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第25話「YHで教わった人生謳歌の秘訣」(沖縄本島)
自転車日本一周旅〜人生で大切なことはすべて旅で学んだ〜
沖縄本島最後の夜となった。
出会いを求めて今夜も沖縄国際YH(ユースホステル)に連泊する。
YHは沖縄県名護市で開催されたウォーキング大会に参加した老人たちと劇団「野原」という若者たち、そして旅人でごったがえし状態だった。
YHの素晴らしいところは、旅館やビジネスホテルにはない様々な人たちとの出会いを演出してくれる空間が設けられているところにある。
夕食後、交流室にて老人ウォーキング会の人や劇団の方たち10名ぐらいでオリオンビールを飲みながら自己紹介し、それぞれの考えや立場について話をする機会があった。
やはり自転車で日本一周している人は、常識から考えて変わった人と映るのだろう。
いろんな疑問が俺に向けられる。
質問に対しあまり的を得た答えになっておらず、あい変わらず情けない限りだ。
「どうして、あなたは、自転車で日本を一周しているの?
いったい何のためなの?
働いてないの?」
容赦ない質問がぐさりとささる。
動機・理由という類いのものは十中八九ほぼ間違いなく質問される。
これらに対する明確な答えが自分でも本当のところ分かっていない。
「自分の力で日本の東西南北のそれぞれの最端に立つことができたら、
ドラゴンボールを7つ集めると願い事が一つ叶うように、
何か人生が大きく変わるのではないか、
大変なことが起こるんじゃないだろうか、と思ったんですよ。
そう思ったら、
いても立ってもおられない心境になってやってきたんですよ~」
となんともマヌケなことを言い続けている。
質問者もどう返答していいのか、戸惑うことが多いのだ。
しかし、この人生の先輩方は旅人に暖かい。
「どんな理由にせよ、思ったことを行動に移すことはなかなかできないこと。」
「動き出せば、願いは半分かなっている。だから、残り半分に全力を尽くしたらいいのよ。」
「今は他人と比較する物差しは捨てること。物差しより志よ。」
しきりに人生の先輩方は、背中がこそばくなるほど自転車旅を肯定してくれ、若いってのは素晴らしいな、と本当にうらやましそうに言っていた。
だけど僕から見るとその人たちは充分に人生を謳歌しているような感じを受けた。
そういう今を大切に生きている人は若者にも優しいのだろう。
ある老人が人生を謳歌する秘訣を教えてくれた。
人生を謳歌するには、自分の中に自信が必要になる。
その自信を作る方法は一つ。
「自分で決めたことを守り続けることだ。
つまり、動き出せば、願いは半分かなっている。
だから、残り半分に全力を尽くしたらいいのだ。
その繰り返しが心構えを正し、
継続するに値する覚悟が出来るんだ。」
人は誰しも明日の運命を知らずに生きている。
だから心の中に2つの感情が渦巻いている。
一つは「安心」。
一つは「不安」。
心の中の2つの感情の割合が51対49になれば、片方の感情が心を支配する。
安心が51以上になるように、自分の心に自信を植え付ける。
自信は自己信頼。
この安心を期待と置き換えてもいい。
自分の決めたことをバカにせず愚直にやり続けると自信が出来上がってくる。
思い返せば自転車旅を出発する日。
僕の心は、期待と不安が入り混じっていた。
どちらかといえば期待より、不安が上まっていた。
事故を起こしたらどうしよう。
盗難にあったらどうしよう。
旅中で病気にでもなったらどう対処しよう。
不安要素が頭の中をグルグルと回っていた。その不安を消し去るかのように必死でペダルを漕いだ。
しかし、その不安は自転車旅を続けていく中で少しずつ小さくなり、代わりに期待が大きくなって自信がついた。ワクワクして自転車旅を謳歌している自分に出会ったのだ。
「ったく、最近の若い者は・・・」と口癖にする老人たちは決まって、不安に心が支配され、不満な人生なのだ。
会話中、ひたすらにビールを飲み続けた。中ジョッキ1杯、大びん3本、缶ビール5本ぐらいは飲んでいた。
そうだ、もうひとつ大きな理由があった。
サンサンと降り注ぐ太陽の光を受けて、ペダルを漕ぐ。
全身のエネルギーを使って、ガス欠寸前まで腹を空かせた後に摂取する燃料補給。
飯がうまい。
汗を流した後に飲む冷えたビールの味は最高にうまいのだ。
キンキンに冷え切ったビールを飲むために今日もペダルを漕いでいるのだ。
今宵は沖縄本島最後の夜にふさわしい気分のいい優雅な時間が流れた。
翌朝、10時出航の石垣島行きフェリーに乗船するために那覇新港に行く。
YHから数キロの距離なのであっという間に到着。
10時まであと3時間をどのように時間を潰すか考えながら待合室へ。
「ガ~ン」
フェリー出港時間が20時になっているではないか。なんてこったの勘違いだった。つくづくマヌケだなと考え込む。
10時と20時を見間違えていたのだ。
これから13時間もの時間をどうするか。
時間が有り余っているので、近くの公園に移動。
公園には散歩や昼寝の人、トレーニングに励む人、いろんな人を見かける。
沖縄には公園が多い。軽くくつろげるスペースがたくさんあるのだ。
12月下旬にこんなことがあってもいいのだろうかと驚く。
見かける人ほとんどがTシャツに短パンなのだ。
本土では考えられないなと驚きながら、公園のベンチで読書をしたり、近くのコンビニでアルバイト情報誌に目を通して時間を過ごす。
夕方、別の公園に移動し自転車でウロウロしていたら自転車旅行者がいた。
同じ自転車で日本一周を目指している田中君という25歳のチャリダーであった。
このチャリダーとの出会いが、このあとの自転車旅に大きなインパクトをもたらすこととなる。