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2024年のグローバル投資銀行・VC動向の振り返り


2024年の投資動向・全体概観

2024年のベンチャー投資市場は、前年の低迷から一部持ち直しの兆しを見せました。世界全体のVC投資額は約3,140億ドル前年比でおよそ3%増加し (Startup Funding Regained Its Footing In 2024 As AI Became The Star Of The Show)、コロナ前の2019年を上回る水準まで回復しました。一方で投資件数は前年より17%減少し、市場全体としては慎重さが残る状況でした (Global VC investments rose 5.4% to $368.5B in 2024, but deals fell 17% | NVCA/Pitchbook | VentureBeat)。大規模な資金調達が一部の有望企業に集中する傾向が強まり、取引数が減る中でも投資総額が微増するという「件数減・金額横ばい~小幅増」 の構図が見られました。

この年の注目トレンドとして生成AIブームが挙げられます。AI関連スタートアップへの出資額は全世界で約1,000億ドルを超え、前年比80%以上増加する突出ぶりでした (Startup Funding Regained Its Footing In 2024 As AI Became The Star Of The Show)。これは2024年の全VC投資額のおよそ3分の1にも達し、過去10年で最大のAI投資年となりました (Startup Funding Regained Its Footing In 2024 As AI Became The Star Of The Show)。AI以外では、フィンテックやクリーンテック(気候・エネルギー関連)、バイオテクノロジー/ヘルスケアといった分野も引き続き資金を集めています。ヘルスケア・バイオテック分野は2024年も堅調な投資が維持され、個別化医療などのイノベーションへの支援が続きました (A Year in Review: The State of Venture Capital in 2024)。一方で後期段階の大型調達は世界的に減少傾向にあり、投資家は収益基盤が確かな企業を厳選する姿勢を強めています (A Year in Review: The State of Venture Capital in 2024) (A Year in Review: The State of Venture Capital in 2024)。

全体として、マクロ経済の不透明感(インフレや金利動向)と技術革新への期待が交錯した一年でした。生成AIなど革新的分野への強気な投資が牽引する一方、景気後退懸念から慎重さも残り、地域や分野ごとに明暗が分かれる結果となりました。それでは、地域別の動向を詳しく見ていきましょう。

地域別の投資動向

米国(北米)

米国は世界最大のVC市場として2024年も存在感を示しました。米国企業へのVC投資額は約1,780億ドルに達し、世界全体の約57%を占めています (Startup Funding Regained Its Footing In 2024 As AI Became The Star Of The Show)(前年の48%からシェア拡大)。特にシリコンバレー(サンフランシスコ・ベイエリア)への投資が活発で、同地域だけで900億ドルが投じられ前年の590億ドルから大幅増となりました (Startup Funding Regained Its Footing In 2024 As AI Became The Star Of The Show)。これは生成AIブームが北米市場を活気づけ、多額の資金がAIスタートアップに集中したためです。実際、北米ではAIやクリーンテックが投資の中心であり、機械学習・生成AIや再生可能エネルギー分野のスタートアップが巨額の資金を呼び込みました (A Year in Review: The State of Venture Capital in 2024)。例えば、自動運転開発のWaymoが50億ドルの大型調達を実施するなど、数十億ドル規模のメガディールも登場しています (A Year in Review: The State of Venture Capital in 2024)。

IPO(新規株式公開)市場も米国が牽引しました。2024年、アメリカを含む南北アメリカ地域のIPO件数は205件、調達額は331億ドルと、いずれも2021年以来の高水準に回復しています (2024 IPO wrapped: Americas and EMEIA recover, Asia-Pacific lags | EY - Global)。これは前年から件数・金額とも大幅増加を示しており、ArmやInstacart、Klaviyoといった大型IPOが市場の盛り上がりに寄与しました。米国はIPOによる調達額で世界トップの地位を取り戻し(2021年以来) (2024 IPO wrapped: Americas and EMEIA recover, Asia-Pacific lags | EY - Global)、依然としてグローバル投資家にとって最も魅力的な市場となっています。規制環境の整備や旺盛な投資家需要を背景に、米国株式市場のバリュエーションも史上最高水準に達し、海外企業の上場も活発化しました (2024 IPO wrapped: Americas and EMEIA recover, Asia-Pacific lags | EY - Global)。

