「オープンデータ×地図」の可能性──NHK、新聞社、国・自治体のケーススタディに学ぶ
この記事を読んだとき、「これこそ地図の活用法だ!」と嬉しくなって、すぐにツイッターでもご紹介しました。
書き手はNHKの記者の方で、もともとはガラケーしか使えない「極度のデジタル音痴」だったそうです。
それにもかかわらず、「『浸水リスクエリア』に居住する人が(なぜか)増えているのではないか?」と感じたことをきっかけに、デジタル地図の領域へと一歩踏み出すことになります。
最初は、ハザードマップを印刷して、付箋を貼ってとやってみるのですが、膨大なデータを紙の上で処理するのは不可能だということに気づきます。
紆余曲折あって、ご本人曰く「地図にデータを重ねあわせて分析できる便利なやつ」である「GIS」にたどり着くというストーリーです。この記事には、
オープンデータの活用
データ分析の6段階を提示
GISを活用することで働き方が変わる
といったたくさんの気づきがありますが、中でも「オープンデータの活用」というのは、今後ますます重要になってくるポイントだと私は考えています。
「みえない交差点」──47都道府県、68万件の事故情報を分析
「オープンデータの活用」で情報に付加価値をつけて、ユーザーが「生活の知恵」に変換するチャレンジは、ここ数年でぐんと広がりを見せています。
朝日新聞「みえない交差点」は、警察庁が公開している「交通事故統計情報のオープンデータ」をベースに、独自に取材した内容を地図上にプロットした取り組みです。(マップボックスの技術を採用いただきました)
もともと公開されていたのは、2019年と2020年の、約68万件の人身事故のデータです。おそらくデータだけ見ても、何のことだかわからない方が大半だと思います。そもそも、警察庁のデータにアクセスする人は少数派でしょう。
そこで朝日新聞は独自に分析を開始します。最終的に、年間6件以上の事故が発生している78カ所をまとめ、地図上にプロットしました。ここまでの分析・可視化がなされたからこそ、読者は自分ごととして事故情報を捉え、生活の知恵として役立てられるようになったのです。
このことは、フレームワークの1つ「DIKWプラミッド」で説明するとわかりやすいかもしれません。
警察庁の「データ」だけでは不十分です。そこで「年間6件以上の事故が発生している78カ所をまとめ、地図上にプロット」することで「情報(インフォメーション)」となり、読者が自分ごととして捉えられる「知識(ナレッジ)」となり、最終的には多くの人が交通事故を避けるための「知恵(ウィズダム)」となるのです。
オープンデータ、集合知は「地図」に集まる
公開されている「データ」、あるいは有志によって集められた「情報」を地図上にプロットして、「知識」や「知恵」に変換している事例は他にもたくさんあります。
日経新聞の震災報道「『逃げっぺし『10年目の証言 南三陸の3.11」は、地図上に、震災発生から復興までを時系列でプロットすることで、津波の記憶と復興への思いを表現しています。
サイトに掲載されているのは、自治体や個人の方から提供された写真、そして被災された方々の生の声──。
こうした形にまとめることで、お一人お一人のご経験が、未来への警鐘であったり、希望という形で提示されることになっていると私は感じています。
また、こちらの「sinsai.info」も、震災発生後すぐに有志の方々によって立ち上げられたサイトです。さまざまな情報が地図上に集約されることで、被災地を支援する活動へとつながっていきました。
ウクライナ各地のカメラを地図上にプロットして、現地の様子を確認できるようにしたサイトもあります。
事故や災害といった例以外にも、名古屋テレビ放送が開局60年を記念して作成した「あなたのマチの秘蔵映像」というサイトがあります。
上記のように、東海三県(愛知、岐阜、三重)のニュース映像を地図上にプロットすることで、放送エリアの方々は、自分たちの住んでいる地域のこれまでの歩みを懐かしむことが可能になりました。テレビ局が保有するアーカイブを地図上にプロットすることで、「懐かしさ」や「愛着」を感じるサービスに展開する好例です。
名古屋テレビ放送がこうしたチャレンジをしなければ、アーカイブ情報は、倉庫、あるいはPCの中に保存されているだけの「データ」に過ぎませんでしたが、地図にプロットすることで、新たな価値が生まれることになりました。
もちろん、毎日地図上で表現すれば、そこには「懐かしむ」ではなく、「今を知る」という価値が追加され、重層的に価値を積み上げていくことも可能になります。
防災や都市計画に利用される「3Dマップ」
情報を地図上にプロットすることで、価値を創造したり、知恵に変換するというチャレンジは、技術の発達によって、より容易に、かつより精度高く行なえるようになってきました。
私と同じくらいの年齢の方であれば、ここ数十年で、ゲームのプレイ画面が二次元から三次元(3D)へと劇的に変化してきた過程を肌で感じていらっしゃることでしょう。3Dというのは、二次元に比べ、情報量が多く、地面から上空を見上げたり、鳥瞰図的な視点、奥行きといったことまで表現可能です。
