NCニュースの読み方 #2 「住基ネット訴訟の判決をどう考えるべきか」 (2005年6月6日)
金沢地裁は5月30日、石川県民28人が住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)上の個人情報の削除と一人当たり22万円の損害賠償を求めた訴訟で、損害賠償は棄却したものの、原告の個人情報の削除を命じた。その翌日、名古屋地裁は「住基ネットが扱う住所や氏名などの情報は秘匿の必要性が高いとは言えず、プライバシ権を侵害しない」として個人の離脱を否定した。
両方の判決文を読み比べると、最大の相違点は、プライバシ権の解釈ではなく、住民票コードによる一元的な情報管理の可能性に関する考え方である。
金沢地裁は、「(住基ネットの利用によって)行政機関が持っている膨大な個人情報が、住民票コードを使って名寄せされる危険性が飛躍的に高まったというべき」とし、名寄せがなされると「住民個々人が行政機関の前で丸裸にされるが如き状態になる」と判断し、さらに「(経費節減効果が未知数であり)住基ネットが必要不可欠とまでは言えない」ため、「行政事務の効率化自体は正当な行政目的であるが、住基ネットが住民のプライバシの権利を犠牲にしてまで達成すべき高度の必要性があることについては、ただちにこれを肯定できない」とした。
一方、名古屋地裁は、住民票コードを使って検索することによって「ネットワークで結ばれているあらゆる行政機関が保有する情報を直ちに入手することができる状態」が実現すれば、「憲法13条に違反するとの疑い否定することはできない」とするものの、住基ネットの利用は限定されており、可能性が存在するだけでは住基ネットが憲法13条に違反するとは言えないと結論している。
公的なシステムについて議論することは重要だ。しかし、情報システムに対する理解を間違ったり、論点がずれてしまってはいけない。
システム理解の面では、個人情報に共通の番号を使えば個人の多面的な情報を瞬時に収集できる状況になる、という考え方は間違っている。住基ネット構築以前から、多くの市町村が住民基本台帳を電子化し、住民税などの税事務、国民健康保険事務、各種福祉事務などに活用している。それらに簡単にアクセスできれば、特定個人の情報を集めることは難しくない。重要なことは、そうしたシステムやデータへのアクセス管理が適切になされているかどうかだ。
金沢地裁の住基ネットの必要性に対する判断にも問題がある。そもそも住民基本台帳は、住民に関する事務処理の基礎であると同時に、住民の利便の増進と国および地方公共団体の行政の合理化を目的として整備されている。国と地方自治体が抱える700兆円を超える長期債務残高と少子高齢化問題を考えれば、行政事務の効率化は喫緊の課題であり、情報化は、その鍵となることに疑いの余地はない。兵庫県のように、独自の条例を定め、税事務や用事事務に住基ネットを利用し、住民の生存や住所確認の事務を効率化している例もある。
つまり国や地方自治体に要求すべきことは、住基ネットからの離脱ではなく、個人情報の適正な管理と、情報化による業務効率化と行政サービスの向上という結果ではないだろうか。