「車✕生成AI」で地図が果たす役割
いま、自動車業界では、「EV」「AI」、そして「自動運転」等々、さまざまなイノベーションが起きつつあります。EVといえば「テスラ」が有名ではありますが、日本企業もさまざまな取り組みを展開しています。
トヨタ
日産
ホンダ
私自身、次に大きな技術革新が起こる分野の1つは「車」だと思っていますし、デジタル地図のプラットフォームを提供するマップボックスも「車」業界に向け、さまざまなソリューションを開発しているところです。
毎年3万〜4万人が参加する「SoftBank World」。今年はマップボックスのグローバルCEOとCTOが「AIがもたらすデジタル地図の未来」をテーマに講演しましたが、一大トピックスは「車」でした。
そして、その数週間前には「コネクテッドカーとアプリ向けAI地図の開発を加速」させることを念頭に、ソフトバンクグループから2億8000万ドルの資金調達を実施しました。
「移動」と「生成AI」は相性がいい
ここで思い出していただきたいのが、4月に投稿したnoteの記事「生成AIを『4象限』で理解する」に掲げた次の図表です。
走り書きのメモで、何が書いてあるかよくわからないと思いますが、横軸の左右は「停止」「移動」、縦軸の上下を「耳+口」「手+目」としたマトリックスになっています。
結論からいえば、左上の第1象限こそが、ChatGPTをはじめとする「生成AI」ともっとも相性のいい領域だと私は考えています。想定しているシーンは、「車」を運転している最中や、歩いて移動している最中等になります。
「車」でも徒歩でも、移動中はデバイスを注視するのは難しく、かつ危険です。そこで役に立つのが「耳と口」を使ったコミュニケーションです。
「車」でいえば、そうしたコミュニケーションの起点となるのは「カーナビ」であり、徒歩の場合は、「Siri」のような音声アシスタントになるでしょう。そして、そのコミュニケーションを裏で支える技術が、ChatGPTをはじめとする「生成AI」。ということで、現在マップボックスが開発に力を入れているのが、ソリューションの1つが「MapGPT」です。
未来の車「次世代型運転アシスタント」とは?
さきほど、第1象限のコミュニケーションの起点となるものの1つとして、「『Siri』のような音声アシスタント」とお伝えしましたが、これから車に搭載されていく「次世代型の運転アシスタント」と「Siri」の果たす役割はまったく違います。もっとも大きな違いは、「情報の入手経路」です 。
既存の音声アシスタントは、人が話しかけることで「反応」します。つまり、人の音声をキャッチして、最適だと思われるリアクションをするのが一般的です。
一方、「MapGPT」をはじめとする次世代型運転アシスタントがキャッチする情報は「音声」だけではありません。あえて「次世代型音声アシスタント」ではなく、「次世代型運転アシスタント」と表現したのはそのためです。
たとえば、ドライブレコーダーのカメラの情報、対象物までの距離や形等を把握するのに役立つLiDARセンサーをはじめとするセンサー類の情報、ハンドルやブレーキ操作の情報、車内温度や湿度といった、車にかかわる情報はすべて「次世代型運転アシスタント」の情報源となるでしょう。
技術が進化すれば、運転席に座ってハンドルを握っただけで体温、心拍数をはじめとする情報を「次世代型運転アシスタント」が入手し、「体調」まで気遣ってくれるような時代がくるかもしれません。音声(口と耳)だけだった情報源が、だんだんと「目」(視覚)や「手」(触覚)まで広がっていくイメージです。
近未来には次のようなことが日常的に行なわれるようになっているのではないでしょうか。(私の仮説や妄想を含んでいます)
イメージとしては、1人1台、自分専用の「運転手」兼「秘書」付きタクシーを所有して、生活するような感じです。
さらに、完全自動運転が実現すれば、車と信号機が勝手にコミュニケーションして、最適なタイミングで信号を切り替えてくれたり、車の中で新作映画を観たり、ゲームを楽しんだり、移動しながら打ち合わせをしたり、週末、車の中で眠っているだけで観光地まで運んでくれるみたいな世界になっていくのではないでしょうか。
人手不足も、多言語コミュニケーションも、安全運行も、AIが解決する!?
イメージしやすいように、BtoC分野の話題を先にお伝えしましたが、BtoB分野のほうが実用化は早いかもしれません。たとえば、AI技術が進化することで、人手不足が深刻化する公共交通機関の運転手問題を解決できるのではないでしょうか。
バスやタクシーの運転には、長年の経験、熟練の技が必要になりますが、「MapGPT」のような次世代型音声アシスタントが発車時の確認事項、時速、注意点等を細かくアドバイスしてくれるなら、経験の浅い人でも安全に運転できる可能性がアップし、担い手が増えるかもしれません。
さらに、自動運転技術の進化のフェーズによって、タクシーやバスの役割も変わってくるかもしれません。
たとえば、完全自動運転が実現するまでは、運転を機械に任せながらも、万が一の場合に対応できるように、「人」が横に座っておく必要があります。そうしたフェーズにおいては、基本的な運転は機械に任せて、乗務員は顧客へのサービスに徹することができるようになるでしょう。また、バスやタクシーの座席にAIを搭載した多言語対応のデバイスを取り付ければ、海外からの観光客も安心して乗車できるようになります。
その次のフェーズ、すなわち完全自動運転が実現すると、タクシーやバスは「無人」になりますから、タクシー会社やバス会社は、観光案内や穴場スポットの紹介を含む「顧客体験」に重きを置いたサービスを展開するようになっていく可能性もありそうです。
生成AI、自動運転技術の進化フェーズによって、サービスの本質が変化するのは公共交通機関だけでなく、宅配業界も同じかもしれません。
近い将来においては、再配達含め、最適な経路を提案してくれる次世代型運転アシスタントを搭載したカーナビが開発・普及すれば、ラストワンマイルを担っている郵便、宅配業、フードデリバリーに従事している方々の負担が確実に軽減されそうです。そして、そのあと、完全自動運転が実現すれば、配達+αの「何か」に価値の源泉が移行し、新たなサービスが生まれるような気もします。
いま、日本では2024問題をはじめとして、働き手不足へ対応が喫緊の課題となっていますが、それらを解決するための重要なピースの1つは、自動車業界が起こすイノベーションなのは間違いなさそうです。