欧州

欧州のVC投資はやや減速しました。2024年の欧州テック分野への投資額は約450億ドルと推計され、前年(約470億ドル)比でわずかに減少しました (www.stateofeuropeantech.com)。ピークだった2021年(1,010億ドル)と比べると大きく落ち込んでいますが、それでも2020年比では20%増となっており、長期的な成長トレンド上では一定の新常態に落ち着いたとも言えます (www.stateofeuropeantech.com)。欧州では後期ラウンドの減速が目立ち、2024年第三四半期のVC投資額は四半期ベースで過去4年で最低の100億ドルにまで落ち込む場面もありました (European VC Funding Drops To Lowest Quarter In 4 Years, Despite Uptick For German Startups )(前年同期比39%減 (European VC Funding Drops To Lowest Quarter In 4 Years, Despite Uptick For German Startups ))。国別ではイギリスやドイツが依然トップクラスですが、特にドイツはQ3に前年同期比+33%と健闘し、フランスを上回る投資額を記録する四半期もありました (A Year in Review: The State of Venture Capital in 2024)。

セクター面では、フィンテック、クリーンテック、AIが欧州投資の三本柱です (A Year in Review: The State of Venture Capital in 2024)。フィンテックはデジタル金融サービスの革新により引き続き資金を集め、クリーンテックは欧州のグリーン政策を追い風に再生エネルギーやサステナ技術への投資が進みました。またAIも多業種での活用が期待され、大型資金調達がいくつか見られました。例えばイギリスやドイツではAIやフィンテック分野のスタートアップが巨額のVC資金を獲得し、欧州発ユニコーン企業も着実に増えています。

欧州のIPO市場は低迷が続いたものの回復の兆しが見られました。欧州全域(EMEIA地域)のIPO件数は522件、調達額は532億ドルと地域別では件数・金額とも最多となり (2024 IPO wrapped: Americas and EMEIA recover, Asia-Pacific lags | EY - Global)、世界最大のIPO(上場)マーケットとなっています(このEMEIAにはインドや中東・アフリカも含む)。特にインドや中東欧を含めたEMEIA地域からは、2024年の世界トップ10 IPOのうち6件が輩出され、そのうち3件はPE/VC支援企業でした (2024 IPO wrapped: Americas and EMEIA recover, Asia-Pacific lags | EY - Global)。欧州単体で見ても、IPOによる調達額は前年の2倍以上に増加しており (European IPO market showing signs of a comeback, says PwC – The Armchair Trader)、停滞していた新規株式公開が徐々に息を吹き返しています。ロンドンなど主要市場で大型上場の準備が進むなど、2025年に向けたIPOパイプラインも着実に形成されつつあります (European IPO market showing signs of a comeback, says PwC – The Armchair Trader) (European IPO market showing signs of a comeback, says PwC – The Armchair Trader)。

中国

中国のVC市場は2024年も大幅な減速を余儀なくされました。Crunchbaseによれば、アジア太平洋地域全体の年間VC投資額は658億ドルと10年ぶりの低水準に落ち込みましたが (Asia Venture Funding Tanks To 10-Year Low)、その背景には中国市場の失速が大きく影響しています。ある分析では、**2024年(1~10月)の中国におけるVC調達額は約282億ドル(取引件数2,116件)**で前年同期から27%近い急減となりました (Venture Capital Funding in China Drop; India Shines: GlobalData) (Venture Capital Funding in China Drop; India Shines: GlobalData)。特に1件あたり1億ドル以上の大型案件数が前年の70件から50件へ激減し、市場の縮小傾向が顕著です (Venture Capital Funding in China Drop; India Shines: GlobalData)。この低迷の要因としては、プラットフォーマー規制強化や地政学リスクによる投資家心理の冷え込み、国内経済の減速(デフレ懸念)などが挙げられます (Venture Capital Funding in China Drop; India Shines: GlobalData) (Asia Venture Funding Tanks To 10-Year Low)。実際、中国政府は景気刺激策として公務員給与を引き上げるなど異例の措置を講じましたが、VCマーケットには依然逆風が吹いている状況です (Asia Venture Funding Tanks To 10-Year Low)。

