【よくわかる牛乳の流通について】


指定生乳生産者団体とかホクレンの役割はなんでしょうか。

牛乳、搾りたてのものは「生乳(せいにゅう)」といいます。
生乳は、毎日母牛からしぼられますが、そのままだと腐りやすく、貯蔵性がない液体なので、先に行く先を決めておかなければなりません。今日は取引価格が高いから森永乳業へ、明日は明治乳業へ、と変更するには、その時間的余地はなく、短時間のうちに乳業メーカーに引き取ってもらう必要があります。このことも、酪農家が価格交渉上不利な立場に置かれる要因でもあります。

酪農家が個別に大きな大きな乳業会社と交渉したら、足元見られるのは、野菜にしても、建設会社にしても、なににしても同じ。
そのため、地域ごとに団体が、酪農家から生乳の販売委託を受け、価格交渉力を強化して乳業メーカーと対等に交渉しようというのが「指定生乳生産者団体」という制度です。
全国を10のエリアに分け、とりまとめる団体を決めています。北海道ではホクレンになります。

一手に販売を受託し、乳業会社とのやりとりをすることで、流通コストを低減できるうえに、天候や景気の変動により生じる生産過剰等の生乳の需給変動リスクを分散して負担することができます。

もうひとつの大きな役割は、用途別の価格についてです。
ご存知のとおり生乳を原料とした乳製品は多種多様です。
チーズ、バター、ヨーグルト、脱脂粉乳、生クリーム、牛乳。
皆さんが手に取る価格が違うように、乳業会社が酪農家から買い取る原価もそれぞれ違います。牛乳用だったら、115円。チーズ用だったら65円などなど。
酪農家にしてみれば、買取価格の高い用途で出荷したいのは当たり前ですよね。
でも、牛乳は9割が水。遠くまで運ぶには運賃がかかりますから、牛乳工場は消費地に近いところに建てられます。
一方で、酪農は、広大な牛のエサが育てられる土地が必要です。そのため、北海道の消費地から離れた場所の方が、土地も安く、生産コストを抑えることができます。
市場原理に任せていたら、需給も調整できず、儲からない用途には生乳が向けられず、不足することもあるでしょう。乳業工場も、コストのかからない近場の酪農家から優先して生乳を買うかもしれません。

本州で生産される生乳は、350万トン。ほぼ全量が、牛乳になります。取引価格はもちろん高く115円/kg。
北海道で生産される生乳は、390万トン。でも、北海道のたかだか600万人の人口では、牛乳では飲みきれないこと、また生産コストが安い北海道だからこそ、それ以外の乳製品で日本を支えるという使命も負っているので、バターとかチーズの用途にまわされます。

それを、地域ごとにおしなべて、不公平感を少なくし、いろんな用途の乳価を平均して、酪農家が再生産できるようにお支払いしようというのが、指定生乳生産者団体の役割。さまざまな用途の価格を加重平均して、生産者に支払っています。
また、指定団体に販売を委託し、国全体の需給の調整に協力する場合、国としては、特に北海道の指定団体を通じて加工原料乳生産者補給金(12円/kg)を交付することにより、需給の安定化を後押ししています。

重要な点はふたつ。
ひとつは、自分で生産した生乳を、自分で販売するための制約は一切ないということ。自分で加工し、自分で販売先を見つけ、販売することを、この制度は、なにも阻害していないということ。

もうひとつは、この制度がなくなったとき、1kgあたりの手取りが80円弱の北海道の酪農家は、本州の手取り115円の市場に乗り込むことになるでしょう。
生産原価が北海道74円/kg、都府県が92円/kgという差の分を、北海道は加工原料乳を生産するという役割を担うための「加工原料乳生産者補給金」という制度を措置することで、業界用語でいう「南北戦争(北海道vs都府県)」を起こさないようにしてきました。

【現在の北海道の酪農経営(イメージ) 生乳1kgあたり】
生産原価74円
手取り乳価80円(乳成分などにより農家ごとに異なります)
加工原料乳補給金12円80銭
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手取りプール乳価93円
農家所得 約20円

自由に売りたいのであれば、自由に売ればいい。
それは、現在の制度でも担保されている。

農協が悪だ、市場原理だということを優先させるばかりに、
全体最適をほどよく図っている制度を崩す必要は、誰も思っていないのです。

南北戦争がおき、北海道の「牛乳」が全国に行きわたるとしましょう。そのときに、どのようなことが全国でおきているでしょうか。

・府県の酪農の8割はなくなるでしょう。
・酪農がなくなるということは、その地域で耕畜連携(ふん尿を畑に戻し、小麦のわらを家畜の寝床にという資源循環型農業)は崩壊します。
・北海道の酪農は牛乳生産に特化し、取引価格の安いチーズ、バターなどはつくらなくなります。スーパーから国産のバターはなくなり、雪印など乳業のつくるチーズも、原料は輸入もの(いまもプロセスチーズの相当量が原料は輸入ものです)になるでしょう。
・チーズやバター、脱脂粉乳などをつくっている工場は不要になり、地域の雇用も失われます。

【南北戦争後の北海道の酪農経営(イメージ) 生乳1kgあたり】
生産原価74円
本州への生乳移送費 15円(現在のホクレン丸での移送体制では11円程度。移送力強化のため係り増し)
手取り乳価108円(供給過剰による価格競争)
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農家所得 約24円

このわずかな所得を増やすために、本州の酪農家を駆逐し、本州の資源循環型農業を否定し、今まで以上に不安定な乳製品の需給を引き起こし、価格の乱高下などをおこし、さらには、北海道内の農村を疲弊させるのでしょうか。
この制度外でバター仕向けにする人にも補給金を出すべきだ、それも全体としてはイコールフッティングになるというのは机上の空論にすぎないと考えます。単に補助金に群がるハイエナ。加工原料乳補給金の本来の意味をまったくわかっていません。

本当に、この制度は、北海道酪農だけのためですか?
ここまで書いても、悪の枢軸ホクレンが自分の既得利権を守るために、制度改正に反対していると思いますか?

木を見て、森を見ず。
改革改革と、聞こえのよい言葉に惑わされず、社会全体を見てみてください。
威勢のいい言葉に乗っかって、石を投げていたら、一番影響があるのは、生活者である私たちの生活そのものです。

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