経営者は”リモートワーク”と、どう向き合うべきか?──「Facebook、ヤフー、Googleの働き方」から考える
2021年10月1日、政府は全国19都道府県に出していた「緊急事態宣言」と、8県を対象としていた「まん延防止等重点措置」を解除しました。
まだまだ予断を許さないとはいえ、2年以上にわたって続いた制限のある生活にいったんは区切りがついたことになります。日常生活はもちろん、ビジネスという点でも明るいニュースではないでしょうか。
あらためて、とくに働く人にとっては「これからリモートワークなどの新たな働き方がどうなっていくのか?」が、最大の関心事なのではないかと思います。
そこで、今回はさまざまな事例やリサーチ結果を基に、リモートワークについての自分の考えを掘り下げてみたいと思います。
リモートワークはどうなる?──Facebook、ヤフー、Googleの働き方
グローバルに見ても、コロナ後の対応には温度差があるようです。代表的なIT企業が「どのようにリモートワークを考えているのか」を見ていきましょう。
Facebook:リアルとリモートの使い分け
BBC(英国放送協会)のニュースによると、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ氏は、リモートワークが可能な従業員に関しては引き続きリモートワークを認めると発表しています。
記事には「ザッカーバーグ氏は従業員宛のメモで、オフィス外で働くことで「自分は幸せになったし、仕事の生産性も上がった」と話している」と書かれています。
さらに、自身についても、半分はオフィス内、もう半分はオフィス外で働く予定であると述べていることもあり、リアルとリモートとをうまく使い分けた働き方を模索している様子が伝わってきます。
ヤフー:無制限リモートワーク
日本企業でいえば、「無制限リモートワーク」というメッセージを掲げ、積極的に新しい働き方に挑戦しているヤフーも、情報技術を手がける企業ならではの取り組みと言えそうです。
「社内外における会議や採用活動、社内研修などの全てをオンラインで実施する」などの取り組みの結果として、「92.6%の従業員がリモート環境でもパフォーマンスへの影響がなかった、もしくは向上した、と回答しています」というデータを明らかにしています。
Google:オフィスでのコラボレーションを重視
大手IT企業の中でも、フィジカルな出社に独自のこだわりを見せているのが、Google(アルファベット)です。
日経新聞は「ほとんどの社員が約3日をオフィスで過ごし、2日を自分が最も適している場所で過ごすハイブリッド型の働き方に移行し、オフィスでの時間は"コラボレーション"に集中する」というサンダー・ピチャイCEOの言葉を紹介しています。
報道を見る限りでは、従業員の反発やデルタ株などの流行もあって、リモートワークの期間を何度か延長しているようですが、記事内には「グーグルはすでに2018年に(中略)オフィス施設の再検討を開始していた」とあります。
4万8000平方メートル近い広大な土地に本社機能を集約して、ある種の「街」を形成してきたグーグルは、リモートだけでは完結しない「コラボレーション」に価値を見出しているのでしょう。
日本人はテレワークに向いていない?
先日、「日本人はテレワークだと仕事がはかどらない」と結論づけたアドビ(Adobe)の調査が、TwitterなどSNSで大きな話題となりました(引用の太字は筆者)。
トヨタやソニーといった戦後の日本企業を大きく躍進させた要素の一つに、"すり合わせ"と呼ばれる、組織として現場の人間関係のなかで課題を解決していく能力があります。
このニュースを見たとき、私は「日本人の属人性の高い働き方がゆえに、リモートワークの障害となっているのかもしれない」と感じました。みなさんはこのニュースをどう読み解くでしょうか?
マイクロソフト“リモートワークに関するレポート”の衝撃
さて、私自身、マップボックス・ジャパンがコロナ禍に立ち上がった企業であることもあり、リアルとリモートのバランスであったり、最適なコミュニケーションスタイルを今現在も模索している渦中にあります。
ですから、各社がさまざまな方針を発表し、修正しながら前進している姿を、この2年間常に注視していたわけですが、ここに来て、「やはりそうか!」と膝を打つようなレポートに出会うことができました。
それが、マイクロソフトが発表した“The effects of remote work on collaboration among information workers”(リモートワークが情報労働者のコラボレーションに与える影響について)です。
要は、「マイクロソフトのようなIT企業に務めるインフォメーションワーカーが、他のスタッフとコラボレーションしながら働くことに対して、リモートワークはどういった影響を与えたか」について調べたということです。
調査には、6万人にも上るマイクロソフトの従業員が、2020年の上半期に使用したメール、ビデオ・音声通話、カレンダー等に加え、勤務時間といったデータも活用されています。
そして、その結果、マイクロソフトは次のような結論を導き出しました。(太字は筆者)
いわゆる「タコツボ化」です。つまり、従業員がリモートワークにより接触の少ない狭いコミュニティーに閉じこもることになり、 視野を狭めることになる、と指摘しているのです。
さらに、レポートでは、「タイムラグのないコミュニケーションが減少することも相まって、新しい情報の獲得、共有するのが難しくなった」ともあります。
リモートワークは「フィルターバブル」につながるか?