また、中国本土のIPO市場も低調で、2024年の新規上場件数は過去10年で最低水準に落ち込みました (2024 IPO wrapped: Americas and EMEIA recover, Asia-Pacific lags | EY - Global)。PwCの分析によれば、中国本土(上海・深センなど)のIPOによる調達額は前年比78%減という大幅縮小となり、世界のIPO市場停滞の主因になったとされています (European IPO market showing signs of a comeback, says PwC – The Armchair Trader)。香港市場も含めた中国圏のIPOは約125億ドルの調達に留まり、地域別では米国・欧州に次ぐ第三位にとどまりました (European IPO market showing signs of a comeback, says PwC)。このように中国はVC投資・IPOともに冬の時代にありますが、その一方でハードウェア(半導体)分野などで数億ドル規模の資金調達(例:自動車EV企業Avatrが15億ドル調達、半導体メーカーSJ Semiが7億ドル調達 (Asia Venture Funding Tanks To 10-Year Low))も散発的に起きており、政府主導のテクノロジー投資がどこまで下支えできるかが今後の焦点となります。

日本

日本のスタートアップ投資は、欧米ほど極端な冷え込みには至りませんでした。2024年の国内スタートアップによる資金調達額は速報ベースで約1兆891億円(約1.09兆円)と、2年ぶりに年間合計1兆円を上回りました (〖2024年 年間〗国内スタートアップ投資動向レポート|STARTUPS JOURNAL)。この額にはエクイティによる資金調達だけでなく、融資・社債などデットファイナンスや補助金・クラウドファンディングなども含まれていますが、それでも前年比+10.6%と緩やかな増加傾向にあります (〖2024年 年間〗国内スタートアップ投資動向レポート|STARTUPS JOURNAL)。一方、調達を実施したスタートアップ数は2,272社(前年比▲11.7%)と減少し (〖2024年 年間〗国内スタートアップ投資動向レポート|STARTUPS JOURNAL)、件数減・金額横ばいの傾向は日本市場にも見られました。ただし、日本の場合は一部の有望スタートアップに資金が集中する傾向が強まっており、実績のある企業が50~100億円規模の大型調達を実現するケースが増えています (〖アンケート調査〗日系VCが振り返る、2024年のスタートアップ投資動向 – TECHBLITZ)。未上場株式への投資マインド自体は欧米ほど冷え込んでおらず、国内VCにも潤沢なドライパウダー(未投資資金)があるため、優良スタートアップには引き続き大口投資が集まりやすい環境です (〖アンケート調査〗日系VCが振り返る、2024年のスタートアップ投資動向 – TECHBLITZ)。

国内IPO件数は比較的堅調で、2024年通年の新規上場企業数は86社と前年(96社)比でわずかに減少したものの、近年の水準をおおむね維持しました (東証調べ 2024年1~12月のIPOは86社 : Webマール : M&A情報データサイト | レコフデータ運営のマールオンライン)。世界的なIPO低迷の中で日本の新興企業の上場意欲は底堅く、特にマザーズ市場(現グロース市場)を中心に中小型IPOがコンスタントに続きました。ただ後半には公募価格を下回る初値がつく例も散見され、投資家の選別は厳しくなっています。M&Aや未上場株のセカンダリー取引も活発化しており、IPO以外のエグジット手段の多様化も日本市場の特徴となった一年でした (〖2024年 年間〗国内スタートアップ投資動向レポート|STARTUPS JOURNAL)。

新興国市場(インド・その他)

2024年は新興国市場への注目が一段と高まった年でもありました。中でもインドは顕著で、VC投資・IPOの両面で世界をリードする存在感を示しました。インドのスタートアップへのVC投資額は年間で160億~170億ドル規模に達し(2024年1~11月で167.7億ドル (VC investments hit $16.7 billion this year powered by tech sector | News - Business Standard))、前年から約14%増加しています (VC investments hit $16.7 billion this year powered by tech sector | News - Business Standard)。2022年から2023年にかけて投資額が急減していたインド市場でしたが(約257億ドル→96億ドル (India Venture Capital Report 2024 | Bain & Company))、2024年はAIやディープテック、EV、フィンテックなど幅広い分野で資金調達が活発化し、大きく回復しました。 (Venture Capital Funding in China Drop; India Shines: GlobalData)またインドのIPO件数は327件と推定され(世界全体1215件の約27%)、初めて世界最多となりました (2024 IPO wrapped: Americas and EMEIA recover, Asia-Pacific lags | EY - Global)。その件数は米国の2倍近く、欧州の2.5倍にのぼる規模で (2024 IPO wrapped: Americas and EMEIA recover, Asia-Pacific lags | EY - Global)、従来中国が占めていたIPO大国の地位をインドが席巻した形です。Swiggy(食品デリバリー)の13.5億ドルIPOなど内需型企業の大型上場が相次いだことが背景にあり、堅調な経済成長と相まってインドは投資家にとって「ホットな市場」 となりました。

