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第3講:ザ・夜逃げレポート①

夜逃げ学なのに夜逃げの話がないではないか!というご指摘をいただいた。よく考えてみれば確かにそうだ。そこで、きょうは本格的夜逃げの追跡劇をお届けしましょう(^^ゞ


いぶり出し大作戦in仙台

ある4月の日。私は暮れなずむ仙台の街、国分町を歩いていた。
とは言っても、飲みに行ったわけではない。けっして飲みにいったわけではない。これも、仕事である。
なにしろ、やつは300万近く借りて半分払わないうちにトンズラしてしまったのだ。さらに解せないのは松戸と仙台にそれぞれ家を持っていることだが、松戸は別の担当者が既に引き払った後であることを確認している。仙台の物件には、既に私が仮差押を入れて売れないようにしてある。
三吉(有名なおでん屋)の提灯に太助(有名な牛タン屋)の暖簾をうらめしく眺めながら現場へついた私は、早速現地調査を開始したのである。


いきなりデッドエンドか?

そこは仙台の中心にある瀟洒なマンションだった。煉瓦壁で、しゃれている。が、エレベーターホールへ入るには、住民に鍵を開けてもらうか自分の鍵でこれを開けて中へ入らなければならんのだ。
最近、こうしたセキュリテイの優れた建物が多いが、これは犯罪者の侵入を防ぐのみならず債権者の侵入をも阻止できるという優れた設備である。
入口にインターホンがあり、私は来訪先を呼び出すが応答はない。見れば、管理人室がある。私はそこで来訪先を告げ「~さんは不在ですかねえ?」と、さりげなく聞いたところ、初老の男性はぶっきらぼうに「住民のことについてはお話しできません」という。
手をかえ品をかえ、聞き出す努力をするが彼の口は固い。こうした商売にはなかなかの適材であるなと感心もしたが、そうも言っておれない。普通なら郵便受けのチェックをして、不在の程度を調べるがそれもできない。調査は、完全にデッド・エンド(ゆきどまり)にぶちあたったかのように思えた。


蛇の道は・・・

しかし、私とてこの道のプロフェッショナルのはしくれ。このような場合には、ある筋を介して非常に知名度の高い調査機関を無料で利用できる。少々要件は厳しいが、これはそれに足る事例であると踏んだ。
そして私は「そうですか。お邪魔しました」「ごくろうさん・・・」と、にこやかにその場を辞したのである。
それから1週間程して、私はニコニコしながら事件記録を見ていた。彼の現住所(住民票の登録地)と居所(実際にいる所)が見事にわかったのだ(^.^)私は東京へ帰ってきてから【調査しに行きましたが、けんもほろろに追い返されました】という報告書とともに”調査嘱託”を裁判所へ上申したのである。
これは、まさに字のとおり調査を嘱託(たのむ)するもの。どこへかって?帝国データバンクや探偵社ではない。もっと有名でどでかい組織・・・つまり、警視庁ならびに所轄各都道府県警察本部へ。裁判上の都合で所在調査を警察へ頼む手続きが「調査嘱託」で、私は以前これを一回やったことがあり、状況が酷似していたので再利用したのだ(^.^)。だから帰ってすぐにこれを上申して、結果は吉とでた。私は、警察の情報に接してニコニコしていたのである。


あわてる本人・ざわめく家族

絶対安全とタカをくくっていた本人のところに「仮差押決定」が届いた。彼の家は、上を下への大騒ぎである。しかも、逃げた先が自分の嫁の実家とくれば、なおさらだ。
本人から詫びの電話、親からも詫びの電話・・・忙しい。「しかし、どうしてわかったんでしょうねぇ?」「他は誰もこないの?」「ええ。おたくだけです」「まあ、調べ方なんていろいろあるからねー(^^ゞ」

「ところで、現在の残額ですがー・・・遅延損害金3年分で元金の倍になってまして全部で○百万円です」「ええーっ!」「・・てんじゃお話にならんから、まあこんなもんで・・・」
会社のコンピューターに登録されている残額が中途半端だったのでキリのいい数字を言っただけ。別に根拠はない。だいたい、オヤジさんが一括で代払いするから負けろというのだ。あとはバナナのたたき売りのようなもんで、値切られるのを承知で少々ふっかけたわけだ。
それから小1時間ほど交渉し、結局のところ残金プラス10万ぐらいのところで落ち着いた。その金は後日約束どおり振り込まれ、一件落着。
そしてそして・・・全額回収したその晩、私は「ぷはー (^.^)」と、会心の飲み心地のビールを味わったのである。
ハードな案件をこなした後のこの快感が、取立人を次の債務者へと立ち向かわせている(^^ゞ

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