カラスに糞を落とされる妊婦 [23/30]
今日は気候も良く、動かにゃ損とばかりに午前中から外に出た。
家からは少し遠いご飯屋さんに、わざわざ足を運ぶことにした。
地元の食材をふんだんに使った身体に優しい定食が人気のお店だ。
釜で炊いたご飯にお漬物や野菜の天ぷらなどがついてくる。
隣の席では、マダム達が楽しく談笑している。
なんと優雅な昼ごはんだろう。
そう思いながらゆっくりと食事を楽しんだ。
店にはショップも併設されていて、定食についていたお漬物をそこで買うこともできる。
いいシステムだ。
今度お土産に買って帰ろう。
お昼を食べ終えて、これまた優雅にパティスリーにでも行こうかと移動していた時のことだった。
頭上でカラスが鳴いたかと思うと次の瞬間、本当に微かな衝撃が私の腹のあたりに走った。
何かが私をかすり、地面に落ちたようである。
何だろう?と地面に目をやるが何もない。
次に私の上着に目をやる。
右胸に黒い糞。
左胸に白い糞。
やられた。
今からパティスリーに向かおうというのに胸元に白黒の糞をつけられてしまった。
こんなことがあっていいのか。
上機嫌の妊婦が散歩中にカラスの糞をかぶる確率はどのくらいのものか。
空はこんなにも広くて人間はこんなにもちっぽけなのに。
しかも妊婦であるのは、ほんの10ヶ月程度の期間である。(お腹が大きいから当たりやすかったのかもせんが…)
もはや幸運というべきか。
だとしても気分は最悪である。
さっきまで晴れていた空も曇り始めている。
あいにくポケットティッシュの持ち合わせもなく、拭くものがない。
仕方がないので植え込みの植物の葉をちぎって拭いとる。
この葉っぱが直径3センチほどの小さな葉しかつけないようで、難儀した。
ベストは尽くしたが、完全に取り除くことはできなかった。
この状態でパティスリーに行くか、行かないか、悩んだがこのままでは陰と陽のバランスが悪いので行くことにした。
お店に着くと美味しそうな焼き菓子やケーキが並んでいる。
じっくりと悩んでチョコレートケーキとりんごケーキを選んだ。
会計でお金を渡そうとしたその時、手に黒いものが付いていることに気がついた。
まさか。
さっき糞を拭うのに使った葉っぱが小さすぎたのだ。
手に糞のかけらが付いている。
最悪だ。
だがもう、後には引けない。
電話するふりして外に出て、駅のトイレで手を洗ってきた。
不自然な間があったものの、まさか手にカラスの糞をつけた妊婦がケーキを買いに来るとも考えないだろう。
こんな不潔な奴が来て申し訳ないと心の底から思う。
でも許してほしい。(幸い、店内では何も手を触れてない)
こうして私は美味しいケーキをゲットして、散々な散歩の後半戦を終えた。
予想外の出来事により、稀有な1日になった。
編集者のコメント
LINEで聞いたときには爆笑しました。