その他の新興市場も総じて底堅さや局地的な成長を見せています。東南アジアではインドほどの規模には及ばないものの、デジタル経済の拡大を追い風に堅調なスタートアップ投資が続きました。地域全体としてVC資金は潤沢ではないものの、インドと東南アジアでは急速なデジタル化と成長する起業エコシステムを背景に投資のポケット的な強さが確認されています (A Year in Review: The State of Venture Capital in 2024)。

中南米(ラテンアメリカ)も明るい材料が見られました。2024年のラテンアメリカ地域のVC投資額は42億ドルと前年比+27%の増加となり、底入れ反転を果たしました (Latin America Startup Funding Ticked Higher In 2024)。金額は依然小さいものの、四半期ベースではQ4が年間最高となるなど回復基調が鮮明です (Latin America Startup Funding Ticked Higher In 2024)。中南米ではフィンテックが依然として最大の投資先セクターで、デジタル銀行や決済、金融包摂サービスのスタートアップに大型ラウンドが集まりました (Latin America Startup Funding Ticked Higher In 2024)。実例として、アルゼンチンのデジタル銀行UaláがシリーズEで3億ドルを調達するなど、金融分野のユニコーン候補が台頭しています (Latin America Startup Funding Ticked Higher In 2024)。

アフリカではやや対照的な動きとなり、VC投資額は約22億ドルと前年(29億ドル)比で25%の減少となりました (The State of Venture Capital in Africa in 2024 - Tech In Africa)。世界的な資金引き締まりの影響が新興国の中でも現れた格好ですが、それでも2017年以前に比べれば高水準を維持しています。地域内ではケニア・ナイジェリア・エジプト・南アフリカの「ビッグ4」が全体の84%を占めており、投資の地域偏在が続いています (The State of Venture Capital in Africa in 2024 - Tech In Africa)。セクターではフィンテックが依然資金の35%を占めトップですが、AIや気候テック、再生エネルギー分野へのシフトも進みつつあります (The State of Venture Capital in Africa in 2024 - Tech In Africa)。また、リスクマネーの不足を補うためベンチャーデット(融資型資金調達)の活用が増加する動きも見られました (The State of Venture Capital in Africa in 2024 - Tech In Africa) (The State of Venture Capital in Africa in 2024 - Tech In Africa)。

業界別の投資トレンド

2024年は業界別に見ると明暗がはっきりした年でした。以下に主要なトレンドをまとめます。

  • 人工知能(AI): 前述の通り、生成AIブームによってAI関連スタートアップが最大の資金流入先となりました (Startup Funding Regained Its Footing In 2024 As AI Became The Star Of The Show)。全世界VC投資の約1/3がAI系企業に向かい、その額は前年の倍近くに膨れあがりました (Startup Funding Regained Its Footing In 2024 As AI Became The Star Of The Show)。特に基盤モデル(大規模言語モデル)開発企業への投資が集中し、AIインフラ構築や各産業へのAI応用(自動運転、医療AI、金融AIなど)も活発に資金を呼び込みました (Startup Funding Regained Its Footing In 2024 As AI Became The Star Of The Show)。米国ではOpenAIやAnthropicなどが巨額調達を行い、中国でも独自の生成AI企業への政府系ファンド出資が見られるなど、各国でAIが投資テーマの中心となりました。

  • フィンテック: 金融テクノロジー分野への投資熱は依然冷めていません。欧州ではロンドンを中心にデジタル銀行や決済ソリューションのスタートアップが引き続き資金を集めています (A Year in Review: The State of Venture Capital in 2024)。新興国においてはフィンテックは社会課題解決型ビジネスとして重要視されており、前述の通りラテンアメリカやアフリカではVC投資額の最大セクターとなりました (Latin America Startup Funding Ticked Higher In 2024) (The State of Venture Capital in Africa in 2024 - Tech In Africa)。銀行口座を持たない人々への金融包摂サービスや、中小企業向け融資プラットフォームなど、各地域のニーズに根ざしたフィンテック企業が多くの投資を呼び込んでいます。

  • クリーンテック(気候・エネルギー): 脱炭素やエネルギー転換に向けた技術にも資金が集まりました。北米ではクリーンエネルギーやサステナビリティ関連スタートアップがAIと並ぶ注目領域となり (A Year in Review: The State of Venture Capital in 2024)、クライメイトテック・バッテリー技術などに大型投資が行われています。欧州でもEUのグリーンディール政策を背景にクリーンテック投資が堅調で (A Year in Review: The State of Venture Capital in 2024)、炭素削減技術や循環型経済プラットフォームへの出資が増加しました。新興国でも太陽光発電やEVインフラなどに対するVC資金の流入が見られ、クリーンテックはグローバルな投資テーマとして定着しつつあります。

