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ネットバブルの崩壊から得られた教訓  第3回 「勝ち組みの成功要因は何なのか」 (2004年)

 ネットバブル時代に多くのECサイトが目指したビジネスモデルが、薄利多売型のネット小売モデルでした。しかし、このビジネスモデルで成功したのは極めて限られています。ピュア・プレーヤーと呼ばれるネット専業の企業に限定すると、大成功したのはAmazon.comだけかもしれません。

 前回に説明したように、Amazon.comのような薄利多売型のビジネスモデルでは、資金が枯渇する前に、十分な数の顧客を獲得し利益を出せるかどうかが勝負の分かれ道になります。Amazon.comの場合も、1995年7月にビジネスを開始してから2001年の第3四半期まで、ずっと赤字決算が続いていました。2001年の初めには、ある投資銀行のアナリストによって、運転資金が枯渇する危険性があるというレポートが発表されたこともありました。しかし、2001年第4四半期の決算で黒字を記録した後、2003年にはついに通年での黒字を達成しました。

 この黒字は、単純に広告宣伝費に巨額の資金を投入して、知名度を上げることによって新たな顧客を獲得し、売上高を増やしていくという戦略によって得られたものではありません。Amazon.comは、その時々に応じて、機敏に戦略を変えてきているのです。

 まず、Amazon.comが取った戦略は、「既存マスメディア向けの広告とネット広告を駆使してブランドの認知度を上げて利用者数を増やすと同時に取扱品目も増やしていく」という戦略でした。つまり、ポータルサイトと提携したり、インターネットを含む様々なメディアに広告を出すことによって新しい顧客を獲得すると同時に、取扱商品を拡大するという戦略です。これは他のネット企業も同じような戦略をとっていましたから、目新しさはありません。

 しかし、1999年末くらいからAmazon.comの戦略は「世界中に知れ渡ったブランドと2000万人以上の顧客資産、蓄積した電子商取引技術から、いかにして利益を生み出す仕組みをつくるか」へと変化しました。たとえば、Amazon.comは2000年8月から自動車の新車販売を行うようになりましたが、これは他のドットコム企業との提携によるものです。また、玩具の販売についてはToysrusと提携して、玩具については自社で在庫を持たないビジネスモデルになりました。さらに2001年9月には、オンライン旅行サービスサイトのExpediaと提携して旅行サービスも扱うようになっています。利用者から見れば、従来と同じように商品やサービスを拡大する戦略に変化はないように見えるかもしれませんが、Amazon.comは、これらの提携企業からブランド使用料や販売手数料を徴収しているのです。

 Amazon.comはきめ細かな改善も実施しています。たとえば、どの商品の販売から損失(あるいは利益)が発生しているかを分析し、赤字の原因となっている商品の取扱いをやめたり、販売価格の引き上げを行っています。

 また、書籍の仕入れ先についても、可能な限り出版社から直接仕入れるという方針を変更して、取次からの仕入れを増やしています。取次からの仕入れ価格は、出版社からの仕入れ価格より高いのが普通ですから、仕入れ先を取次にするとコストが上昇するのではないかと思うかもしれません。しかし、出版社は取次店に比べて注文してから納品されるまでの時間が長く、かつ納品ミスも多いことが分かったのです。もし、納品に時間がかかるのであれば、在庫切れを起こさないように在庫量を増やさなければなりません。もし、納品ミスがあれば、予期せぬ在庫切れが発生するでしょう。したがって、取次店から仕入れた方が(多少コストは高くなるでしょうが)適正在庫量は少なくなり、予期せぬ在庫切れが発生する確率も小さくなって、収益にはプラスになるのです。

 この他、Amazon.comは配送のための梱包に手間のかかりすぎる商品や、配送中に壊れて返品されることの多い商品の取扱いをやめる、ウェブページのレイアウトを変更して利用者のトラブルを減少させる、広告宣伝費を削減してその分を一部書籍値引きキャンペーンに回して売上を増加させるなどの工夫を行っています。こうした取り組みの結果が、決算の黒字化につながったのです。

 Amazon.comの事例をみて分かるように、薄利多売型の電子店舗モデルが成功するためには、絶え間ない努力と工夫が必要とされます。

 ここでは詳細に説明ができませんが、Amazon.comのサイトには、インターネットの特性を活かした様々な工夫がされています。たとえば、読者による書評の掲載、柔軟性の高い検索システム、一度でも購入していれば二度目からは配達先や決済のためにクレジット・カード情報を入力しないで済むワン・クリック注文ボタン、一人ひとりの顧客の好みに合わせて商品を推薦する仕組み(リコメンデーション・システム)、Amazon.comが扱っている商品を自分のウェブを使って販売すると手数料がもらえる仕組み(アソシエイト・プログラム)、書籍の一部のページが閲覧できるサービス(ルック・インサイド)などは、いずれも絶え間ない創意工夫の産物ではないでしょうか。

 結局のところ、薄利多売を目指したネット企業で生き残ったのはAmazon.comなどわずかな企業だけで、インターネットを使えば、全国に、全世界に安く商品を販売できると安易に考えた企業は、そのほとんどが姿を消してしまいました。

 では、次回は、Amazon.com以外の勝ち組を紹介し、競争を勝ち抜く戦略について考えてみたいと思います。
 


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