日向坂46「四期生ライブ」感想。

 2024年8月27~29日に日本武道館で開催された日向坂46四期生による単独公演3Days。千秋楽のダブルアンコールを除けばセットリストの最後に配置されていたのは『ブルーベリー&ラズベリー』、彼女たちの始まりの楽曲だった。

 『ブルーベリー&ラズベリー』といえば、そのMVが公開されて、初めてそれを観たときに、自分の目にはメンバー全員が同じように見えていたことを今でも思い出せる。似たようなスタイリングと、統一された衣装。全体的に個々の見せ場は控え目で、なんというか抑揚に欠けていた。全体がぼんやりとしていた。そういう風に受け取った。
 もちろん、熱心な人たち、つまり、事前に公開されていたそれぞれのプロフィール映像すべてにしっかりと目を通していた人たちにとっては、そんなことはなかったのかも知れないけれど、そうではなかった自分には残念ながらそれくらいの解像度でしかあの楽曲、映像を捉えることはできなかった。いや、でも、そういう人は決して少なくないんじゃないか。

 日向坂46の四期生は2022年4月~5月にかけてオーディションが行われ、6月~8月の研修期間を経て、9月の終わりに発表され、そして同年のライブツアー「Happy Smile Tour 2022」、その11月に開催された東京公演が初めての舞台になった。『ブルーベリー&ラズベリー』が観客の前で初披露されたのもそのタイミングで、自分もその場所に居合わせていた。が、やはり印象は変わらなかったと記憶している。

 翌年2月、四期生による「おもてなし会」が開かれたが自分は参加しなかった。そして3月末には毎年恒例のメモリアルライブ「4回目のひな誕祭」が開催。こちらは参加した。毎年、ツアーを幾つかとメモリアルライブには参加し続けているのだ。この間、新しいシングルのリリースは無かったので、四期生楽曲はいまだ『ブルーベリー&ラズベリー』の一曲のみ。そんなわけなのでライブ全体を通して四期生の出番は非常に少なく、相変わらず印象はイマイチだった。
 彼女たちが披露した『青春の馬』こそ魅力的には見えたものの、それはおそらく楽曲自体の魅力に起因する部分が多かったようにも思えてしまう。とにかく制作や表現を目にする機会が少なかったから、結局、加入から半年が経ったというのにも関わらず、自分は四期生に対して全くピンときていなかった。(もちろん、メインで追っているグループでは無いからというのもあるのだが……)

 そんな自分がこの武道館公演3Daysで四期生に、そしてメンバーそれぞれに心を動かされていた。『ブルーベリー&ラズベリー』が、まったくぼんやりしていなかった。一人ひとりそれぞれが鮮明だった。この記事を書くにあたってつい先ほど、久しぶりに『ブルーベリー&ラズベリー』のMVを観た。音源を聴いた。2年前とは前々違う印象を抱いている自分に驚いた。

ブルーベリー&ラズベリー ちゃんと見たことなかった
似てるような 全然似てない僕たち

日向坂46『ブルーベリー&ラズベリー』

 もちろん、そういう変化がこの公演を踏まえて急に生じたわけでは無いだろう。2023年のライブツアー「Happy Train Tour 2023」では四期生それぞれが各公演ごとに一人ずつフォーカスされる演出が設けられていた。その後、四期生単独で行うライブ「新参者 LIVE at THEATER MILANO-Za」が開催された。シングルCDが出るたびに、四期生の楽曲は続々と追加された。2024年には表題曲の選抜にも四期生が選ばれるようになり、センターのポジションすら務めるようになった。四期生に対する解像度はどんどん上がっていった。
 また、自分個人のトピックとしては、ひょんな理由から四期生の一人、宮地すみれを激烈に推す友人ができたというのも大きいはず。彼とは高い頻度で会うように、話すように、一緒にライブに行くようになった。色々な場所で色々な言葉を交わした。今回の武道館公演3Daysだって、彼と会っていなかったら全てに参加することは間違いなく無かっただろうし、今のような心持ちで公演を満喫することも無かったんじゃないか。

 この武道館公演3Daysは、加入してからおよそ2年間の順風満帆とは到底思えない活動期間を経たうえでの今の四期生の現在地を、ひいてはグループ全体のこれからを示すに相応しい内容だったと思う。

 「4回目のひな誕祭」直後にリリースされた9thシングル『One choice』に収録の『シーラカンス』。加入から半年経ち、ようやく増えた四期生楽曲。のちに表題曲のセンターにも選ばれることになる正源司陽子がセンターを務めるこの楽曲の求心力は極めて高いと思えるが、公開当時、それを披露する機会は本当に恵まれていなかった。あの時期、というかコロナ渦以降、グループ全体の足取りは重く、ある程度今までの日常が戻ってからも、かつての勢いはなかなか取り戻せずにいた。『シーラカンス』は、四期生は、その契機に成り得るもののはずだっただろうにもかかわらず、それらはなかなか活かされないまま、刻々と時間が過ぎていってしまっていた。

 ライブ中盤、『川は流れる』→『シーラカンス』以降、『ガラス窓が汚れている』『夢は何歳まで?』『You're in my way』と、閉塞感のある楽曲、曲がった心情で綴られる楽曲が続き、『アディショナルタイム』がそのブロックを締めくくる。MCを挟んでライブは終盤へ。『キツネ』で会場のボルテージを一気に高めたうえで、『雨が降ったって』『君はハニーデュー』『見たことない魔物』『夕陽Dance』と、四期生楽曲および正源司陽子がセンターを務める11thシングル表題曲がずらりと並べられる。ライブ本編の幕が下りる。『アディショナルタイム』という楽曲が、コロナ渦以降におけるグループ全体の状況(もちろん、その時期の四期生の状況と言っても良い)と重ね合わせて意味を強く見いだせる楽曲であることを踏まえれば、こういったセットリストの組み方や以降の楽曲たちについても、当然、コンテクストを感じ取れてしまう。これまでと今が、そこにはあった。
 そしてライブ全体を鮮明な『ブルーベリー&ラズベリー』が締める。四期生の現在地、というわけだ。

 また、最終日にはダブルアンコールが行われ、三日間の全体を『誰よりも高く跳べ!』で締めくくった。

 日向坂46の新しい世代が武道館公演を3Daysで行う、ということ自体に付随するコンテクストがある。コンテンツの物語を紡いでいくにあたり、定期的に過去の再演を行うというのは、演じる側にとっても、新しいファンにとっても大きな意味を見いだせる。しかしそれは「今」に箔を付けるだけでなく、明確に「未来」へと開かれていなければ健康的とは言い難い。ノスタルジーに徹するのみでは物語を閉じた円環にしてしまうし、その中で新しい世代を再生産のための歯車にしてしまう。自分はこの武道館公演3Daysがそちらに強く振れてしまう可能性に若干の危惧を感じていた。運営の手腕に対してとにかく信頼が無い。

 だから、本当に良かった。あの『誰よりも高く跳べ!』は、まさに彼女たち、四期生がこれからの日向坂46を「ここじゃないどこかへ」と引っ張っていくのだと強く表明する、そう思わせてくれる『誰よりも高く跳べ!』だったと思う。この楽曲はグループの定番曲で、たしかに毎回楽しいけれど、そういういつもの楽しさとは違う高揚感があった。新しい風が吹き込まれているような感じがした。

 これから一期生、二期生の卒業絡みの話がしばらく続くというのに何を言っているんだ、という考えもあるけれど、とはいえ今の日向坂46は、すごく、面白いと思う。感謝。


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