  • ヘルスケア・バイオテクノロジー: パンデミック後も医療・バイオ系スタートアップへの投資は底堅く推移しました。2024年、グローバルで見ればAIほどの派手さはないものの、医療分野へのVC投資は安定的に維持されています (A Year in Review: The State of Venture Capital in 2024)。創薬プラットフォームや遺伝子医療、新興感染症対策技術など、人類の健康課題に挑むスタートアップは各国で一定の資金調達に成功しました。特に米国ではバイオテック企業のIPOやM&Aエグジットが徐々に戻りつつあり(製薬大手による買収などが散発)、投資家の期待も繋ぎ留められています。

  • その他の分野: ハードウェア/半導体は地政学リスクの高まりから戦略分野として各国で重要性が増し、中国や米国で政府系資金の支援を受けた大型調達事例がありました (Asia Venture Funding Tanks To 10-Year Low)。ブロックチェーン/暗号資産分野では、米国でビットコインETF承認など制度面の進展があり (2024 IPO wrapped: Americas and EMEIA recover, Asia-Pacific lags | EY - Global)、2025年以降の関連企業IPOに向けた期待も高まっています。また企業向けSaaSサイバーセキュリティ分野は、派手さこそないもののDX需要に支えられ安定した投資対象となりました。

今後注目すべき市場と展望

2024年のデータを踏まえ、今後注目すべき市場とその背景について展望します。

1. インド・新興アジア: 急成長と資本市場の台頭
インドを筆頭とする新興アジア市場は、今後も引き続き注目に値します。インドは豊富な人材層と堅調なマクロ経済を背景にスタートアップエコシステムが成熟度を増しており、グローバル投資家の関心も高まっています。実際、インドは世界のVC取引数・金額で米国に次ぐ第2位の地位を維持しており (Venture Capital Funding in China Drop; India Shines: GlobalData)、IPO市場でも主要な資金調達先となりました。強固なデジタルインフラと積極的な資本市場改革(例えば規制緩和や外資受入れ拡大)が追い風となり、今後数年はインドへの資金流入が続くと予想されます。また、東南アジアも若年人口と消費市場の拡大により地域全体でスタートアップ投資のポテンシャルが高いです。特にインドネシアやベトナムなどではユニコーン企業も誕生し始めており、「次のインド」を狙う動きが活発化するでしょう。

2. 北米市場のハイテク主導とIPO復活
米国は引き続きハイテク分野で世界をリードすると見られます。AIブームは中長期的にもイノベーションの波及効果が大きく、関連スタートアップへの巨額投資は当面続く可能性があります。EYの分析によれば、既に公開準備中のAI関連企業が60社以上存在し、今後も400社以上のAI企業がIPOパイプラインに控えているといいます (2024 IPO wrapped: Americas and EMEIA recover, Asia-Pacific lags | EY - Global)。これらが順調に上場すればAI領域での成功体験が確立され、他の高成長分野にも好循環が及ぶでしょう。また2024年末時点で米国株式市場は好調を維持しており、大統領選挙を通過した2025年は政策の方向性が見えやすくなる分、IPOに追い風との指摘もあります (2024 IPO wrapped: Americas and EMEIA recover, Asia-Pacific lags | EY - Global)。実際、過去の例を見ても米大統領選の翌年はIPOが活発化しやすく、2025年は米国を中心に世界的なIPO復活の年になるとの見方が出ています (2024 IPO wrapped: Americas and EMEIA recover, Asia-Pacific lags | EY - Global)。IPO市場が開けばVCへの資金供給源であるLP(出資者)も戻ってくると予想され、エコシステム全体に好影響が及ぶでしょう (Startup Funding Regained Its Footing In 2024 As AI Became The Star Of The Show)。

