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DX再考 #18 デジタル・ディスラプション

デジタル・ディスラプションの構図

 デジタル・ディスラプション(Digital Disruption)とは、デジタル技術の発展・普及によってもたらされるイノベーションによって、既存の商品・サービス、ビジネス、産業が破壊される現象である。
 すでに起きたデジタル・ディスラプションの例で言えば、デジタルカメラの進歩と普及によって、銀塩フィルムを使った写真関連産業は、ほぼ壊滅してしまった。通常の写真用フィルムの市場だけでなく、フィルムを使ったカメラの市場、フィルムの現像・焼付け・引き伸ばしという市場(いわゆるDPE市場)が大打撃を受けた。20世紀の末、あるいは21世紀初頭には「DPE」と書いた看板を出している店が街のあちこちにあったのに、2010年にはすっかり姿を消してしまった。
 
 こうした変化はさまざまな領域でみることができる。写真フィルム産業はデジタルカメラによって破壊されたが、そのデジタルカメラ産業(とくにコンパクト・デジタルカメラ)は、カメラ付き携帯電話によって大打撃を受けている。
 以下の表は、デジタル技術の発展と普及が、どのような産業を破壊したか(あるいは破壊しつつあるか)を表にまとめたものである。

出典:筆者作成

カラー写真フィルム市場

 せっかくなので、少し写真フィルム産業がどのように破壊されたかを簡単に振り返っておこう。
 まず、カラーフィルムの市場の変化をグラフで示す。

出典:富士フイルムホールディングスの株主・投資家向けWebページ「富士フイルムの強み」    (https://ir.fujifilm.com/ja/investors/individual/strength.html)

 このグラフは富士フイルムホールディングス株式会社のIR資料からの引用であるが、2000年をピークにして10年間で市場は約20分の1に縮小したことがわかる。
 富士フイルムは、創業から20世紀末まで銀塩フィルムとフィルムカメラなど写真事業が主力事業であり、写真関連事業が売上高の6〜7割を占めていた時期もある。国内の写真フィルム市場のシェアは、約7割もあった。
 ちなみに世界の写真フィルム市場は、1990年年代中頃でみれば、米国のイーストマン・コダック(Eastman Kodak Company)が約半分%、富士フイルムが約4分の1、欧州のAGFAが約15%、コニカが約1割であった。
 当然、写真フィルム市場の急速な縮小は、こうした企業の経営の甚大な影響を与えた。
 ちなみに、コダックはデジタル化への対応が遅れて2012年に経営破綻したという通説があるが、これは半分正しくて、半分は間違いである。コダックのデジタル化への対応の失敗については、後で少し詳しく解説したい。

富士フイルムのデジカメ開発

 富士フイルムの歴史をみると、デジタル化が写真フィルム事業に大きな影響を与えるであろうと予測していたことがわかる。富士フイルムは、1977年に中央研究所でデジタルカメラの研究に着手しているからである。
 1981年には、デジタルカメラの網膜に相当するCCD(電荷結合素子)の研究のために、足柄研究所に「マイクロエレクトロニクス研究室」を設置している。ちょうどソニーが電子スチルビデオカメラ「マビカ」を発表した年である。ちなみに、電子スチルビデオカメラは、現在のデジタルカメラと同じようにCCDイメージセンサを用いて静止画像を電気信号に変換しているのだが、デジカメがデジタル記録をしているのに対して、マビカはアナログ記録(FM記録)しているため、デジタルカメラとはみなされない。

 富士フイルムは1985年、デジタルカメラの開発と事業化を加速するため、電子映像事業本部を設置し、1988年には非売品ながらデジタルカメラ FUJIX DS-1Pを開発している。そしてその翌年に世界で初めて市販されたデジタルカメラFUJIX DS-Xを発表している。価格は130万円であった。
 さらに1991年には、本体価格68万円の一眼レフデジタルカメラ FUJIX DS-100を発売している。このデジタルカメラは、30万画素、3倍ズームレンズを装備しており、記録媒体はメモリーカードであった。 1990年代半ばからデジタルカメラの競争が激しくなってくる。まず、1995年にカシオが25万画素、2MBのフラッシュメモリ(96枚保存可能)で価格が65,000円のQV10を発売する。この翌年にはキヤノンがPowerShot 600を発表し、コンパクトデジタルカメラ市場に参入した。
 富士フイルムも1996年には35万画素で69,800円のDS-7を発売している。
 1998年には、150万画素のFinePix700を99,800円で発売し、メガピクセルカメラでは世界最小・最軽量のボディ(80x101x33mm、245g)と、高級感のあるアルミ合金の外装が消費者の受けて大ヒットした。さらに2000年には、自社開発したスーパーCCDハニカム(イメージセンサー)を搭載したFinePix4700Zを発売し、富士フイルムは、21世紀の初めには日本のデジタルカメラ市場の約4分の1を占めるトップ企業であった。


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