『サウォラ ミンテ』

キムミンテ。

北海道コンサドーレ札幌の3バックの中央に彼はいた。


私は2019年に北海道コンサドーレ札幌のサポーターになった。守備なんてクソ喰らえ!と言わんばかりの超攻撃的サッカーを披露する札幌に惹かれたからだ。サッカーを見始めたばかりである私には、札幌のサッカーはとても魅力的だった。2019年当初のチャナや武蔵、ロペスが魅せたコンビネーションは今思い出しても美しいと思う。

しかしそんな超攻撃的サッカーだけじゃ上手くいかない。ロペスが清水相手に4得点した後からだろうか。その後数試合で札幌は連続して負け続けた。そんな時、まってましたと闘志を纏って現れたのが、キムミンテだった。

宮澤が入っていたリベロのポジションに彼が入ってから、札幌の守備は一変した。強く、熱く、激しく、勇気溢れる守備でFWを潰し、相手にチャンスを作らせない。ロングボールもCKも全て跳ね返す。決定的シーンなんか最初からなかったかのように思わせてしまうプレーは素晴らしいとしか言いようがなかった。

本当に彼がいるだけで札幌の守備は大きく変わった。まるで大きな城壁が聳え立っているような存在感。そんな彼の存在に私を含めたサポーターは狂喜乱舞した。彼が相手のチャンスを打ち消しサポーターを煽る。サポーターはその煽りに応える。私は彼とサポーターのそんな関係が好きだった。

不屈の闘志を持つ深井とはまた違う、とてつもない熱気を帯びた闘志を彼は持っていた。そんな彼はどんな時もチームを鼓舞し、チームのために奮闘し続けた。

2019年ルヴァン杯準決勝第1戦では、第2戦での逆転勝利に繋げるヘディングゴールを決めた。
決勝戦では、小林悠の決定機を潰し雄叫びを上げた。PK戦で試合に負けた時、誰よりも先に最後PKを外した進藤に駆け寄り励ました。

2020年、コロナ禍で観客が入れなくても、観客からの歓声がなくても、そこはこれまでと変わらない。

第18節ホーム柏戦、第1節でコテンパンにやられたオルンガを見事に抑え、彼に決定的場面を作らせなかった。第25節、元チームメイトで仲の良かったキム・ナムチュン選手が亡くなった後のG大阪戦、いつもより力の入ったプレーを見せ、試合後には涙を流した。
第28節清水戦では、大怪我で途中交代した荒野に捧げるJ1初ゴールを決めた。

この2年間、ミンテのおかげで勝てた試合がたくさんあった。彼のおかげで札幌はここまで来れた。

そして2021年も、ミンテと新しい景色が見れると思っていた。

今シーズン、序盤こそ先発で試合に出場していたが、気づいた時にはベンチにも名前を見かけなくなっていた。

そのきっかけとなった第8節のFC東京戦、この試合でミンテはDOGSOで一発退場してしまった。

この試合から全てが変わった。

この試合を境目に、ミンテの出場時間は大幅に減少した。新加入の岡村大八の台頭、宮澤のリベロへの適応、そしてDOGSOによる一発退場。

一気に向かい風が彼に吹いた。

そんな中、第15節の清水戦で久々に出場機会を得た。
彼もこの試合で再び序列をひっくり返そうと気合を入れてプレーしていたと思う。だがその試合で彼は、またもやDOGSOで一発退場した。

そのあとは悲惨だった。

ベンチ入りすることもなくなり、SNSを鍵垢にし、サポーターとの交流も絶った。なんでも、ミンテのSNSに直接誹謗中傷を送りつけた不届き者がいたらしい。それは、私が好きだった彼とサポーターとの関係とは完全に異なっていた。私はこの時、今までの彼とサポーターとの関係は、少し壊れてしまったのかもしれないと思った。

それでも彼は闘志を燃やした。
五輪による中断期間中、「足を速くしたい」とオフの期間をトレーニングに注ぎ込んだ。

しかし、その成果を札幌で見ることはできなかった。

2021年8月12日、キムミンテは名古屋グランパスに期限付き移籍することになった。

彼はついに札幌の地を離れ、新たな場所に旅立った。
もしコロナがなく、サポーターから声援を送ることができれば、こうはならなかったのではないかという考えが頭の中をよぎる。
しかし、彼のグランパスデビュー戦を見た時に、今までの考えは杞憂だったと気づいた。

相手のチャンスをことごとく潰し、雄叫びをあげ、再開後2連敗していたグランパスを救う決勝点を決めた。

そこにはいつも見ていたミンテの姿があった。
なんとしてもチームを勝たせようとする、闘志に溢れた姿があった。
そしてなにより、彼の雄叫びに呼応するグランパスサポーター、コンサドーレサポーターの姿があった。

チームが変わっただけで、今までと何一つ変わっていなかった。
私が一方的に感じてるだけかもしれないが、今までと変わらない絆のようなものがそこにあるように思えた。
私にはそれがとても嬉しかった。

彼ならグランパスで活躍し、グランパスのサポーターとも同じような関係を築いていけることだろう。

シーズンが終わった時、彼は札幌に戻ってくるのか、グランパスに残るのか、それとも兵役に行くのか。
どんな選択をしようと、それは彼次第だ。
どんな選択をしようと、私は彼の決断を尊重する。
これから彼がどんな選択をしようと、我々サポーターが贈ることが出来る言葉は一つしかない。

『サウォラ ミンテ』

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