3. 欧州の産業政策とクライメイトテック
欧州はVC投資では米中に水をあけられていますが、政策主導のイノベーション支援により底力を発揮する可能性があります。EU各国はスタートアップ支援策や資金供給(例えば欧州投資銀行によるファンド出資)を強化しており、特にクライメイトテック(気候技術)やディープテック分野で世界をリードしようとしています。実際、2024年の欧州VC資金は半導体・量子技術・クリーンエネルギーなど戦略産業にも重点投下されており、政府と民間の協調が進んでいます。規制面でも資本市場同盟(CMU)の深化や上場要件緩和など企業成長を後押しする動きがみられ、2025年以降の欧州IPO市場拡大の下地が整いつつあります (European IPO market showing signs of a comeback, says PwC – The Armchair Trader) (European IPO market showing signs of a comeback, says PwC – The Armchair Trader)。もっとも地政学リスクや域内の経済格差といった課題も多く、欧州が真にグローバルなスタートアップハブとなるには各国市場の断片化解消官民のさらなる連携が鍵となるでしょう。

4. 中国市場の行方: 政策次第のリスクとチャンス
一方で低迷する中国市場の動向も引き続き注視が必要です。2024年は規制強化の逆風でVC・IPOが縮小しましたが、裏を返せば政策次第でリバウンドの余地も残されています。中国政府は2023年末~2024年にかけて経済刺激と民間活力の回復に舵を切りつつあり、ハイテク産業支援策の再開やプラットフォーム企業への姿勢転換があれば投資マインドが改善する可能性があります。特に半導体やクリーンエネルギーなど戦略分野では国家ファンドを通じた大規模投資が継続しており、これらの分野から技術的ブレークスルーや大型上場が出てくれば市場心理も好転しうるでしょう。ただし地政学的な対立や不動産市場の不安定さなど構造的リスクは依然抱えており、短期的には新興国・米国市場に比べて慎重な見極めが必要です。

5. 新興国その他: ラテンアメリカ・アフリカの潜在力
最後に、ラテンアメリカやアフリカなど他の新興エコシステムも中長期では見逃せません。ラテンアメリカは2024年にかけてVC投資が回復基調に転じており、人口ボーナス期に入るこれから本格的なスタートアップ成長局面を迎える可能性があります。ブラジルやメキシコなど大国のみならず、コロンビア・チリといった国からもユニークなスタートアップが登場しており、投資家の裾野が広がっています。アフリカも短期的には減速したものの、長期的な経済成長やデジタル化のポテンシャルは大きく、各国政府や国際機関によるスタートアップ支援プログラムが増加しています。特にフィンテックで成功事例を生み出したナイジェリアや、多様な技術実証が進むケニア・ルワンダなど、地域ごとに強みを持つテックハブが形成されつつあります。課題である国境を超えた資金流入の少なさについても、近年は米欧VCや中国資本によるアフリカ投資が活発化する動きがあり、新興市場への国際的な関与が深まればさらなる飛躍が期待できるでしょう。


以上のように、2024年の投資銀行・VC動向を振り返ると、地域ごとの投資額・成長率・IPO件数には大きな差異が見られました。北米はAIブームに沸き、欧州は小休止ながら復調の兆し、アジアはインドが台頭し中国は失速、日本は底堅く、新興国は一部で躍進、と明暗が分かれています。業界面でもAIやフィンテックが突出する一方で、クリーンテックやヘルスケアも着実に資金を集めました。このデータを踏まえつつ、今後はインドなど新興市場のさらなる成長AIを中心とした技術革新のエグジット(IPO)本格化がカギとなりそうです。金利環境の好転や政策支援も追い風となり、2025年には世界的に「リスクマネー回帰」の動きが強まるとの期待も高まっています。もっとも、不透明要因も残存するため、投資家は引き続き地域・分野を見極めた選択と集中 を迫られるでしょう。各市場の動向を注視しつつ、適切なポートフォリオ戦略で次なる成長機会を捉えることが重要になります。

(Global VC investments rose 5.4% to $368.5B in 2024, but deals fell 17% | NVCA/Pitchbook | VentureBeat) (Startup Funding Regained Its Footing In 2024 As AI Became The Star Of The Show) (Startup Funding Regained Its Footing In 2024 As AI Became The Star Of The Show) (2024 IPO wrapped: Americas and EMEIA recover, Asia-Pacific lags | EY - Global) (2024 IPO wrapped: Americas and EMEIA recover, Asia-Pacific lags | EY - Global) (www.stateofeuropeantech.com) (European VC Funding Drops To Lowest Quarter In 4 Years, Despite Uptick For German Startups ) (Venture Capital Funding in China Drop; India Shines: GlobalData) (2024 IPO wrapped: Americas and EMEIA recover, Asia-Pacific lags | EY - Global) (東証調べ 2024年1~12月のIPOは86社 : Webマール : M&A情報データサイト | レコフデータ運営のマールオンライン) (Latin America Startup Funding Ticked Higher In 2024)

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