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第14講・現場シリーズその②お宅訪問

生々しいことでご好評の現場シリーズ第2弾の登場です。
 何はともあれ、お楽しみ下さいませ。


 東京駅から「ひかり」で約5時間。ところは平和都市広島です。

 その広島郊外に、われらが債務者の自宅はあったのでした。


なぜか、いい所に住む債務者 

 債務者の家は、広島地区にありがちな急斜面を切り開いて造成した新興住宅街。
 坂の上から海が見え、遠く宮島(厳島)など、眺望することのできる住宅でございます。
「いい所に住んでやがんなー」
と、ほうれん草の産地・東京は武蔵野のハズレで生まれそだった私は、内心おもしろくありません。
 この商売やってますと「お宅訪問」の機会が結構あるのですが、ウン百万も借金のある奴が港区白金台の豪華マンションに住んでいたりして、こういう奴に限って
「やっぱ都心じゃないとだめですよー」
などと抜かしやがります。
「フカの餌にしてやろうか?」
と思うのですが、ここはやはり債権者らしくカスのカスまで搾り取ってスカスカにしてからでも遅くはあるまい、と思いとどまり、しばらくすると忘れてしまうのでこれはいいメンタルストッパーですな(^^ゞ(まあ、時折それが外れてまさに「ケツの毛までむしる」状態になることもございますが)。
 
 ところで、今日の債務者についてご紹介をいたしましょう。
 彼は、今から4~5年前にうちの会社からカネを借りました。
 で、今年に入って逃げちまって私の所に担当替えになりました。
 しばらくの間は住民票など取り寄せて様子を見ていましたが、地道な努力が実って今年の7月になって行方が判明したのであります(^^)

担当者都合の裁判

 で、この債務者に対する裁判は
「行方不明かもしれんので、念には念を入れて」
という口実のもとに広島の裁判所へ起こしました。
 しかも、訴えの提起前に
「いまごろ申立をすると、裁判の期日はいつですかねえ?」
とわざわざ聞いております。
 と、いうのも。。。
 わたくし、どーせ広島に行くなら好物の生カキが食えるようになってから行きたい!
 そして生カキというのは、秋にならなきゃ食えんので、それを見計らってやったという、非常に計画的な裁判でありました(^^)
 
 前夜から広島入りして、ホテルの瀬戸内料理屋で銘酒「酔心」と共にすっかり生カキを堪能した私。
 しかし、私がやる借金系の民事裁判なんざ相手が来ない・・・つまり「欠席判決」な裁判ばっかりと相場が決まっているため、たった5分間裁判やって後は観光してたんじゃ気が咎めますのでまあ会社へのサービスのつもりで、債務者の自宅を訪問することにしたのであります(ちなみに、業界ではこうしたお宅訪問のことを「実地調査」略して「実調」あるいは「現地調査」の略で「現調」などと呼ぶことがあります)。


地図もなくいきなり・・

 いきなり行くことを決めたため、地図はありません。
 とりあえず区役所へ電話して最寄駅を聞き、とある駅へ。
「○○町2丁目ってえとドコですか?」
JR西日本社員の方に聞くと
「そりゃあ、そこですわ」
という答え。
 適当に歩いて電柱や表札の番地を見ながら
「34・・・35番地と」
「わ、42番地になってしもーた!」
てな事を10分ぐらいやって、目指す建物へとたどりついた私。


突入!

 とはいえ、いきなりやってはいけません。
 茶の湯でもまずはお道具を拝見するように、借金取立は郵便受を拝見することから始まるのです。
さしあたって、お宅の郵便受には某信販会社からの請求書とおぼしき封筒が。
 これだけですので、この債務者はまだ状態のいい方で、すごいのになるとこのテの書類で郵便受が満杯になってたりします。
 こうなるとどこかへ逃げたか、完全に支払意思を失ったかのどちらかで、対処法を練りなおすことになります。

 この第一の「拝見」が済むと、次は電気メーターの拝見となります。
 ついでガスメーターを拝見し、生活をしているかどうかを見極めるわけです。生活してなきゃ電気メーターはまわっちゃいませんから。
 そして、これら一連の拝見が済むと、いよいよ本丸へと向かうのです。 そこは一見別段何の変哲もない家でした。が、私にはおおいに変哲のある家です。
 そこには、債務者の典型的傾向である
「表札がない」あるいは「あったとしても、見づらい」
という点が顕著でありました。
 この家、表札のかわりにワープロ打ちした古ぼけた紙片が一枚貼りつけてあるだけ。
 しばらく扉の前で耳を澄ましていましたが物音ひとつせず、ドアをノックしても誰も出てはきません。
 そこで名刺をとりだし
「ご連絡されたし。14時25分」
とだけ書いて件(くだん)の郵便受に投入しました。
 また、借金とりであることは伏せて近所への居住確認の聞き込みをし、現場を離れたのであります。


実調の効果

 は、ありました。
 何しろ裁判の当日に、債権者の担当者が家へ来て名刺を投げ入れて行ったということは相当のインパクトがあったらしく、翌朝一番に
「ききき昨日は遠いところを・・」
と、どえらく恐縮した電話をちょうだいいたしております。
 話を聞いてみると素寒貧のようですのでスグ回収には結びつかないにしても、威力偵察としては、債務者を震撼せしめるのに充分な効果があったといえましょう。


余談ですが・・

 宮島の見えるところまで行ったため、せっかくですので私は遠慮なく宮島見物

をいたしまして「もみじ饅頭」も食し、鹿

とも遊んできました。

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