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第31話「サトウキビ収穫アルバイトのジレンマ」(小浜島)

自転車日本一周旅〜人生で大切なことはすべて旅で学んだ〜

小浜島は、石垣島と西表島に挟まれたサトウキビ畑の島だ
周囲19キロの小浜島のほとんどは、サトウキビ畑に覆われている。。
球場規模の畑に入って手斧で1本1本刈り取っていく作業は、雨の日もカンカン照りの日々も続く。1月の八重山諸島の気候はこちら関西の初夏に匹敵する暑さがある。毎日フルマラソンを走っているようなハードな労働の日々だ。

15歳から47歳までの多様な人々と協力し汗を流す。
学校に行っていない中学生から旅人の資金稼ぎ隊。
どういうわけかこの島に流れ着いた中年男性
毎年この時期に出稼ぎに来るリピーターたち。
実にさまざまな個性豊かな10数名との共同生活なのだ。

日中は畑で働き、仕事後は島酒を飲み交わしながらみんなと話をして過ごす。旅の出来事、海や島の美しさ、仕事の話、そして時には「人間って凄い」と思わせる人生論についても激論する。

例えばこんな感じだ。
春先から秋にかけて新潟県で米作りに励んで、小浜島に流れてきたエビスさんが、突然話を切り出した。

「君たちはノミ、知ってる?君たちはこんなノミじゃないの?」

「何、何?ノミって何?」

一同はエビスさんの話に耳を傾ける。

コップの中にノミを入れると飛び出して行くんだ。
 飛び出さないようにガラスの板を置いてあげると、
 ノミはコンコン打つんだ。   
 ノミも馬鹿じゃないから、
 次第に頭を打たないように飛び始めるんだよ、コップの中で。
 そしてそっと、そのガラスをはずしても、ノミは飛び出していかない。
 ガラス板があると思っているから、
 そのコップの縁より高く飛ぶことはしなくなるんだよ。
 君たちはそんなノミじゃないの?


キビガリ生活が始まって1週間が立つ。誰にも肉体的疲労が蓄積されて、知らず知らずの内に自分で限界という名の殻をつくっていたのかもしれない。
続けてエビスさんは謎かけをするように話す。

「こんな象がいるんだ」

「どんな象ですか?」

「サーカスで飼われている象の話なんだけど。
 子象の時、逃げないように足に鎖をかけて杭をうつんだ。
 それがどんどん成長して、大人の象になっていくと。
 杭の大きさはどれぐらいの杭になると思う?」


僕たちはそれぞれ感想を言う。

「それはかなりでかいんじゃないですか」

「大人の象だから電柱ぐらい太いのがいるんじゃないですか」

エビスさんはニヤリと笑いながら

「いや、杭は小象のときと同じ大きさでいいんだ。」

とグラスを手にする。

一同「ええ、何でですか?」

「象は、子どもの時から抜けないと思い込んでるから、
 大人になっても抜けないと思っているんだ。
 だから抜こうとなしないんだよ」

エビスさんはこの勝負勝ったと余裕で泡盛をあおっている。
このエビスさんは47歳の高齢にも関わらず、畑に入るときは必ず先頭をきって我々を引っ張っていく。
2人分の作業はこなす人なのだ。それに比べておれたちは、疲れもピークを迎え、この程度働けば十分だろうと自分で自分の限界を作っていた。
このエビスさんの動物のたとえ話は的を射ていた。
さらにエビスさんは続ける。

「君たち、水槽の中に外来種のブラックバスがいるとするよな。
 エサになる小魚を入れると、
 バグッとすごい勢いでアタックして食べてしまう元気なブラックバスだ。
 それをエサの小魚とブラックバスの間にガラスの板を入れてみる。
 ブラックバスはガラスにガツンガツンとぶつかって、
 そのうち小魚にアタックしなくなるんだ。
 それを見届けてから、
 ガラスの板をスーッと抜いてあげると
 小魚はブラックバスの間を泳いでいるのに
 ブラックバスはそれでも小魚を食べない。
 さて、どうしたらそのブラックバスに
 その小魚を食べさすことができるかな?」


「なんだ、なんだ、どうすればいいんだ」

誰も答えられない。

「その方法は簡単だよ。野生のブラックバスを一匹入れるんだ」

野生のブラックバスは迷いなく小魚に食らいつく。それを見て周りのブラックバスは、教育という呪縛から解き放たれるとエビスさんは言うのだ。
毎日のフルマラソンを走っているような生活に心身共にピークを迎えていた僕たちには、ショックだった。
サトウキビ刈りの作業も同じように似ているところがあって、僕たちはエビスさんにはできること、オレたちには出来ないことと勝手に物事の枠を決め込んで、限界の壁を自分たちで作っていたからだ。

限界という鎖をつけたのは誰だ?
能力がないと言って小さな箱に閉じ込めるのは誰だ?
全部自分や。そんなもん全部、ぶっ壊せ!

限界という枠は取り外し、更におれの行動が周りに影響を与える野生のブラックバスやエビスさんのようになってやろうと一同は明日からの畑作業に気合を入れたのだ。

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