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NCニュースの読み方 #1 「佐賀市の電子自治体構築プロジェクトから学べ」 (2005年5月23日)

 2005年4月に佐賀市の新基幹行政システムが本稼動に入った。2003年に、オープンシステムを採用することとソースコードを開発企業と市の共同所有にすることを条件にコンペが行われ、韓国のサムスンSDSが落札したことで話題になったシステムである。

 この新基幹行政システムは、住民情報をベースに税や医療保険などの各種住民サービスを提供するシステムであり、こうした自治体の基幹システムをオープン系で海外企業が開発した事例はない。佐賀市の主な狙いは、オープンシステムの採用によるコスト削減(5年間で3億円の削減効果と発表)と、ソースコードを所有することによってシステムの運用・保守、改修を地元企業に発注して地元企業を育成すること、最先端の技術を導入することによって市民サービスを向上させることにある。

 このプロジェクトに関しては、日本の大手ITプロバイダの独壇場であった地方自治体の基幹システムの構築プロジェクトを韓国の企業が落札したことや、メインフレームではなくオープンシステムで構築したことが話題になっている。しかし、この事例において最も注目すべき点は、その開発手法にあるのではないか。従来であれば3年はかかると言われる基幹システムの開発をサムスンSDSは1年余りという短期間で終了しているだけでなく、この期間にサムスンSDSは開発工程を2回繰り返しているのである。

 そもそも、ソフトウェア開発プロジェクトが大幅に遅れたり、予算を超過して大赤字になる最大の原因は「手戻り」にある。手戻りとは、すでに行った作業をもう一度やり直すことである。たとえば、テスト段階で設計のミスが発覚し、設計工程からやり直さざるを得なくなることがある。これが手戻りである。最悪のケースは、顧客の受入テストで要求仕様書に不備がみつかり、要求定義から作業をやり直すことになるケースである。この場合、納期直前に開発工程をほとんどすべてやり直すことになるのだから、悲惨極まりない。

 こうした事態を避けるため、多くのプロジェクトでは上流工程に優秀な人材を注ぎ込み不備のない要求仕様を作成しようとする。極めて当然の対策である。しかし、いくら上流工程に力を入れても大幅な手戻りが発生するリスクをゼロにはできない。それなら、発想を変えて、早期にシステムを一度作り上げ、顧客参加のテスト工程を経て、すべての工程をもう一度やり直すことを前提にプロジェクトを考えた方がよい。つまり、仕様書というドキュメントで顧客のニーズを確認するのではなく、動くソフトウェアで顧客のニーズを確認するという方法である。サムスンSDSが採用したのもスピードを重視したこの方法である。

 理想を言えば、開発は2度ではなく、3度、4度と繰り返すことが望ましい。そうすれば、開発されたシステムは、より顧客の望む理想のシステムに近づく。この方法に必要なものはスピードである。佐賀市のケースでは、2004年7月末には第1回目の開発を終えて仕様を確認するテストが始まったと報道されている。恐ろしいほどのスピードである。しかし、このスピードこそが顧客満足度を高める秘密なのである。

 こうした手法は、従来からRADという形で存在していたし、最近でもXPやスクラムなどのアジャイル・ソフトウェア開発が話題になっている。しかし、国内でみれば、自治体の基幹系システムなどの大規模なプロジェクトでこうした手法を採用しているケースは稀である。国内のITベンダーも、こうしたスピードを重視した開発手法を本格的に採用しないと生き残っていけない時代になっているのではないだろうか。

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