日本にも「起業家が起業家を育てる」好循環を (2015年1月) 情報化推進国民会議メールマガジン
シリコンバレーでは次々とベンチャー企業が生まれている。Silicon Valley Index 2012 によれば、1995年から2010年までの創業社数は平均して年間17,300社だという。高い志、あるいは野心を持った若者が世界中から集まり、新しい製品やサービスをどんどん生み出していく。エンジェル投資家やベンチャーキャピタル(VC)が彼らに資金を供給し、ベンチャー企業の成長を加速する。もちろん失速して廃業に追い込まれる企業も多いが、失敗した起業家が再度ベンチャー企業を創業するケースは少なくない。こうした無数のトライ&エラーがあるからグーグルやフェイスブックなどの企業が生まれてきたと言ってよいだろう。
シリコンバレーの最大の特徴は、起業経験者や元経営者がベンチャー企業を支援するという好循環エコシステムが形成されている点である。事例を挙げて説明しよう。
スタンフォード大学でコンピュータ・グラフィックスを教えていたジム・クラークは1982年に学生と一緒にシリコングラフィックスを設立した。シリコングラフィックスは1990年に上場している。創業者利益を得たジム・クラークは1993年に、イリノイ大学でMOSAICというウェブブラウザを開発したマーク・アンドリーセンらとモザイク・コミュニケーションズ(後のネットスケープ・コミュニケーションズを設立した。
このネットスケープ・コミュニケーションズは1995年に上場し、アンドリーセンらもそれなりの創業者利益を手にした。1999年にアンドリーセンは、サーバーのホスティング事業を行うラウドクラウドを創業。ラウドクラウドは2002年にホスティング事業をEDSに売却し、データセンター管理ソフトウェアを開発するオプスウェアと名称を変更、その後2007年にHPに買収されている。
そして、2009年にアンドリーセンはオプスウェアの元CEOのベン・ホロウィッツとアンドリーセン・ホロウィッツというVCを設立した。このアンドリーセン・ホロウィッツは、ツイッター、フェイスブック、スカイプ、グルーポン、インスタグラム(写真共有サイト)、ジンガ(ソーシャルゲーム)など急成長したインターネット企業に投資し、これらの企業の成長を支えたVCとして高く評価されている。
つまり、ジム・クラークがマーク・アンドリーセンを育て、アンドリーセンがエヴァン・ウィリアムやジャック・ドーシー(ツイッターの創業者)、マーク・ザッカーバーグ(フェイスブックの創業者)を育ててきたのである。
シリコンバレーには起業家が起業家を育てたという事例はいくらでもある。数多くのスタートアップ企業にシード資金を供給して注目を浴びているYコンビネータのパートナーのほとんどは起業経験者だし、シリコンバレーのエンジェル投資家の多くは引退した起業家や経営者である。
ベンチャー企業の育成はアベノミクスの成長戦略の柱の1つであり、政府は開業率を現在の5%程度から10%に高めるという目標を掲げている。このためには、チャレンジ精神や起業に対する意識を高めることも重要だが、ベンチャー企業、特にスタートアップ企業にリスクマネーを供給する仕組みや、ベンチャー企業経営のノウハウを提供する支援体制を整備していく必要がある。
もちろんシリコンバレーのようなエコシステムを日本に構築することは一朝一夕にできることではない。しかし、だからと言って何もしなければ何も変わらない。まずは、小さくてもよいので、成功した起業家が次の起業家を育てる仕組みを創るべきではないだろうか。