NCニュースの読み方 #20 「電子政府・電子自治体構築がもたらすもの」 (2006年2月13日)
電子政府・電子自治体構築は手段であって目的ではない。当たり前のことだが、2月2日に千葉県市川市で開催された「情報化シンポジウム・イン・市川」に参加して、改めて痛感した。
このシンポジウムのテーマは「市民の暮らしに役立つ電子自治体を目指して」。韓国ソウル特別市江南(カンナム)区副区庁長の金相敦氏が「電子自治体で世界をリードするソウル特別市江南区」という演題で、西宮市情報政策部長の吉田稔氏が「市民の暮らしに密着した自治体情報化~GIS(地理情報システム)で安全・安心を~」という演題で基調講演を行った。
西宮市の「用途地域図等照会システム」や市内地図案内サービス「道知る兵衛」などのGISも素晴らしいのだが、江南区の電子化の状況がすごい。
江南区は、面積40平方キロメートル、人口54万人、東京都で言えば杉並区と同程度の自治体なのだが、住民登録謄本などの34種類の証明書の交付が受けられる自動発行機が、すべての地下鉄の駅、主なデパート、銀行、病院、コンビニエンスストアなどに設置されている。この自動交付機によって交付された証明書類は2005年で59万件。また、2002年にはインターネット経由で14種類の証明書類の交付や閲覧が可能になったが、2005年には37万件の利用があったという。合計すれば、江南区が交付した証明書類200万件の約半分にもなる。当然、区役所の窓口は縮小できるし、住民は、区役所や出張所の窓口まで出かけなくても、24時間いつでも証明書類の交付を受けられる。ちなみに、住民が節約できる交通費や時間を金額に換算すると合計285億ウォンにもなるという。納税もインターネット経由で可能だ。2005年にはインターネット経由で3026億ウォンの税金がネット経由で納入されている。区の予算が4300億ウォンであることを考えると驚くべき数字である。
庁内の電子化も進んでいる。1999年には電子決済率100%を達成し、文書の作成から閲覧、保存まですべてが電子化されており、ペーパーレスの事務環境を実現しているという。これによって、文書保管スペースは10分の1に縮小できたという。
そして、この次に計画されているのが、インターネットの利用率が比較的低い中高年層をターゲットにしたテレビ電子政府システムである。双方向のデジタル放送技術を用い、住民に行政情報を提供するだけでなく、住民に対するアンケート調査や税金の納付、各種証明書の交付を実現する計画である。
こうした取組みの結果、江南区住民の電子サービスに対する満足度は、2000年の75%から2004年には92%へと上昇している。また、江南区の公務員の数は、1995年の2041名から2005年末には1307名へと36%も減少している。
日本でも電子政府、電子自治体の構築が進められているが、その成果はどこに現れているのだろう。住民の満足度が向上したという話も、公務員の数を大幅に削減できたという話も聞かない。くどいようだが、電子政府・電子自治体構築は手段であって目的ではない。2月6日号にも書いたが、行政の効率化や行政サービスの向上をもたらす情報化を進めていくべきである。