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DX再考 #19 富士フイルムのDX
デジタルカメラ市場の競争激化
20年以上前のことなので覚えている人は少ないかもしれないが、富士フイルムは、世界のデジタルカメラ市場で2割以上のシェアを持っていた。具体的な数字を挙げれば、富士フイルムは、2000年頃には国内のデジタルカメラ市場で28%、世界市場でも23%のシェアを持っており、世界最大のデジタルカメラのメーカーであった
しかし、キヤノン、ニコン、オリンパスといったフィルムカメラを製造していた企業はもちろん、ソニー、パナソニック(当時は松下電器産業)、カシオといった企業がデジタルカメラ市場に参入し、デジタルカメラ市場の競争が激化していった。その結果、富士フイルムの世界のデジタルカメラ市場におけるシェアは、2005年には10%程度まで縮小してしまった。
おまけにデジタルカメラの市場は、2000年をピークにして10年間で20分の1に縮小した写真フィルム市場ほどの規模はない。つまり、富士フイルムにとって、デジタルカメラの市場は写真フィルム市場の代替になるものではなくなってしまった。
新事業の探索
かくして富士フイルムにおけるデジタル化対応改革の第1弾としてのデジタルカメラ開発は終わりをつげることになる。
おそらく富士フイルム社内では、デジタルカメラ事業は、その規模から考えて写真フィルム事業の代替にはならないことという共通認識があったにちがいない。その証拠に、富士フイルムでは2001年頃から新規事業領域の探索が始まっている。
具体的には、自社の持つ技術の棚卸し(保有技術の再確認)と市場ニーズとの突合が行われ、技術と市場の2次元マトリックスが作成された。ちなみに、技術は昔からの保有技術と最近の研究開発で得た技術に分けられている。
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p.138の図表7-5を元に作成
この体系的探索の結果、富士フイルムが選択した新規事業は、次の6分野であった。
ヘルスケア(画像診断用機器、機能性化粧品、医薬品など)
高機能材料(偏光板保護フィルム、センサーフィルムなど)
グラフィック・システム(デジタル印刷用機器、CTPなど)
光学デバイス(テレビカメラ用レンズ、カメラ用レンズ)
デジタルイメージング(画像センサー、画像処理、プリンタ)
ドキュメント(複合機、業務ソリューションなど)
化粧品事業への参入
この選ばれた新規事業のうち、化粧品事業を少し詳しく見てみよう。
新富士フイルムが化粧品事業に参入したのは2006年秋であり、主力商品の「アスタリフトシリーズ」の販売は2007年であった。
当時、化粧品市場は規制緩和によって参入企業が増加しており、数え方にもよるが、化粧品を製造している企業は2000社以上もあり、需要も飽和している典型的な成熟市場になっていた。にもかかわらず、富士フイルムが化粧品事業に参入したのはなぜだろうか。
それは、写真フィルム事業で蓄積した技術とノウハウを活かせば、差別化できる化粧品を開発できると考えていたからである。写真フィルムの主原料であるコラーゲンは肌のハリ弾力の元になる物質である。また、美しい写真を実現するためには、フィルムや印画紙の微粒子をコントロールする技術(ナノ技術)が必要であった。さらに写真の美しさを維持するため、写真の酸化を防止するための抗酸化技術を保有していた。
このナノ技術と抗酸化技術をつかってコラーゲンの機能を向上させることができると考えたのである。そこで着目したのは植物由来の天然成分で、活性酸素を消去する能力がある「アスタキサンチン」であった。
富士フイルムは、乳化分散グループの技術力を活かしてアスタキサンチンの微粒子化に成功し、ナノレベルの粒子を肌の奥に届けという化粧品を開発したのである。
新事業開発の結果
富士フイルムは、こうした新事業開発を進めることによって、写真フィルム関連事業に代わる収益源を育てることに成功した。以下のグラフは、2001年と2019年の富士フイルムのセグメント別売上高を見たものである。
![](https://assets.st-note.com/img/1676440524197-P5GEm7achR.png?width=1200)
決算年のよってセグメントの分け方が異なるために単純比較はできないのだが、写真フィルム関連事業が含まれていたイメージング・ソリューションの売上高の減少をヘルスケア&マテリアルズが補っていることがわかる。
世間では、デジタル技術を用いたイノベーションや組織改革がDX(デジタル・トランスフォーメーション)であると解釈されているが、デジタル化がもたらす変化に対応してビジネスを再編し、企業を変えていくこともDXだと考えれば、この富士フイルムの新事業開発もDXの成功事例の一つだと言えるのではないだろうか。