インバウンド100 Vol.10 ryugon支配人 小野塚 敏之~新潟インバウンドカレッジ編
こんにちは、インバウンドプロデューサーの木立です。
前回の水野さんに続いて新潟県観光協会さんの新潟インバウンドカレッジの修了生の取り組みを紹介していきます。
インバウンドって誰かスーパースターやカリスマがいてグイグイ引っ張っていくというより、観光に関わる人、観光業でない地域住民も一緒になっての総合力が外国人旅行者の満足度に繋がっていく。そして地域の生い立ち、個人の生い立ちや好きなもの、そういうことが光り輝くのがインバウンドのいいところです。
ということで新潟のryugonで活躍する小野塚さんを紹介します。
ryugonといえば雪国観光圏の井口さんを想起される方もいると思いますが、小野塚さんの話を聞いていると目立つ人の周りには優秀なスタッフがいるんだなぁと当たり前のことに気が付かされます。
小野塚さんの普段の仕事を教えてください。
今は南魚沼にある古民家ホテルのryugonの支配人をしています。普段の仕事は基本的にはお客様のお出迎えやチェックインなど、アテンドをしたり、予約をとったり、駅までの送迎をしたりと、ほぼお客様に接していることが多いです。これらを基本に、宿の運営でのオペレーションを考えたり、アクティビティの造成も行なっています。
他にもまだ言うと、ボイラーの調子が悪いとか、水回りがおかしいといった、宿を運営する上でのメンテナンス管理など、表も裏側もすべて担当しています。設備の場合、業者が24時間営業してくれたらいいんですけど土日休だし夜は対応してくれない。私たちの宿は土日・夜にお客さんが来るので、仕方ないと言えば仕方ないのですが、私たちで応急処置ができるものもあれば対応するし、できなければお詫びする。こんな事も支配人の仕事ですね。
ryugonや雪国観光圏の面白い取り組みを教えてください
これはお客様と近い位置にいるからこそ色んなヒントをもらえています。
例えばお客様を越後湯沢駅でお出迎えして車でryugonまで送迎をするルートにも気を使っています。何も早く宿にたどり着くことだけを重視している訳でなく、里山が堪能できる景色を選んでます。あえて田んぼの近くの道を選んで走るとお客様の興味がそちらに注がれるのがわかる。お客様が普段生活している圏内では、絶対に見れない農家の作業を見ていると自分たちの生活とリズムと流れている時間が違うんだなということに気づく。
駅からの送迎も体験になっている。そしてryugonにくると重厚感のある門があって大きな提灯がお出迎えすることで異世界を感じる。
この空間や時間の流れの違い、地域と建物に入りこんだときの空気も楽しんでもらいたいですね。
駅から雪国体験が始まっているわけですね。他にも山菜ツアーを実施していると伺いました。
はい。私は山菜取りやきのこ取りが得意なんです。
山育ちだったので、親によく山につれていかれました。小学校は野球・中学校は陸上をしていたのですが、「トレーニングがてら山菜を取りに行くぞ」って言われて、山登りしながら山菜収集を子供時にやって覚えました。
それから山が好きになって学生の時は関東で生活しましたが、やっぱり肌感が合わず、新潟はやっぱり良い。ということで即座にUターン。新卒で戻ってきた当時はグループホテルに就職して、そこで様々なセクションを担当しました。後に、ツアーやイベントを企画できるようになったところで、井仙がリニューアルして2年目の頃に社長の井口と出会いました。もしからしたら井仙の方が自分のやりたいことができるんじゃないか?と思っていたタイミングで退職し、井仙へ入社。ちょうどその頃、観光庁が発足して、観光圏を設立。地域で着地型の観光にスポットが当たってきました。
何か井仙でも取り組めないかな、という話になった時に「山菜取りにいけますよね」ってことでスタートしたのが2009年です。あれから10年以上経ちました。
始まった時はツアー1名3800円でした、おかげさまでヒットし始めて年間で280人くらい参加しいただけるようになりました。山菜が採れるのが3週間、きのこは3週間でよく来てくれるなと思ったのですが、どうしても人気が出るとモラルの無いお客様も増えてきました。このままじゃクオリティを維持するのが難しいと言うことで、単価を上げて、採ったものを自分たちで食べるところまで付加価値を付けました。
現在は1人1万円4300円でツアーを組んでいて、採った山菜をシェフが調理してディナーにするところまで行なっています。お陰様で、満員御礼。今年の春だけでも40人参加してくださいました。
