最適な「伝え方」 : 3つの基本で、相手を動かす
仕事の基本はコミュニケーションであり、「伝え方」です。
私は会社の代表として、株主とコミュニケーションすることもあれば、社員のチームメンバーとコミュニケーションすることもあります。当たり前のことですが、「伝え方」は同じではありません。
株主の立場でいえば、身も蓋もないかもしれませんが、一番の関心事は、「投資回収」になります。当初予定していた期間で、できるだけ多くの収益を生むことができるのかどうか、といった観点で、私の言葉を聞きたいと思っているはずです。
では、チームメンバーはどうでしょうか。おろらく「働きやすい会社であるか」「会社の掲げる理念に共感できるか」といった観点が気になるはずです。そのため、自ずと私の「伝え方」の手法や内容も、投資家のそれとは変わってきます。
重要なのは「伝え方」だけではありません。その結果として「相手が動いてくれるかどうか」が大切です。
どんなに熱弁をふるって伝えたとしても、株主から「君の言うことは、わかった。だけど出資はできない」、またはチームメンバーから「社長の言うことはわかるのですが、私のやりたいことではありません」と言われてしまっては、意味がありません。相手が動いてくれないならば、会社の経営者の「伝え方」としては不十分です。
したがって、どんな相手でも同じ「伝え方」をするのは傲慢だと私は考えます。人によって立場や興味の対象は千差万別ですから、必然的に「伝え方」を変える必要があるわけです。
「相手のロジック」を短時間でシンプルに知る方法
ですから、どんな場合においても、相手が動いてくれる可能性がいちばん高い方法を選ぶべきなのです。
その基本が「相手のロジックで考える」ことです。
とはいえ、いきなり「相手のロジックで考えろ」と言われても戸惑ってしまう人もいるでしょう。ここでは、1つ、とっておきの手法をお伝えしたいと思います。
それは、相手の話をよく聞くことです。
「なあんだ」と思われるかもしれませんが、これはビジネスシーンだけの話ではありません。あなたが、友人や家族とコミュニケーションする際、相手を喜ばせたいとか、動いてもらいたいと考えたなら、「相手がどんなことを考えているか」をまず考えるのではないでしょうか。
つまり、言い換えれば「相手の価値基準を知る」ということです。
では、どのように相手の価値基準を見定めることができるでしょうか。時間をかけて「好きなこと」「嫌いなこと」を聞き出すのも方法の一つですが、もっと短時間でシンプルに知る方法があります。
それは、相手が“よく使う言葉”に注目することです。
たとえば、相手がよく使う褒め言葉が、「ユニークだね」であれば、その人は、普通ではないことに価値を置いているかもしれませんし、「しっかりとしているね」であれば、安定に重きを置いているとも考えられます。
相手が“よく使う言葉”を、「自分の言葉」で伝えてみるのも効果的です。
相手の発言を「自分の言葉」として言えるということは、相手の話を聞いていることの証であり、相手のロジックを理解するための近道だからです。
最適に伝えるための「基本的な3つのコツ」
伝え方の基本である「相手のロジックで考える」ことを押さえれば、あとは「どう伝えるか」です。
もちろん、私の元上司であるヤフーの安宅和人さんのように「強固なロジックを組み立てながら人を動かす方法」であったり、現在は東京都副知事の宮坂学さんのように「コンテクストで人を惹きつけると」いった、最高峰の「伝え方」を目指すに越したことはありません。
とはいえ、千里の道も一歩から。ここでは、相手のロジックに合わせて最適に伝えるための「基本的な3つのコツ」をご紹介します。
①美しく、シンプルに
1つ目は、伝える際に「余計な情報」を入れないこと。
ここでいう「余計な情報」というのは、相手が理解する際に「ノイズ」となるような情報を指しています。
たとえば、資料に掲載するのに、きれいなチャートと汚いチャートと、どちらを見せるべきかといえば、きれいなチャートに決まっています。もし、汚いチャートを提示して、「このチャートは見づらいな」と思わせてしまったら、相手に余計なストレスを与えてしまうからです。
ビジネスの現場で、「未完成なドラフトですが……」という説明に出合うことがありますが、厳しい言い方をすれば、人に理解してほしいのであれば、時間をかけてでもきれいなチャートを準備すべきです。
また、きれいなチャートであっても、本論と関係のない説明が加えられているものもおすすめしません。それは、修飾語が多く、論旨が不明瞭でダラダラ続く文章よりも、短く完結にまとめられた文章のほうが読みやすいのと同じです。
