【告白】フリー1年目でナショナルジオグラフィック表紙を撮ったプロ25年目のフォトグラファーがPhotoshop全然使えません!📷
どうも、晴れ男☀️フリーランスフォトグラファーの花井亨(@toruhanai)です。東スポ-ロイター通信と報道業界の対角線をあゆんで25年。2019年フリーランス独立1年目でナショジオ表紙撮りました。
【告白します】25年もプロで飯食っているのに、Photoshop全然使えませんでした。更に言うならRAW現像というのもやった事ありませんでした!
1996年に東京スポーツ新聞社写真部に入社した時には当たり前ですが、100%フィルムでした。なので暗室作業は、嫌ってほどさせていただきました。オフィスには自動現像機が設置されていましが、出張先では自分の手で現像作業をしていました。海外出張で締め切り間近、リール4本入るタンクにダブル巻き(1つのリールにベース面同士を合わせたフィルム2本を同時に巻く、実は’手現’は得意でした)で8本同時現像を結構なスピードでしていました。
締め切りに間に合わせるためにスピードはとても重要でした。それよりも大事だったのは、作業が遅いと、せっかくの出張なのに美味しいものを食べに行けなくなってしまうので、必死にそのスキルを上げました。年代的には最後のフィルム世代ですので、わずか数年の経験でしたげど、先輩方の手現像の逸話の数々は信じ難いほど面白いものばかりでした。
(実は暗室内で先輩からいろんな話が聞けて、作業はともかく暗室内は結構好きでした。)
ところがその数年後、あっという間に写真界はデジタル化して、あれだけ磨いた、暗室・現像技術はリセットされてしましました。
2005年に入社したロイター通信では、始めこそPhotoshopがインストールされたPCを使っていましたが、トリミングとレベル調整等の限られた範囲の作業のみに限定されたものでした。その後、使用していたコンピューターからPhotoshopが消えました。理由は不正な画像処理をしないためだそうです。
デジカメ画像をPhotoshopで処理したことのある方は分かると思いますが、Photoshopを使わないという事は、基本的にいかなる補正も修正もできないという事です。露出の過少、色カブリの色補正、ピントが甘かったときのアンシャープマスク etc...。
記者会見場から逃げるように立ち去る被写体を、蛍光灯の色温度のまま外の車に逃げ込むまで追いかけ、苦労して撮った画像を見て、写真のように真っ青になったこともありました。
その全ての補正が出来ないという事です。もちろん写真デスクに送信後、その作業をお願いする事は出来ました。(デスクのPCにはPhotoshopはあったようです)しかし、よっぽどの決定的な写真でない限り、わざわざデスクに自分の失敗写真を見せる事は出来ません。なので必然的に失敗しないように細心の注意を払いました。
「Photoshopの画像処理はドーピングと同じ、自分で自分の首を絞めることになる。」
2013年にロイター通信のフォトグラファーのワークショップがあって、当時の同社の写真のボスも参加していました。ある参加者が「最近の報道写真賞の受賞作品はPhotoshopで画像処理を施したものばかりだ、我々は配信では使っていないが、賞を狙うためにもPhotoshopの画像処理をしてはどうか?賞を取れば会社にもプラスだ」という意見が出ました。その時、ボスは「Photoshopの画像処理はドーピングと同じだ、短期的には結果が出るが、ランス・アームストロングのように、結果的には自分で自分の首を絞めることになる。」と当時のスポーツ界の大スキャンダル、自転車界のスーパースター、ツール・ド・フランス7連覇のランス・アームストロングのドーピング問題になぞって話しました。その徹底したスタイルがロイター通信のブランディングなのだと、感心しました。ロイター通信ではPhotoshopだけでなくJPEG以外の写真もNGでした。
1枚の不正写真が、会社の全てを壊すことになる
報道機関の不正がもし発覚したら、もう2度とその報道機関のニュースを信用する事は出来ないでしょう。「1枚の不正写真が、会社の全てを壊すことになる」と教えられました。
写真のプロは『写真が真実を写さない』と知っている
同様に撮影者は撮影時にも不正をしてはなりません。写真のプロは『写真が真実を写さない』こともよく知っています。歴史を紐解けば、写真の視覚的トリックが人々の目を欺き、冤罪を生み、デマを助け、混乱に陥れた事実はいくらでもあります。写真は今でもプロパガンダの強力なツールとして使われています。
正直言って、私がこれまで経験した現場でも、行き過ぎた写真演出や倫理的な疑問の生じるカメラマンの行動などを目にした事は無数にあります。それは「撮り手」の心の弱さ、会社や上司からのプレッシャーなど原因はいくらでもあるでしょうが、それこそドーピングだと分かって、それをしていたら、アームストロングと同じく永久追放となるでしょう。
(写真のウソについての話はもっともっと長くなるので、いつか単独投稿でお話しします。)
そんなこんなで私は25年も写真で飯食っていますが、PhotoshopもRAW現像も出来ませんでした!でもフリーランスになって、出来ませんでは済みません。独立時に Adobe PhotoshopとLightroomをしっかり購入。猛勉強しました。でも、画像処理があまりされていない自然な仕上がりが自分の写真の持ち味(だと本人は思っています!)なので、これからも、自分のスタイルで撮りながら、PhotoshopやLightroomで新しい世界も広げられたらと思っています。
世界報道写真コンテスト(WORLD PRESS PHOTO大賞受賞の千葉康由さんに「フリーになったなら、RAWで写真を撮った方がいい」とアドバイスいただいた。
つい先日、2020年世界報道写真コンテスト(WORLD PRESS PHOTO)で日本人として41年振りに大賞受賞された千葉康由さんから、私がフリーになった時「フリーになったなら、RAWで写真を撮った方がいい」とアドバイスいただいた事がありました。その時はちょうど千葉さんが、六本木ミッドタウンで写真展を開催している時で、RAWで撮られた写真の美しさと迫力に圧倒され、自分もRAWで撮ってみようと決意しました。そして、初めてRAWで撮った写真がナショナルジオグラフィック(トラベラーフランス版東北特集号2020年1月発売)の表紙になりました。自分の写真ながら、仕上がりの美しさに感激しました。もちろん画像処理はナショジオ編集部でした。 (了)