そうした技術は、シミュレーション分野、たとえば防災や都市計画といった分野に応用されはじめています。
その1つが、国土交通省の取り組みである現実の都市をサイバー空間に再現した3D地図「PLATATEAU」(プラトー)です。地形や建物の高さを反映した3D地図には、建築物の名称や高さなどの属性情報が付加されています。
プラトーというチャレンジの本質は、国が率先して「3次元の基盤を作った」ことにあると私は考えています。つまり「ショーケース」としての役割があり、国が最初の一回転目、「3Dデータはこうやって活用する」という「規格」を作ったことに大きな意味があるということです。
そうすることで、次に続く自治体や民間企業が取り組みやすいようになり、オープンデータの活用を促す効果があります。
また、東京都が取り組む「デジタルツイン実現プロジェクト」も、産学官が一体となり、デジタルツインによる課題解決や都民のQOL向上を目指しています。
データ分析で見落とされがちな「頻度(鮮度)」
もう少しデータの話を続けたいと思います。
「ビッグデータ」という言葉が人口に膾炙してずいぶん経ちますが、データは、「Variety(種類)」「Volume(量)」が重要であると同時に、「Velocity(頻度)」という要素がかなり重要になってきます。データというものは取得した瞬間から「過去」になるからです。
たとえば、天気の情報でいえば、「今雨が降っている」というデータは、取得した途端に、「1秒前には雨が降っていた」という「過去の情報」になります。
天気の情報は、頻度(「鮮度」と言ってもよいでしょう)が重要なものの筆頭です。1年前は雨だったかどうかを知りたい人はあまりいません。気候変動など長期スパンでの分析が必要な研究分野でもない限り、多くの人にとっては「今降っているのか」「これから降るのか」といったことが大きな関心事だからです。
これは位置情報でも同じで、今、渋谷にいる人に「今日のランチにおすすめのお店があります!」という情報提供には意味がありますが、1日前の位置情報を分析して「昨日、渋谷にいらっしゃいましたが、渋谷のお店を紹介します!」といって広告を表示させてもあまり意味がないということです。
そして、この頻度(鮮度)を高めることができると、最終的には「Variety(種類)」や「Volume(量)」といった領域とイコールになる。つまり、頻度を満たすことができると、自ずと種類や量も獲得できるようになる傾向にあります。たとえば、インターネット上のQ &Aサイトは数多くありますが、「ヤフー知恵袋」が圧倒的なシェアをとっているのもそのためです。
ビッグデータと時代においては、データを集めるセンサーが増え、膨大なデータを集められるようになりました。それは同時に、処理しなければならないデータも膨大になったということです。
そして、地図を使った分析、あるいはサービスは、通常のウェブサービスに比べて、処理しなければならない情報量が断然多いのです(冒頭のNHKの記者の方が、紙の地図上に付箋を貼る作業に挫折して、デジタル地図に切り替えたのもそのためです)。
例えばGPSの情報を5秒おきにとった場合、1日は24時間(8万6400秒)ですから、1万7280ものデータが集まることになります。もし、1億人のデータを取得するなら、その1億倍のデータを処理しなければならないわけです。
つまり、地図、あるいは位置情報を触るときは、膨大な量のデータ、刻々と更新されるデータをどうさばくかが重要なポイントです。
「オープンデータ×地図」には高い公共性がある
ここまで、NHK、朝日新聞、日経新聞、名古屋テレビ放送、国土交通省、東京都などの最新の地図活用についてをまとめました。ここに並ぶ名前からわかるように、「オープンデータ×地図」には高い公共性があります。今後、ますますニーズが高まる領域だと私は思っています。
最後にPRをさせてください。
そうした取り組みを支える技術を提供するのが、私たちマップボックス・ジャパンだと考えています。マップボックスの技術は、そうした「Variety(種類)」「Volume(量)」のあるデータを、高い「Velocity(頻度)」で地図上にプロットする機能に優れています。
「データ」を地図上にプロットすることで「情報(インフォメーション)」となり、自分ごととして捉えられる「知識(ナレッジ)」となり、最終的には多くの人にとっての「知恵(ウィズダム)」となる。
ここまでご紹介したような全国メディアからローカルメディア、国や地方自治体まで、日々の発信で貴重な情報のストックを積み上げている皆様にとって、地図は読者や視聴者、市民との距離を縮める一つの方法だと考えています。そのデータや情報に、新たな価値や用途を生み出すことができます。
「オープンデータ×地図の活用に興味がわいた!」という皆様、ぜひご連絡をお待ちしております。