NCニュースの読み方 #23 「巨大プロジェクトの失敗と契約方式」 (2006年3月27日)
3月20日、米FBIは「センティネル(Sentinel)」と呼ばれている情報管理システムの開発プロジェクトの実施者として、ロッキード・マーチン社を選定したと発表した。FBIは90年代半ばから情報システムを刷新するプロジェクトをいくつも実施しており、このプロジェクトは、これまで紙ベースで扱われてきた犯罪捜査資料を電子化し、ウェブベースで簡単に検索・管理できるようにしようというものである。
センティネルの開発期間は6年間で費用は4.25億ドルだと報じられているのだが、果たして予定通りに完成するだろうか。そんな心配をするのは、このプロジェクトが、ちょうど一年前に開発を中断した「バーチャル・ケース・ファイル(VCF)」開発計画の後継プロジェクトだからである。VCFの開発は、2001年にSAIC社(Science Application International Corp.)によって始められ、1.7億ドルを浪費したあげく、2005年3月に中断された。
ソフトウェア開発の巨大プロジェクトが中止されることはそれほど珍しくない。メディアに報道されたものだけでも、世界中にいくつもある(表参照)。
報道されない中断プロジェクトもあるだろうし、スケジュールの大幅遅延や予算の大幅超過を招いたプロジェクトまで入れれば事例はもっと多くなる。たとえば、同じ米国政府の内国歳入庁(IRS)の情報システム近代化プロジェクトは、最長3年の遅延、予算超過額は2.5億ドルに達している。
巨大プロジェクト中断のニュースを調べていると、日本ではそうした事例が少ないことに気付く。日本のベンダーが優秀な証拠なのかもしれないが、契約方式の違いによる可能性が高いように思える。
日本では、ソフトウェア開発は、一括して定額契約(請負契約)で実施するケースが多い。この場合、ベンダーは予算が超過しても、少しでもコストを回収しようと、システムが動くまで頑張ることになる。この結果、10億円で引き受けた仕事で20億円の赤字を出したというような話をよく聞くことになる。(システム開発を一括発注していなかったため、システム開発を中断して50億円の特別損失を計上した東京ガスは希な事例である)
一方、米国ではプロジェクトによって様々な契約が行われている。例えば、実際に要したコストに適正な利潤を加えるタイプのコスト保証型の契約の場合、プロジェクトの進捗に応じて経費が支払われる。この場合(もちろん契約内容にもよるのだが)、プロジェクトが泥沼化すると、開発費は際限なく膨らむことになる。こうなると、発注者側がプロジェクトの中止を宣告するしか手はない。かくして中断される巨大プロジェクトが生まれるのである。
コスト保証型のように、プロジェクトが泥沼化した場合の経済的リスクを発注者側がすべて負う方式も望ましくないが、日本では一般的な定額の請負契約のように、リスクはほとんどベンダー側が負う方式も好ましいとは言えない。プロジェクトのリスクを発注者側とベンダー側がうまく分担しつつ、双方が協力して効率的にプロジェクトを進めるインセンティブが働くような契約方式を考えるべきなのではないだろうか。