の歩数をクリアすることでスタンプが貯まり、ドリンクと交換できるという仕組みです。これまでに参加者は800万人を突破しています。
ソフトバンクグループのAgoopは2019年に「WalkCoin(アルコイン)」をローンチしました。歩いてコインを貯めれば、電子ギフトと交換できたり、グループ会社のPayPayとの共同キャンペーンなども行なっています。
デジタル地図データを活用した地図サービスを展開するインクリメントPは、2020年から「トリマ」アプリを展開しており、現在500万ダウンロードと発表されています。移動して貯まったマイルを、WAONポイント、nanacoポイント、アマゾンギフト券、dポイントなどに交換することができる仕組みです。
こうしたサービスが人気なのは、ただ「ポイントがもらえるから」というだけではないように思います。
私たちは”移動”を「目的地にたどりつくための手段」とだけ捉えているわけではなく、”移動”の過程やプロセス自体に喜びや何かしらの意味を見出したいのかもしれません。
コロナの影響により一時的に移動を制限されたことで、これまでよりも”移動”は貴重なものとなりました。
「せっかく移動するなら、本当に行きたいところに行ってみたい」という欲求に加え、「移動すること自体も楽しみたい」といったニーズが表面化しているように思えます。
IP大国日本なら、位置ゲームが量産できる!?
この「移動を楽しむ」ことを、もっと以前から大々的にやってきたのが、ゲーム業界です。
ゲーム性という意味では、昔から「歩数計」は歩くことを数値化し、ある種の達成感を得られるツールでした。
最近でも、以前noteに取り上げた「GPSアート(ランアート)」も、走ることで絵を描くという新たな楽しみを創り出しました。
位置ゲームの雄といえば、なんといっても任天堂とNiantic(ナイアンティック)が組んで創り上げた『ポケモンGO』があります。世界的なムーブメントとなったことをご記憶の方も多いと思います。
ローンチから5年経った今でも、約4割がアクティブユーザーとしてゲームを楽しんでいるとレポートされています。
これまでのユーザーの課金総額は、50億ドル(約5700億円)を超えている、というから驚きです。
私が武器を手に入れるため散財した『ドラゴンクエストウォーク』は、2021年の上期に2億6100万ドル(約298億円)を売り上げているそうです。
ちょうど先日に、任天堂とNianticのタッグで『ピクミン ブルーム』がリリースされました。私もダウンロードしてみましたが、こちらの記事にあるように"歩数計"に近いライトな感覚でプレイできます。
個人的には、「リアル桃鉄」(『桃太郎電鉄』の位置ゲーム)が登場すれば、無限に遊んでしまいそうです。その他にも『スーパーマリオ』『ゼルダの伝説』『信長の野望』など、デジタル地図と相性の良いIPがたくさんあるIP大国日本ならではの位置ゲームがいくらでも開発できそうな気がしています。
ビジネスという視点でいえば、『ポケモンGO』はシニア層のプレイヤーが多いとも言われています。遊べる位置ゲームの選択肢が増えれば、ユーザー数はもちろん、課金額という点でも今以上の広がりを生むと思います。
最近、Google マップ関連サービスが終了したことが話題となりました。
少しだけPRすると、私たちの地図サービス開発プラットフォーム「マップボックス」でも位置ゲームの構築は可能です(参考記事はこちら)。もし興味のある方がいらっしゃれば、いつでもTwitterなどにDMください。
人は「寄り道」をするもの
コロナ禍では、一時的に移動が制限されました。そのため「スーパーに買い物に行く」「対面でなければ成立しない打ち合わせのために外出する」「病院に行く」というように、移動の目的を明確にせざるを得ない時期が続いたように思います。自宅と目的地とを、直線でつないだような移動が主でした。
しかし、本来、人は「寄り道」をするものです。
「とりあえず外に出よう」「現地でなんとなくぶらぶらする」「今日は別のルートで帰宅しよう」というように、移動する目的も明確でなかったりします。また、位置ゲームがそうであるように、ドライブはクルマを運転することで「移動そのものを楽しむ」ものでもあります。
人に「寄り道」が増えれば、「おっ、こんなお店があったのか」と飲食店やお気に入りの店を偶然に見つける人が増えるかもしれません。こうした発見こそ、デジタルではない現実世界だから生まれるセレンディピティだと思います。
今がちょうど、日本全国の観光地に”人の賑わい”を取り戻すタイミングです。「寄り道」によって、きっと地域の魅力も再発見されていくのではないでしょうか。