「美しく、シンプルに」が基本です。相手によりロジックは異なりますので、大前提として相手の理解を妨げるようなノイズは少ないほうがいいのです。
では、簡潔であればよいかといえば、ここにも落とし穴が1つあります。とくに日本語は文章の一部を省略しても、ある程度伝わってしまうところがありますが、あえて情緒、余韻を出すという狙いがある場合を除き、主語や述語は絶対に書いたほうがいいと私は思います。
「相手も自分と同じ前提知識をもって臨んでいるだろう」という勝手な憶測は、思いもよらない誤解を生んでしまう原因となるものであり、そうした可能性は未然に防ぐに越したことはありません。
②「相手が求める情報」から提供する
2つ目は、伝える情報の順番について、「相手が求める情報」を先に提供することです。
ビジネススキルやプレゼンの本では、最初に結論を伝えることの大切さが説かれているケースが多く、私もそのとおりだと思います。
もちろん、それは原則論であって、実際には相手によって変わってきます。たとえば、ある程度分析された情報を好む人もいれば、解釈の入っていないプレーンな情報を好む人もいます。
ですから、初見の相手の場合は難しい場合もありますが、最適な伝え方を選択するためにも、相手がどこまで情報を持っていて、どういう情報をほしがっているかということを、事前にリサーチしておくことが大切になります。
また、その際、相手がどんなシーンで情報を確認するかという点にも配慮するとよいでしょう。移動中にスマホで確認することが多いのであれば、スマホで見やすいツールを選ぶべきですし、電話ではなく、対面でのコミュニケーションを好む相手であれば、口頭で伝えるのがベストです。
③相手に考える負担をかける
3つ目は、相手に考える負担をかけることです。これは一見、①②のコツと矛盾するような内容に見えます。
これまでは、ノイズをできるだけ少なくしよう、ストレスを減らそうということをお伝えしてきましたが、あえて「相手に負担をかけよう」とすることには理由があります。
なぜなら、人は、自分で考えて決断したほうが納得感を得られると同時に、その決定の効果が持続しやすいからです。
これは、部下との1on1ミーティングなどでも使われる手法ですが、「Aがベストな方法だから、Aで進めてください」というのではなく、「AとBという選択肢があって、私はAがよいと考えていますが、あなたはどちらがよいと思いますか」と問いかけるイメージです。
「私はAがよいと考えていますが」というのは、場合によっては「誘導」とも取られかねないため、単純な問いかけでも構いません。ただ、人は何かを判断する際、他者の意見を参考にすることが多く、「自分の考え」+「問いかけ」というセットで提案するほうが、交渉ごとにおいては、こちらの意図が伝わりやすいと私は思います。
人と人のコミュニケーションも変わるタイミング
以上、今回は、「伝え方」について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。
私は長らく「広告」の仕事に従事してきました。その中で、重要なことに1つ気づきました。
いわゆる「マス広告」というのは、一番「粗い」伝達手段であるということです。今でこそ、さまざまなターゲットに対して最適な情報を届ける技術が発達してきましたが、かつては不特定多数を相手に、大量の情報を発信する以外に方法がありませんでした。
しかし、「インターネット広告」が登場し、ルールが一変しました。高度な技術を駆使して、情報を求めているターゲットに、最適なタイミングで広告を届ける手法が開発されたのです。私は、その進化の過程を身をもって体験することができました。
現在、「インターネット広告」はさまざまなタッチポイントごとに、相手によってパーソナライゼーションされ、最適な伝え方を選択し、よりコンバージョン率の高い運用を目指すようになっています。
その経験から、人と広告のコミュニケーションと同じように、人と人のコミュニケーションも変わるタイミングだと感じました。今回ご紹介したように、「相手のロジックで考える」ことが大切であり、相手の価値基準を理解したうえでコミュニケーションを行うことがポイントになります。
最後に
私がCEOを務めるマップボックス・ジャパンは、先日、地図サービス事業者7社が参画する「マップアドネットワーク」を発表しました。前回のnoteに詳しく書かせていただいたとおりです。
このネットワークが目指すものは、まさに今回書いたnoteのように「相手のロジックで考える」ことができるマップです。
「情報価値」と「編集価値」を見極めて、しっかりと「伝える」ことのできる広告とは何かについて考えてます。もし、お時間あるときにお読みいただければ幸いです。
では、また次回。