本noteでは、代表的なIT企業を例に挙げましたが、従業員の安全確保という前提のもと、各社が試行錯誤している状況のようです。
もちろん、実際には「完全リアル(会社へ通勤)」と「完全リモートワーク(在宅勤務)」の白黒はっきりするようなゼロイチの議論ではなく、間のどこかを選択することになるのだと思います。
ただ、当該企業、あるいは経営者が「オンラインでもクリエイティブワークができる」と信じているか、信じていないかによって、従業員の働き方、企業の戦略がずいぶんと変わってくるようにも感じています。
クリエイティブな仕事をする際、私が経営者として意識しているのは、固定化された密なチームからの情報だけでなく、もっと粗い関係性から得られる情報にどうアクセスしてもらうか、です。
少し前に、「フィルターバブル」という言葉が流行りました。
ビジネスのシーンで言えば、決まった人たちと決まったことしか話さないことによって、情報が固定化されると大局観を見失ってしまうことにもなりかねません。
イノベーションは、かけ橋となるような新たな「組み合わせ」を見つけることから始まりますので、固定化された関係性のなかからは革新性のある発見が見つかりにくいと言えそうです。
「リアルな場」だから伝わるコンテクスト
私自身もリモートでのチーム作りに苦戦することになりました。そして、もっとイノベーティブな組織にしたいと考えて実行したことのいくつかは、やはりリアルな接点を意識した施策でした。
たとえば、従業員で開催したリモート飲み会で、事前に同じ銘柄のビールをメンバー全員の自宅に送ったのも、参加する場所はそれぞれであっても、「同じ味の飲み物を飲む」という行為を共有するためでした。同じように、お昼にオンラインで集まり、同じランチのメニューをいただく企画もしました。
ささいなことなのかもしれませんが、「○○○がおいしいですね!」という共通の体験が、遠い場所にいるリモートワーク状況下でも、メンバーの心と心を近づけるきっかけになるのではないかと思ったのです。
また、今ではマップボックス・ジャパンのお土産の定番になっている「どらやき」の注文をインターネットで探すのでなく、虎ノ門オフィス近くの和菓子屋さんにお願いしたのも同じような理由からです。「おいしいですね。これはどこのどらやきですか?」という一言が話のきっかけになると信じているからです。
リアルな場、リアルなコミュニケーションというのは、オンラインの空間、対話に比べても、コンテクストが伝わりやすいというのが私の持論で、コロナ禍に起業した企業だからこそ、できる限り、リアルにこだわりたいと考えたのです。
そして、最近の私のマイブームは、「手紙」です。
マーケティングオートメーション系のツールが進化し、対面で会うことの希少性がアップした今だからこそ、リアルの価値が上がっていると私は感じています。
あえてフィジカルな年賀状を書いたエピソードについては、過去の公式noteにも書いておりますので、ご興味があればご一読ください。(大量の年賀状を作成した際には、スタッフに負担をかけてしまったことはお詫びします…。)
「被リンク」の価値が上昇する時代
リモートワーク状況下だからこそ、「(以前のようにすぐにつながれないから)○○さんを紹介してほしい」という依頼が、体感としても相当に増えています。
少しだけ抽象度を上げて表現するならば、「気軽に話しかけられる関係」「自分を誰かに紹介してくれる関係」の価値が再評価されているということです。リアルの価値という意味では、人脈の価値も格段に上がったように思います。
インターネット的に考えると、ソーシャルにつながる「被リンク」数は、会社で働く個人にとって相当に重要な要素となっていくのもかもしれません。
リモートワークについて、以上のようなことを考えながら、マップボックス・ジャパンで経営者を務める日々があっという間に過ぎていきます。
もし、これをお読みいただいている経営者の方やマネージャーの方の中に、「こういう方法があるよ」という方がいらっしゃいましたら、ぜひ教えていただければと思います。
また、Z世代の人たちや多感な時期に移動を制限されてきた世代にとっては、私が「価値観」とは違った「価値観」を持っている、あるいは異なるコミュニケーション手法をとっているのかもしれない気もする"今日このごろ"です。今度、インターン生に聞いてみようと思っています。
では、また次回。