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第19講・新年は進軍ラッパとともに

あけましておめでとうございます。
 いよいよ1999年で世紀末ですが、世も末の時代に世も末のハナシを、今年も展開してゆこうと思いますのでどうぞよろしくお願いいたします。


一発目の男

”せっせせっせ!”
みんなまだ正月の話などしてのんびりしてるのに、取立人は既に90%近い出力で運転しとります。来週の月曜日に申立する予定の不動産仮差押を準備しておるのです。
 ふと後輩が呼ぶ。
「電話っすー」
「誰じゃい?」
「わかんねーけど、判決がどーしたこーしたって文句こいてます!」
「しょーがねえな・・・もしもし?」

 相手は…歴代の「因縁つき案件」担当者の間で伝説となっている男、通称「ドン・キホーテ」です。私は「今年もロクな年にはならんだろうな」と覚悟を決めました。

 こいつはどーゆー男かといえば、今を去ること4年前。私が駆け出しの「因縁つき」担当者になったばっかりの頃
① リース物件は、使えないから残りは払わない
② 払えというなら、日本の正義は地に落ちた
と、裁判所でのたまった男であります。
 むろん、リースはカネの貸し借りと同じ金融取引ですので、そういった苦情を裁判所に言ったって通るわきゃないのです。因みに物件は初代に限りなく近いPC98で、そいつの場合は「物件が使えない」のではなくて「物件を使えない」といった方が正しい日本語の使い方となるのですが…ともあれ正義の味方はどうもそう思わなかったようです。
 
 当然、彼は1審で敗訴。
 ところが、そいつは
「原告の担当者と裁判官は、二人で私を陥れようとしている。控訴裁判所で、二人の不正をあばく」
という理由でほんとに控訴したのであります。
 そして、あまりにもあほらしい裁判のため2審(東京地裁)も敗訴。
「もう、これで諦めもついたろう」
と思っていると、なんと
「日本の司法機構は、完全に腐敗している」
という理由で上告しよったのであります。
 上告事件というのは重大な法律違反か憲法抵触でもなきゃムリなんです。当然、そいつは上告を棄却され、さすがに再審請求まではしませんで判決が確定しました。

 そいでもって、現在は自宅を強制競売されている所。


会話

「やー、あなたとお話ができるとは実に愉快だ!」
私は、伝説の男を前にして素直な感想を述べました。
「そうか…あんたなら私の言い分を理解して、正しい解決に達することができるかもしれん。だいたいお宅の会社は…」
と、延々とひと演説ぶちはじめたのであります。
 話の切れ間がないので、私は電話をスピーカーにしといて作業を続けていましたが
「おい!聞いてるのか?」
というので
「あー。聞いてますよ。歴代の担当は異常性格者ばっかだったんでしょ」
「そうだ」
また何やらひと演説始まりそうな雰囲気のため
「あのねー、変な期待されると困るんで先にいっとくけど、俺って異常性格者ばっかの会社の中でも特に「ヘン」だって言われてるから。そのへん理解した上で話してね(^^)」
と先手なんぞ打ってみました。

「私にはなあ、東大法学部の教授が控えている」
突如そんなコトを言う奴。本当なら、あんなバカな控訴審や上告事件はでねーよ。
「はあ、そうですか。それで?」
「それで?だあ?この程度の不当な判決なら、すぐにも無効にすることができる」
「じゃ、したら」
「それをしないのは、お宅の会社にも反省のチャンスをと思ってのことだ」
「そりゃお心遣いどうも」
「ところで君はどこの大学の出身だ?」
「言うほどのもんでもありませんがね、その法学部の教授の仕事場の近くですわ」
「学部は?私は法学部の出身だが」
「法学部法律学科で司法書士の資格がある」
「ほー」
「んな事はどうでもいいが、で、どうすんの?また今までと同じ主張する?」
「当然だ。しかし、お宅はひきょうだ。競売なんかして」
「あー、なんとでもゆーとくれ」
こりゃあ、話し合いの余地はありませんな。


デインジャラス・ゲーム始まる

「君ねえ、こういう仕事してて恥ずかしいと思わないの?権利か何かしらないが嵩に着て」
思ってたら、こんなホームページはつくりません。
 この仕事の妙味は、交渉のかけひきを楽しむというゲーム感覚にアリ。
 そこで、わたしゃドン・キホーテを相手にちょっとしたゲームをしてみることにしました。

 私は、これからリース物件を使っていた会社の預金口座の差押をします(判決は会社とドン個人と両方に出てるのでOK)。
 すると、銀行の当座取引約定書の規定で、預金の差押の入った会社は銀行取引停止…つまり、事実上倒産することになります。
 そして、そこからがゲームのはじまり。
 ケツに火のついた社長・・・つまり彼は、完全倒産を免れるために必死で手形を買い戻したり、当然うちとも話をつけなければならん。
 そういう状態であれば話にも真剣みが加わり、もっとホットな闘いができるようになります。
 
 ただし、これって債務者の収入源叩き潰すことになるので、うちの会社もへたすると「とりっぱぐれる」可能性もあり、結構危険なゲームなのでございます(因みに、社長のところの家族営業の会社だから遠慮なくやるんですけど。従業員いっぱいいる所は別)。だからこっちもマジになる…と。

 お互い、負けた者が失うものは所詮カネ。
 そういうわけで、すっかり取立人のゲームのコマになっちゃった社長さん。
 せいぜいがんばりたまえ。
(事の次第はいずれまた)

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