子育てコミュニティのための「地図」をみんなでつくる──「iiba」の目指す未来とは?
今回は、株式会社iiba代表の逢澤奈菜(あいざわ・なな)さんへのインタビューのような対談をお送りします。「iiba」は、子育てお出かけマップのアプリを提供しており、週刊東洋経済「すごいベンチャー100」や日経クロストレンド「未来の市場をつくる100社」に選出され、「EY Innovative Startup 2024」 を受賞するなど、最も勢いのあるスタートアップの1つです。なぜ地図から始まったのか? iibaが目指すものは何か? 逢澤さんのお話には、起業を目指す人が持つべき心構えやビジネスのヒントがあります。(高田徹)
「iiba」はプッシュ型でユーザーに提供できる
高田:最初に、「iiba(イイバ)」がどのようなアプリかを教えていただけますか。
逢澤:「iiba」は、「子育てをもっと楽しく、便利にする」ためのサービスです。スマートフォンのアプリは、遊び場や飲食店、授乳室やトイレに至るまで、子連れに”いい場所”をマップ上で発見できる機能があります。また、たとえばママ・パパのユーザーが子どもと訪れて「良かった」と思った場所や情報を「iiba」でシェアすることができます。
高田:なぜ「iiba」を始めようと思ったのか、起業のきっかけも教えてください。
逢澤:私自身が子ども2人を育てるなかで、「もっとこうだったら便利なのに」と思ったことがきっかけです。休日にどこかへ出かけようと思ったとき、”子連れ目線”でみると情報がぜんぜん足りないんですよね。ママ・パパは、InstagramやGoogleマップ、個人ブログなどを検索しながら欲しい情報を探している人がほとんどだと思いますが、1つにまとまっていないのですごく時間がかかるんです。
高田:たとえば、どういうことが大変ですか?
逢澤:子どもの年齢によって必要な情報が違います。ベビーカーに乗っているなら、エレベーターがあるか、あるならどこにあるのかという情報が必要です。トイレなら、そこにあるかどうかだけではなく、トイレがきれいかどうかがママ・パパには重要なんです。授乳やおむつ替えといったことがありますので。
高田:たしかに、そういう情報を探そうとすると、検索していろんなページを見て探すことになるので、とても時間がかかりそうですね。そうした情報集約の場所として「地図」を選ばれたのはなぜでしょうか?
逢澤:これも私の経験ですが、子育てするようになってから地図アプリを開く回数が多かったんですよね。子育てしているとわかる実感ですが、子どもがいると場所への”アクセス”だったり”近さ”が大事なんです。Googleマップをよく使うわりには、そこに必要な情報が集約されていないところにチャンスを感じました。
ほかにも、位置情報サービスをつくる技術的なハードルが下がっているタイミングだなと感じていたこともありますし、Mapbox Japanさんとの出会いも1つのきっかけになりました。Googleマップはマス向けなので、どうしても情報がプル型になります。「iiba」は子育てに関連する情報に特化しているのでプッシュ型でユーザーに提供できるところが、いちばん大きなポイントですね。
子育てコミュニティにとって良い地図をつくる
逢澤:実際に数万人のユーザーに使っていただいてまして、平均のエンゲージメントが1日10分を超えてます。これだけ熱心に使っていただけるアプリはなかなかないと思いますし、めちゃくちゃ見ていただいていることは日々、実感しますね。
高田:なかなか高いエンゲージメント率ですね。これまでのママ・パパユーザーが検索などを駆使して、いろんなWebサイトから情報を探していたところを、「iiba」がワンストップで情報提供できているからかもしれませんね。
とても順調に見えますが、特に課題に感じていることなどはありますか?
逢澤:プロダクトは、まだまだ理想とはほど遠いです。歯がゆい思いで毎日を過ごしています。地図に関するユーザーさんからのフィードバックは意外と多いんですよね。課題というか、もっと機能を充実させたいことはたくさんあります。
たとえば、もっとユーザーのデータを活用してオススメを表示させることによって”回遊率”を上げたいです。「最近は公園に行く回数が多かったので、たまには水族館を訪れてみるのはどうですか?」など、もっとプッシュ型で情報を出していきたいですね。
情報の充実という点では、たとえば建物の中、地下鉄の駅のエレベーターがどこにあるのかなど、もう一歩踏み込んだ情報があるとベビーカーを押すママ・パパがアクセスがしやすくなります。
高田:Mapboxを使っていただいているなかに、「iiba」に近いアプローチをしている車椅子ユーザ向けのバリアフリーマップ「Wheelmap(ホイールマップ)」があります。
レストランやお店、駅や博物館などさまざまな施設に車椅子のアクセシビリティ評価を付けることができる地図です。スポットの写真を追加したり、コメントすることもできます。エレベーターの情報など子育てコミュニティにとって便利な情報を集約する地図、ぜひ実現したいですね。
なぜインフルエンサーの方々は「iiba」に協力してくれた?
高田:「iiba」のアプリは2023年10月10日にリリースされてますが、たくさんの「おでかけママインフルエンサー」に協力してもらい、情報を提供してもらったと書かれていました。まったく知名度のないところからインフルエンサーの方々に協力してもらうのは、むずかしいようにも思えるのですが、どのように実現されたのですか?