ガイドと支配人をしながらということにも限界がありまして、なかなか、一番弟子、二番弟子、が育たず次の担い手がいないという課題があります。
採るのが得意な人はいるけど、会話ができる人がいない。お客さんは価値を実感しているけど次をどうやって広げていくかですね。
ガイドは日本の相場は非常に安価です。プロフェッショナルなガイドを育てて、通訳案内士の価値もそうですが、ガイド料のハードルを上げるべきだと考えています。そういうのも含めて観光業が変えられるお手伝いができたらいいなと思っています。
新潟インバウンドカレッジで良かったことは何ですか
インバウンドカレッジをきっかけに県内でネットワークができたことが良かったです。
お陰様でメンターの8tripの町田さんからはご送客いただいています。旅行をコーディネートしている人たちがストーリーを紡いだ上で宿を入れてくれるとありがたいです。理解してくださっているランドオペレーターのような方がいると、とても安心です。
これまでは私たちが英語をしっかりと話さないといけないという固定観念があったのですが、カレッジでの学びや出会いで、通訳部分をガイドさんに頼むと圧倒的にクオリティも上がるし自分たちの負担も減る。無理に全部自分たちでやろうとしないでチーム新潟で取り組もうって思えたのは良かったです。
他にも燕三条を紹介したり、愛宕商事のユスさんにもこの地域で色々ガイドされているそうで、大変嬉しいことです。
宿や事業者と旅行を手配するオペレーター的な人と地域を束ねる観光協会の人が意思疎通できてないと観光の全体的なブランドの波及はなかなか難しい。そこを観光というくくりなんだけど異業種の人たちが集まって新潟ブランドを創れているのが良いところですね。
うしだやの牛田さんも、宿だけじゃなくて農業やガイドもやっている。酒造の方も旅館の方もお酒以外にもみんな付加価値をつけて、安いものじゃなくて本物を提供したいと思っている姿は刺激になります。
今後チャレンジしていきたいことはありますか
今の時代的にサステナブルところが求められている。サステナブルな旅行や、エコツーリズムを実際に取り組もうとしているところでいうと、雪国としての文化体験、自然体験のコンテンツを増やしたいと持ってます。
今はryugonの森プロジェクトというのを始めています。森を保全していくこともそうだけど、間伐するや、そこから資源をつくることを宿泊客といっし
ょにつなげていきたい。
この季節は葉っぱを集めてみて、それをお茶にしてみましょう。夕食にこの野草を食べてみましょう。森と人との関係性をオプションにしていきたいんです。
森づくりをお客さんとやってみる。森との接点を持つことで地域と共感する。コミュニケーションが生まれる森づくりしよう。そうすると森は季節によって表情を変えるのでまたryugonに帰ってくる。私たちは、このようなサスティナブルツーリズムに対応するプロダクトも取り組んで行きます。
他にも、地域に消費が生まれる観光作りも大切ですね。ビジネスにボランティアを入れることは持続が難しい。
お客様を満足させることと、人を助けることは違います。人助けはボランティアで良いのですが、ビジネスは満足が伴うのでプロを育てる意味でも消費は大事です。
私達が取り組むのは「一般にイメージする普通の観光」じゃなくて、ちょっと違う概念で「学ぶような旅」や「暮らすような旅」を提供したいですね。
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取材後記
小野塚さんは、インバウンド観光の最前線の現場で仕事をされていています。ryugonで私がプロボノで働いている時の上司でもあります。宿の裏側にもかかわらせてもらっていて、観光の現場はこういう人たちの努力で生み出されているんだなぁとしみじみ感じます。今回山菜ツアーのベースになっているのが祖父から教わったものだと伺って、仕事のベースに家族や地域から継承したものが大事だということに気が付きました。
ryugonの森のプロジェクトがとても気になるので会社の人を誘ってプロボノに行ってこようと思います。
インタビュー・木立徹
ソリッドインテリジェンスのプロデューサー。これまで手掛けたインバウンドの公共事業は180以上。仕様書を読むのと革細工とHIPHOPが趣味。インバウンドの専門家のコミュニティの運営をしている。
大阪府出身、さいたま市在住