DX再考 #21 苦悩する新聞社
日本の媒体別広告費の推移
デジタル化の波の中で写真フィルム市場のように破壊的な打撃を受けている産業をもう一つ取り上げておこう。それは新聞である。
次のグラフは、主なメディア別の広告費の推移をみたものである。データの出典は電通の「日本の広告費」「広告景気年表」である。
このグラフを各年の広告市場を100として各メディアのシェアがわかるグラフに書き直してみると以下のようになる。
このグラフをみてわかる通り、1980年には日本の広告費の約3割を占めていた新聞広告市場は5%以下にまで縮小している。ラジオや雑誌の広告市場も縮小しているが、新聞の縮小幅が一番大きい。
かわりに急拡大しているのがインターネット広告である。2022年にはインターネット広告のシェア(44%)は、マスコミ四媒体(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)の広告費合計のシェア(34%)より大きくなっている。
発行部数の減少
広告費収入の減少に加えて、購読料収入も減少している。以下のグラフは全国の新聞の発行部数の推移である(発行部数の減少を強調するために縦軸の最小値を2000万部にしているので、注意されたい)。
グラフを見てわかるように、下げ幅は少しずつ拡大している。直近では1年間で200万部以上減少している。
発行部数が減少すれば、購読量収入も減少する。以下のグラフは新聞社の収入の推移である(新聞協会のデータは2021年までなので、グラフは3年毎の数字になっている)。
このグラフをみると販売収入は、発行部数の減少と同じような比率で減少しているが、広告収入はそれ以上に減少していることがわかる。
実際の数字で計算すると、2000年から2021年にかけて発行部数は38.5%の減少、販売収入は35.9%の減少、広告収入は70.4%の減少である。
新聞業界におけるデジタル・ディスラプション
この新聞業界をとりまく環境変化をもたらしているのは、間違いなくデジタル化である。この変化のスピードは早くなることはあっても、変化が止まることはもちろん、スピードが遅くなることは考えられない。これはまさしく新聞業界におけるデジタル・ディスラプションなのである。
デジタル化がもたらす脅威はいくつかに分解することができる。ここでは5つに分けてみた。
(1)電子メディアの普及
インターネット、スマートフォン、タブレット、ソーシャルメディアなどの普及によって、多くの人が新聞を必要としなくなっている。ニュースはスマホやタブレットで読んだり見たりするようになっている。新聞を購読する人が減少すれば、新聞社の販売収入が減少することになる。
(2)オンライン競争の増大
新聞社もかなり早い時点でインターネットを利用するようになった。自社のWebサイトを立ち上げ、インターネットでニュースを配信するようになった。また、ポータルサイトにもニュースを提供している新聞社も少なくない。ちょうど自分で自分の首を絞めているような状況にあるのだが、インターネットでのニュース配信は、新聞の広告収入と読者数に悪影響を与えている。
(3)広告収入の減少
インターネット広告市場の急速な拡大は、新聞広告の市場に大きな影響を与えている。インターネット広告は、新聞の広告に比べて、効果測定が容易である。広告が画面に表示された回数はもちろん、広告がクリックされた回数、場合によっては商品の購入につながったかどうかも計測可能である。
広告主の予算に一定の上限がある限り、インターネット広告市場が拡大すれば、一方で市場が縮小するメディアがある。新聞広告はその縮小するメディアの代表格になっている。
(4)読者の嗜好の変化
スマホやタブレットのユーザーは、テキストと静止画(写真)だけのニュースより、動画やインタラクティブなコンテンツを好む傾向にある。紙媒体の新聞は、そうしたニーズには応えられない。こうした消費者の嗜好の変化によって新聞の購読者が減少している可能性がある。
(5)フェイクニュースの影響
ソーシャルメディア上で拡散されるフェイクニュースの多くは新聞社が発信したものではない。憶測記事や誤報、虚報が比較的多いタブロイド紙もあるが、多くの新聞社は、記事にする前に組織的なチェックを行い、間違ったニュースを配信しないように注意を払っている。とはいえ、新聞も一つのフェイクニュース源だと信じている消費者も少なくない。ただ、インターネット上で拡散されるフェイクニュースは、信頼性の高いニュースを発信している新聞社にとってプラスの影響をもたらす面もある。これは後で説明することにしたい。
こうした危機に対処するため、新聞業界はデジタル化に対応した戦略を策定し、オンラインメディアへの移行を進める必要があるのだが、日本の多くの新聞社はデジタル化に対する有効な対策や戦略を持っていない。品質の高いジャーナリズムを提供し、人々の信頼を得ていくためには、まずDXの本質を理解し、有効な戦略を策定・実行していく必要がある。