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第4講:撃沈

カネの切れ目が縁の切れ目…てな言葉もありますが、ほんとにカネが切れてしまって縁も切れてしまった人から「カネを借りた覚えはない!」というケンカを売られました。私は、こうした案件の専門家として雇われておりますので本領発揮といったところ。無辜の市民を「はめる」事は私の執務方針としてやっておりませんが、実際に借りておいて否認する奴は破滅するまで追い込むのが私の流儀。
今回は、離婚のウサを債権者とのケンカで晴らそうとし、逆襲された男の哀しい物語・・・


俺は借りてない!

ある昼さがり。いつものように、ボルテージの高い人から電話がきた。

債:「訴状が届いた!」
私:「そうですか!」

裁判所へ訴状を出したのだから、相手方に届くのはあたりまえなのですが・・・

私:「で、どうします?」
債:「これは、別れた女房が勝手にやったことだから払わん!」
私:「ふふん・・・(不敵な笑み)」

んなこたあ、督促記録見てるから知ってます。”白いものを黒くする”裁判を展開することで定評のあるわたくしは、きちんと戦略を練って証拠書類もそろえて裁判を起こしておるのです。
この男はYという者です。某地方公共団体の役人でしたが、ハードな業務に精神障害を起こして退職した人なのであります。しゃべっていて、突如ボルテージがあがったり下がったりする所に精神分裂症の気を聞き取った私は相手に対する折衝戦略を定めて攻撃を開始したのであります。


短気は損気

人間にはいろいろ種類がありまして、怒らせると前後の見境なく矛盾したことをベラベラまくしたてる奴がおります。私はYがそういうタイプであると瞬時に判断したのですが、まだソナーで相手を窺っておりました。確かにYは自分では契約書に署名捺印していない、つまり奥さんが代筆したものであるらしいことはわかる。しかも、Yは奥さんに言われるままに貸金業者からの確認電話におうじていたようです。

Q 「奥さんと別れたのはいつ?」
A 「平成8年頃です」
Q 「平成7年の11月頃は別居してた?」
A 「まだです」
Q 「ところで、~銀行の口座はあなたのですか?」
A 「今は使ってない・・・今はね」
Q 「ということは、前は使ってたわけだね」
A 「女房が通帳とかぜんぶ握ってたから」
Q 「これは給料の受け取り口座かね?」
A 「そうだ」
Q 「平成7年11月6日の午前11時16分に役所へ電話確認してます」
A 「記憶にないなあ」
私 【これで充分だ(^^) 】

さあ、いつも人知れず活動している原子力潜水艦は攻撃準備を終えました(^^ゞいよいよ、盛大に攻撃を開始します。


「Yさんねえ・・・」おもむろに口をひらくわたし。
「奥さんに”確認には「はい」と答えろ”って言われて、ほんとにそう言ったってことは、あんた奥さんに契約書を作る権限を与えたってことになるよ」

Y:じゃあ、筆跡とかは関係ないって言うのかい!
私:そう。自筆かそうじゃないかなんて関係ない。それじゃ、文房具屋とかでくれるゴム印の領収書はぜんぶ無効ってことになっちゃうじゃん。
Y:・・・
私:【どうやら魚雷が命中したようだ】

ソナー室からも敵戦艦に魚雷命中の報せ。すかさず私は2番4番魚雷管に発射準備を命じ、追加攻撃に・・・

私:あなたの給料の受け取り口座から自動引き落としで支払いも受けてます
Y:俺が払ったわけじゃあない
私:あのねー、なんであんたの給料受け取り口座から引き落としできてそうなるわけよー
Y:だから、通帳は女房が持ってて・・・俺はしらない。誰かがカネを入れてたんだ
私:そうだよね。あんたの勤めてる役所がおカネ入れてくれてたんだからね

ほら。ハイテンションになって支離滅裂になってきた。


なぜ裁判は起こるのか?

分の悪くなったYは、債権者を懐柔しようとしとります(^^)

Y:話し合いをしよう
私:お互いの言い分がこんだけズレてて何を話し合うのよ
Y:とにかく、これは女房のやったことで・・・
私:それはおたくの主張でしょ?
Y:だからこれは事実なんだ!
Y:私は払わないとは言っていない
私:そうかい
Y:私は納得できれば払う
私:何を納得するんだい?
Y:だから、これは女房のやったことで俺に責任はないことをわかってくれれば払う
私:あんたに責任ないってことは、うちがカネ請求する理由もないってことでしょーが!!!

そう。「俺に責任ないことをみとめろ」といっているYに対して「あんたには責任がある」と言っている私との間では、Yが全額払うか私が借金チャラにしてやるかどっちかにしなきゃ事件は終わらない。
これだから、裁判が起こるのであります。


撃沈・・・そして自爆

Yの敗色が濃くなってきました。

Y:実は借金が2000万ぐらいあって払えない・・・
私:あんた…”払えない”と”払わない”ってえのは違うんだよ(第1講を参照のこと)
Y:・・・・・
私:あんた、払えないんなら払えないと言いなさい。払わないというなら、徹底的にやる。
Y:すみませんでした・・・(T_T)
私:はい。さようなら。裁判には来てね(^^)

その電話から4日後。Yは某地方裁判所へ破産の申立てをいたしました。
かなしいですねー。いやですねー。女房には逃げられるわ、逃げた後にはゴッソリ借金残ってて、しまいにゃ破産者。
おくさんは、ちゃんと選びましょうね(^^)

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