逢澤:アプリをつくる前から、私自身がこれからサービスを立ち上げるにあたって、「Instagramでマーケティングの勉強をしたほうがいいな」と思い、「iiba」のアカウントを1人で運用していました。うまく1万人ぐらいまでフォロワーが伸び、そこで「お出かけマップをつくりたいんです」と言い続けました。
ちょうど「おでかけママインフルエンサー」という方々のアカウントが伸びている時期で、「この人はこれから伸びそうだな」というアカウントと少しづつコンタクトを取りながら、うまく「iiba」の良いポジションが取れたのだと思います。基本的には、インフルエンサーのお一人お一人と丁寧にコミュニケーションすること以外にコツはないです。
高田:「おでかけママインフルエンサー」はどれぐらいいらっしゃるのですか?
逢澤:最初は11名の方々とスターとしましたが、今は100名を超えるインフルエンサーを巻き込んでいます。
高田:すごいですね。たくさんのインフルエンサーの方々が「iiba」の地図づくりに協力してくれるわけですね。
逢澤:インフルエンサーの方々にも「こういうサービスが欲しかった」と言っていただけています。いちばん良いのは、インフルエンサーさんが「iibaにお出かけスポットをアップしました」とシェアすると、Instagramのフォロワーの方々がめちゃくちゃ喜んでくれてエンゲージメントが上がるんですね。まさにWin-Winの関係を築けています。
高田:インフルエンサーの方々やママ・パパユーザーのみなさんといっしょに地図をつくっていくことで、「iiba」というコミュニティに一体感が生まれていますね。地図が子育てコミュニティの媒介になっているのは、デジタル地図開発プラットフォームのCEOとしても、とても嬉しいことです。
ビジネス、ガバメントをつなげるプラットフォーム
高田:TBSとの協業で「AKASAKAあそび!学び!フェスタ」(2024年3月29日~31日)の企画や集客に「iiba」が活躍したというnoteを読ませていただきました。「iiba」がアプリにとどまらない活躍をされていることに驚いたのですが、なぜこうしたチャレンジをされていらっしゃるのですか?
逢澤:イベントでは、iibaアンバサダー(インフルエンサー)の方々の協力でInstagramリールを作成し、56.2万リーチを獲得して集客に貢献しました。こうした活動をなぜ行っているかといいますと、「iiba」は子育てするママ・パパコミュニティにとってのプラットフォームだと捉えています。
なにもしなければ、TBSという企業と子育てするコミュニティがつながることは、なかなかむずかしい。そこでプラットフォームとして「iiba」が協力することによって、親子にあそびながら学んでもらいたいとコンテンツをつくったTBSの思いと、子育てコミュニティがつながることができます。そうした価値を提供することは、「iiba」の役割の1つだと考えています。
喜んでいただけたのはTBSのご担当者だけではなく、実はインフルエンサーの方々も同じです。個人で活動していると、なかなか企業の方とつながることは少ないので、「iibaがつなげてくれた」と逆に感謝されました。
高田:面白いお話ですね!アプリでは地図で子育てコミュニティが横でつながり、イベントでは企業とつながる。「iiba」が目指すプラットフォームの姿が見えてきたように思います。
今後の事業についても聞きたいのですが、「iiba」はどのようなビジネスモデルになるのでしょうか?
逢澤:現在は無料アプリですが、今後は広告やユーザーへの課金(ToC)、また今回のイベントのようにToBを拡大していきたいと考えています。さらにはToG(To Government:ガバメント)への展開など、複数のキャッシュポイントで収益を得る構造にしていくつもりです。
高田:ビジネスだけではなく、ガバメント(行政)まで広がるのですね!
逢澤:まだ構想の段階ですが、子育ての情報のなかでも、保育園や学校の情報はとても重要です。いま保育園に空きがあるのか、どこの地域だとどの小学校になるのか、学校の評判はどうなのかなど、そうした情報を「iiba」に集約できたらと考えています。
高田: 公共データの活用や促進は地図データでも行われていますが、「オープンデータ」は政府や地方自治体がチカラを入れているところです。「iiba」のような民間の企業が、公共サービスではカバーしきれない地域の住民や子育てコミュニティの細やかなニーズを受けてサービスを提供する流れ。とてもイメージできました。ここでもガバメントと子育てコミュニティとをつなげる役割が「iiba」にあるわけですね。
ポイント機能から、Web3「トークンエコノミー」へ
高田: 2024年2月にポイント機能をリリースされましたが、サービスとしてはかなり早い段階での実装に感じました。どういった意図になるのでしょうか。
逢澤:会社のWebサイトに書いてある通り、「iiba」はWeb3のトークンエコノミーを目指したいと考えています。
「iiba」は、ユーザーの方々が参加していただきながら、みんなでつくるプラットフォームです。子育てをするママ・パパだから重要な情報がありますし、このコミュニティにしか持ち得ない価値基準があります。将来的には、このコミュニティにとって何が重要なのかの評価軸のようなものもつくっていきたいと考えており、そうした評価に基づく独自通貨(トークン)をつくりたいという構想があります。
ポイント機能はそうした将来を見据えて、ユーザーがWeb3的な価値観に慣れていただくために導入しました。現在の「iiba」はボランティアベースで投稿が活発になされているので、ポイントがあることでポイ活のようにただ稼ぐためだけに投稿する人が出てくる可能性もあり、UGC(User Generated Content:ユーザー生成コンテンツ)にとっては非常にむずかしい面もありますので、慎重に進めていこうと思います。
高田: Web3的な分散型で何かをつくっていこうという発想は、地図ととても相性がいいと思いますね。以前に「Web3と地図」をテーマにnoteを書いたのですが、みんなで地図をつくるといった「集合知」的な取り組みにトークンエコノミーは向いていますね。
逢澤:Web3の考え方や概念は、私もすごく好きなので、子育てインフラ構築にうまく活かしていきたいと思います。
(了)