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豚汁をつくる

鍋を手に入れた。
せいぜい小鍋ラーメンができるようなサイズではなく、カレーも肉じゃがもバッチコイなちゃんとした両手鍋。

とまあ大層なことのように書いてしまったが、先日祖母が「貰ったけど使わないから」と譲ってくれたものをありがたく頂戴してきただけである。


さて何を作ろうか。

冷蔵庫を検分したところ、数日前に買った豚肉を発見した。
そういえば少し前に買いだめしたじゃがいもや玉ねぎもそろそろ使わないとまずいような気がする。


.......しばし熟考。だがピンとくるものが無い。

気分転換に行きつけの喫茶店に行く。
本を読む。四畳半神話大系はなかなか読み終わらない。
帰り道、ほのかに鼻をくすぐったのはどこかの家から漂って来た味噌の匂い。


そうだ、豚汁をつくろう。


残暑も抜けてきたし、秋の入口としても丁度いい。

そうと決まればと早速スーパーに向かう。
こんにゃくと葱を購入する。
ついでにバナナも買う。


具材を切る。

人参、玉ねぎ、じゃがいもを適当な大きさにする。
葱は小口切りにしてよけておく。

祖母から譲り受けた鍋を火にかける。

野菜を炒めながらふと「この状態からカレーでも肉じゃがでも作れるのか」と気づく。

家庭料理は偉大だ。何にでもなれる。

主役の豚肉を投入する。
期限ギリギリのせいか若干色が悪くなっているが無問題。
豚汁はすべての具材を等しく味噌のベールに包み込んでくれる。

ここでうっすら「先に豚肉を炒めておいた方が良かったのかもしれない」と気づくが、既に後の祭りである。

水を入れて煮込む。
沸騰したので味噌を溶かす。


―――入れすぎたか?


溶いても溶いても無くならない味噌に一抹の不安を覚える。
久しぶりの鍋いっぱいの料理に目測が狂ったか。


母の言葉を思い出す。
昔々、夕飯に野菜炒めを頼まれて作ったら、調味料の入れすぎでとんでもない味に仕上がった時のことだ。

「あんたねえ、薄かったらあとでいくらでも味は足せるんだから、最初は少ないくらいでいいんだよ」

そう言って母は卵やらなんやらをフライパンにぶち込んでなんとか食べられるところまで仕上げてくれた。ような気がする。(うろ覚え)

お母さんすみません。あなたの子供はまた同じ失敗を繰り返すかもしれません。


恐る恐る味見をする。
なんだ、全然大丈夫じゃないか。

鍋いっぱいの豚汁は、多少の味噌の多さなどには動じない懐の深さを持っている。


こうして具材をこれでもかと入れた豚汁が出来上がった。
今日の夜と明日の朝夜、3回はたっぷり味わえる量だ。

小さい頃に兄弟でお椀の豚肉の量で揉めたことが懐かしい。
今は鍋の豚肉、ぜんぶ独り占めだ。

一口すすると、冬の香りがした。



そして翌日、冷蔵庫を開けて私は衝撃の事実を目の当たりにする。


こんにゃく入れ忘れた.......


行き場を失ったこんにゃくを片手に、新たな献立探しの旅が始まる。かもしれない。



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