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「ITと企業経営」シリーズ 第2回 戦略情報システム(SIS) (2010年11月) 生産性新聞

 民間企業におけるコンピュータ利用は給与計算や会計処理から始まった。これは、初期のコンピュータが文字通り「計算機」で、数値計算が得意だったからだ。しかし、すぐに企業戦略の道具としても利用されるようになる。それが戦略情報システム(SIS)である。

 SISは、競合他社との差別化を図り、競争優位の源泉となる情報システムのことである。最もよく知られている成功事例は、アメリカン航空の座席予約システム「セイバー」だろう。セイバーは1957年に開発が始まり、65年にアメリカン航空の全座席の予約が可能なシステムとして完成した。この結果、従来、数十人が一日かかっていた事務は数分で処理可能となり、誤りの発生率は8%から1%以下に下がった。これによって人件費を削減すると同時に、予約ミスを想定して確保していた空席数を大幅に減らすことができた。さらに予約手続きの迅速化と予約ミスの減少は、顧客満足度の向上をもたらし、航空機の利用客はアメリカン航空を選ぶようになった。

 さらにセイバーはホテルやレンタカー、欧米の鉄道、他の航空会社などの予約システムと接続され、旅行代理店にとって、旅行客が必要とする予約のほとんどをカバーできる極めて利便性の高いシステムになった。有名な話であるが、航空機の予約画面にはアメリカン航空の便が優先して表示され、アメリカン航空の旅客シェアを高める工夫もされていた。これによって、旅行代理店と旅行客の囲い込みに成功した。

 成功事例をもう一つ紹介しよう。病院が必要とする種々の機器、薬剤、小物など約10万品目を取り扱うアメリカン・ホスピタル・サプライ(AHS)は、コスト削減と顧客サービス向上のために、74年にASAPというシステムを構築した。病院に置いた端末機から必要なものを発注できるシステムである。従来、病院を巡回するセールスマンは会社や営業所に戻ってから伝票を整理し、注文をコンピュータに入力していたが、ASAPによってこの事務処理は自動化され、かつ、入力ミスの削減によって受注・納品の正確性が高まった。また受注から納品までの時間が短縮され、適正在庫水準を下げることもできた。さらにこのシステムによって顧客である病院の囲い込みにも成功し、この結果、AHS社は10年間で売上を3.4倍に、利益を5倍以上に伸ばした。

 ASAPの成功要因は、単に競合他社より早くシステムを開発したことにあるのではない。ライバル企業も同様のシステムを構築したのだが、AHS社はシステムの改良を怠らなかった。初期のASAPは発注処理しかできなかったが、在庫確認機能や、病院における在庫管理機能、発注書の自動的作成機能などを次々に追加した。これはアメリカン航空のセイバーも同様である。他社より早く新しい情報システムを構築し、改善、改良を怠らない。それによって情報システムを競争力の源泉にしてきたのである。

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