NCニュースの読み方 #10 「Oracleの決算の向こうに見えるもの」 (2005年9月26日)
Oracleは9月22日、2006会計年度の第1四半期(2005年6~8月期)の決算を発表した。売上高は前年同期比25%増の27億6800万ドル、純益は2%増の5億1900万ドルであった。売上高の伸びに比べて純益の伸びが低いことが気になるかもしれないが、これは、研究開発費が1億ドル弱増加していることと、企業買収に伴う無形固定資産償却費として1億2300万ドルが計上されていることが主な原因である。
この決算の詳細を見ていて気付くことがいくつかある。まず、第1は、新規ライセンス収入が売上に占める割合がかなり縮小していることである。これは今期だけに見られるわけではなく、図表に示すように長期に渡って減少傾向が続いている。Oracleのパッケージソフトを継続利用する企業が支払う料金は、アップデート&サポート収入に計上されることを考えると、売上に占める新規ライセンス収入の割合が減少するのは当然のことである。しかし、今期は特に低い。
もう一つは、売上高を分野別にみると、アプリケーション分野が前年同期と比べて約2.2倍になっているのに対して、データベース&ミドルウェア分野は前年同期比6%増と伸び率が極めて低いことである。
これらの変化の最大の要因は、今年1月に完了したPeopleSoftとの合併である。Greg Maffei社長兼CFOも「この四半期は、PeopleSoftとの合併成功によって、特にアプリケーション分野が好調であった」とコメントしている。
周知のとおり、Oracleは最近、次々とアプリケーション分野の企業を買収している。ERP分野でOracleと2番手争いをしていたPeopleSoftを2年近い攻防の末、今年1月に買収を完了した後、3月にはSAPとの激しい争奪戦の末、小売向けソフトウェア専業のRetekを買収している。さらに7月には小売業の利益最適化ソリューションを提供しているProfitLogicの買収を発表し、9月にはCRM大手のSiebel Systemsの買収を発表している。
では、このOracleの買収戦略の加速は何を意味するのだろう。9月にサンフランシスコで開催されたOracle Open Worldにおいて創業者でCEOのLarry Ellisonは「買収による成長を継続する」と明言しているが、その理由については触れていない。
私は一つの仮説を持っている。それは「オープンソース・ソフトウェア(OSS)の普及によるパッケージ・ビジネスの崩壊」である。近年、Linuxの普及によって注目を集めているOSSであるが、最近は様々な分野でOSSが本格的普及の兆しを見せている。DBMSもその一つの分野である。たとえば米国ではTravelocityやSabre Holdingsが、日本では楽天や長崎県がMySQLを利用していることはよく知られている。日本ではMySQLよりPostgreSQLの利用の方が多いかもしれない。また、海外ではFirebirdの利用も多いという。
こうしたOSSの普及は、DBMSのパッケージ・ビジネスを破壊する。もちろん、ERPやCRMなどのアプリケーション分野にもOSSがないわけではない。しかし、まだDBMS分野ほどに成熟したOSSは登場しておらず、まだOSSはこの分野の脅威とはなっていない。OSS普及によって先のないデータベース・ミドルウェア分野より、アプリケーション分野の方が将来性がある。想像の域を超えていないが、Ellisonはそんなことを考えているのではないだろうか。