DX再考 #5 プラットフォーム・ビジネス(その1)
プラットフォームとは何か
「プラットフォーム」は、一般的には駅のプラットフォームのように周囲よりも高くなった平らな場所を意味するが、IT業界では、コンピュータのハードウェアやOSのような情報システムの基盤部分を指す用語として広く使われている。経営学においてもビジネスの基盤となる製品・サービスをプラットフォームと呼んでいる。
経営学の分野でプラットフォーム・ビジネスに関する研究が盛んになるのは2000年代後半であるが、その契機となった論文の一つがT. アイゼンマン、G. パーカー、M. W. アルススタインによる「ツー・サイド・プラットフォーム戦略」[1]である。
この論文では、プラットフォームを「異なる二種類のユーザー・グループを結び付け、一つのネットワークを構成するような製品やサービス」と定義し、最初にクレジットカードを例として取り上げている。
クレジットカードの仕組みは、そのカードを持つ消費者と加盟店を結びつけているプラットフォームであり、その2つのユーザー・グループ間には強い「ネットワーク効果(network effect)」が働く。具体的に言えば、そのクレジットカードの加盟店が増えれば、クレジットカードの利便性が向上し、カードホルダーの増加につながる。カードホルダーが増えれば小売店がそのクレジットカードの加盟店になるメリットが増大する。つまり加盟店の増加は、カードホルダーの増加につながり、カードホルダーの増加は加盟店の増加をもたらす。
ネットワーク効果
ネットワーク効果とは、そのプラットフォームの利用者が増えるほど、そのプラットフォームの価値が高まり、さらに利用者が増えるという効果や現象を指し、ネットワーク外部性(network externality)とも呼ばれる。
最もわかりやすい事例は電話やFAXである。
電話やFAXは利用している人が多いほど、その価値は高くなる。仮に自分一人だと何の価値もない。電話やFAXがどんな機能を持っていても、その価値の大小は、その利用者の数に大きく左右される。それがネットワーク効果である。
ネットワーク効果には直接的効果と間接的効果に分けることができる。電話やFAXのように利用者の増加が、電話/FAXのネットワークの価値を高めるような事例は直接的効果である。
一方、クレジットカードのように、クレジットカードというプラットフォームを利用する加盟店とカードホルダーの間で働くネットワーク効果を間接的効果という。
プラットフォームの定義と分類
早稲田大学の根来龍之教授は、プラットフォームを「他のプレーヤー(企業、消費者など)が提供する製品・サービス・情報と一体となって、初めて価値を持つ製品・サービス」と定義している [2] 。ただ、プラットフォーム本体だけでも価値を持つものもあるし、プラットフォームを提供している企業が補完製品・サービスを提供している場合もあるので、この根来先生の定義を少し修正して、「他のプレーヤー(企業、消費者など)が提供する製品・サービス・情報と一体となって、価値が増大する製品・サービス」をプラットフォームの定義とすることにする。
プラットフォームは「基盤型」「媒介型(メディア型)」「複合型」に分類することができる [3] 。
基盤型の典型は家庭用ゲーム機である。家庭用ゲーム機は、ゲーム機本体という基盤製品と、それを補完するゲームソフトや周辺機器が一体となって機能を実現している。家庭用ゲーム機は、そのインターフェースが公開されており、ゲームソフトや周辺機器を供給する別の企業が存在している。したがって、そのゲーム機で使えるゲームソフトや周辺機器が増えれば、ゲーム機の価値が増し、ゲームの利用者が増える。一方ゲーム機の利用者が増えれば、ゲームソフトや周辺機器を提供しようという企業も増えるだろう。
媒介型プラットフォームの典型は、@コスメのような 口コミサイトである。口コミの投稿者が増えれば増えるほど、口コミサイトの価値は増大し、その閲覧者が増える。その閲覧者の一部が口コミを投稿するため、閲覧者の増加は口コミの増加につながる。ネットオークションサイトや動画投稿サイトも媒介型のプラットフォームであるし、先にプラットフォームの事例として紹介したクレジットカードも媒介型に分類できる。
SNSは、媒介型プラットフォームであると同時に、ソーシャルアプリを補完製品と考えれば基盤型プラットフォームでもあるので、「複合型」だと考えられる。
ちなみに、口コミサイトのような媒介型プラットフォームの場合、投稿される口コミをプラットフォームを補完する情報財だと考えれば、基盤型に分類することも可能である。
[1] 邦訳はDiamondハーバード・ビジネス・レビュー、2007年6月号、pp.68-81、原題は” Strategies for Two-Sided Markets “で、2006年10月号のHarvard Business Reviewに掲載されている。
[2] 根来龍之『プラットフォームの教科書』日経BP、2017年5月、p.19
[3] この分類は、根来龍之『プラットフォームの教科書』による。
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