Vol.2-#36 ハネムーン紀行③
不動の男が動かしたもの
チェコ、プラハ城。
見どころいっぱいのこの城において、ジャミ子が最も興奮した瞬間をお届けしよう。
プラハ城というのは城であるからして、守らねばならない。
誰が?
「俺が」
この衛兵は直立不動で決して動かない。目も合わない。
ジャミ子が横でどんなにおちゃらけようと、決して表情を緩める事なく任務を全うするのだ。
彼らは毎時ちょうどに行われる交代式の時、はじめて動くことを許される。この交代式は正午に行われるものが規模が大きいと知ったジャミ子は、11時40分に現場入りした。
門の前は既に人々で溢れかえっていた。警察もいる。
そして12時、、、音楽隊の演奏が始まった。この…胸が高鳴るような、何かが始まりそうな音楽は何だろう。誰が作曲したの?!何ていう曲?!
スペクタクルな世界に酔いしれていると、街の中から大量の衛兵たちが行進してきた。その中から2名の衛兵を引き連れ、上司っぽい衛兵が先頭に立って歩いてきた。いよいよ交代の時だ。
上司は剣なのか銃なのか、とにかく長い棒で地面を突き、その合図に合わせて部下2人は規律正しく動く。その動きがまたカッコいい。
左右の衛兵が合図に合わせて向かい合ったとき---ジャミ子は見た。
さっき一緒に写真を撮った衛兵が、任務を終えたもう一人の衛兵に向かって微笑んだのだ!
直立不動でピクリとも動かず、横で勝手に記念撮影をされようとも表情一つ変えなかったあの彼が!
彼の人間性がチラリと見えた瞬間、その瞬間こそ……ジャミ子は最も興奮した。
はっきり言おう。ときめいた。
「名前は?」「血液型は?」
「家族構成は?」「志望動機は?」「今日のシフトは?」
聞きたい事は山ほどあったが、ジャミ子は声を掛ける事が出来なかった。
上司に連行され、ジャミ子の元から去っていく彼の背中に向かって力の限り叫んだ。
「このハート泥棒ッ!バカバカ!」
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