2022.11.12 オンラインお話会
ついにお話会当日を迎えた。
私は朝からその為に準備をしていた……訳ではなく、また用事のため外出していた。
なぜ毎度毎度イベントの前に用事を入れてしまうのか、と過去の自分を恨んでいた。
帰宅する頃にはすでにお昼を過ぎていた。
先日からの胃腸炎のせいで朝から胃が痛かったが、食べないことには尚更体調が悪くなってしまう。
お粥やうどんに飽き飽きしていた私は、胃のことなど気にせずにネギトロ丼を作ることにした。
厄介な胃腸炎に好かれすぎて、もはやヤケクソである。
どうせ痛いのなら好きなものを食べよう。
そう思いながらスーパーに向かい、他の買い物もしていく。
土曜の昼時ともあってお惣菜などが充実していた。
不思議なことに美味しそうなそれらを眺めているとなぜか胃痛が改善されてきたのだ。
自らを食いしん坊と認めざるを得ない状況となってしまった。
悔しい限りである。否定できないことで尚更。
そんなことを考えつつ、ネギトロ丼に思いを馳せながら帰路に着いた。
ネギトロ丼を作り終えたのがお話会の30分ほど前だった。
急がなきゃと思っていたがそんなことを気にする必要もないくらいペロリと平らげた。
え?私胃腸炎だったよね?と思うくらいに私の胃が大きくOKサインを出しているのを感じた。
ありがとう、胃よ。
私にエナジーを与えてくれたのだね。
私頑張って戦ってくるね。
そう心の中で語りかけた。
そして久々に食べたネギトロ丼は、驚くほど美味しかった。
間違えて胃腸炎患者のネギトロ丼レビューを開いてしまったかと思った方、ご安心ください。
ここからやっとお話会の準備に取り掛かりますので、引き続きお楽しみいただけたらと思います。
食事を終えた私はいそいそとリングライトの準備を始めた。
某友人からリングライトはあった方がいいと助言をいただき、前日に大急ぎでとAmaz●n様にお願いしていた。
頼むぞ、私を幾分かマシにみせてくれないとお相手が瀕死してしまう可能性があるからな。と思いを込めてセッティングした。
肌が結構綺麗に見えるもので、人類はすごいものを生み出した物だなとひとり感心していた。
5分前から入室できるとの事で、接続チェックをしながらその時を待った。
あと20分くらいか…と時計を確認したとき、インターホンが鳴った。
おいおい、なんてタイミングだ。
勘弁してくれよ。
そう思いながらモニターを確認すると宅配のお兄さんがいた。
箱を3つ程抱えていてドアを開けるのに苦労しそうな体勢をしている。
その3つの箱を見て、ピンと来た。
あ、これ今日の(お話会の)分のCDや。
それに気づいた途端、感謝の気持ちと少しの申し訳なさを感じた。
重たいものをすいませんね。
それにしてもなんとも絶妙なタイミング。むしろグッドタイミングと言ってもいい。
というかお話会の途中でなくてよかった。
そんなことを考えながらサインをし、お兄さんを見送った。
約15分前
何を話そうか整理しようと思った。
話すことは考えてはいたが、あまり気乗りがしない内容というかぼんやりしたものだった。
今回はかなみんとあきちゃんそれぞれ2回ずつできる。
さて、どうするか。
その途端、私の脳内に降り注ぐものを感じた。
これだ。
これにしよう。
これを『瞬発力』というのだろうか。
昔からギリギリに追い込まれると今まで出てこなかった閃きが降りてくるという謎の才能を発揮する人間だった。
そのため学生時代も、課題を締切当日の明け方5時にやるなどアホなことをして乗り切っていた。
恐らくその力に加えて、古のオタクの経験値が効果を発揮したのだろう。
あぁ、元々オタクでよかった。
そう自分を褒めたたえていると、刻一刻と時間が迫ってきていた。
まもなく、というところで
〖間に合えば、画面を横にしてください〗
と表示が出た。
私は横向きにスマホを設置していた。
は?横向きですけど?画面回転しろってこと?
と回転解除のボタンを押すが変わらない。
なんだ?と思っていると、突然そこにドアップのかなみんが横向きになって登場した。
「あ、縦に置くものだったのかこれ」
気づいた私は急いで画面の向きを変える。
心の中で呟いたはずの言葉を私はしっかりと口にだしてしまっていたのが、今思い出しても恥ずかしい。
『こんにちは〜』
かなみんの笑顔は今日も眩しい。
そして動画で見るままの綺麗なお顔。
可愛い。
とりあえず挨拶から始めよう。
そして初手は幕張の感想を言おう。
そう意気込み、挨拶を始める。
「はじめまして〜いかです〜」
『わ〜!いかさん!はじめまして〜』
「うわ〜本物だ〜!ドゥフッッ」
お互い手を振りあっている。
なんて素敵な時間。
小さく映る自分の顔はにやけててとんでもなく気持ち悪いが気にしないでおこう。
そう思っていると左上のストップウォッチがあかくなっているのが見えた。
ん?どういうことだ?
「…あれ?もしかして終わり?」
また無意識に言葉に出していた。
その言葉にかなみんも、
『えっ!あっ!ほんとだ!』
と焦ってくれている。
ふたりであわあわしていると本当に終わりが近づいたきた。
『ありがとうね!これからもよろしくね〜!』
そうかなみんはギリギリで伝えてくれた。
私は「またね〜!!」と手を振ることで必死だった。
その瞬間、ぷつりと無機質に画面のかなみんが消えた。
静寂に包まれる室内。
近くを走る電車の音と、どこかの部屋の室外機の音が微かに聞こえるだけだった。
「早っ……」
ひとつ溜息をついたあと、思わずそう呟いた。
想像の倍時が過ぎるのが早かった。
勘違いされないために言っておくが、溜息をついたのは話せなかったことによる悲しみからではない。
力みすぎて酸素がうすくなっていたからである。
まったく後悔や悲しみはなかった。
むしろかなみんが豪華な予行練習をさせてくれたのだとさえ思っていた。
普段ネガティブなくせにこういうときはやたらポジティブなのだ。
オタクって都合のいい生き物だもの。
(※個人の意見です)
次こそはと待機する。
そこで数日前にやっていたかなみんのインスタライブを思い出した。
せっかくだから有益な情報を得たい。
かなみんのブランドについて聞いてみよう。
間があまりなかった為、そのときはすぐにやってきた。
『こんにちは〜また〜』
「また〜どうも〜」
「かなみんのブランドすごく楽しみにしてて、かなみんが1番気に入ってるアイテムを教えてください!」
『販売するものの中でですもんね!うーんそうだな〜………セットアップ!』
「セットアップ!ありがとう!楽しみにしてますね!こらからも応援してますー!」
『ありがとね〜またね〜』
「またね〜」
なんとも自然な会話。
よく頑張ったな自分。
そう思いながらも、そういえばインスタライブでも上下のものとかあるよって言ってたくらいだったからそれがイチオシだったのかもとやや質問の安直さに無念な気持ちが残った。
でも、セットアップか…
かなみんの気持ちがこもっていてお気に入りの商品。
これは買うしかないな。
そう決意した瞬間だった。
続いてはあきちゃん。
あきちゃんへは、幕張であきちゃんが泣きながら語っていた自分の言葉へのコンプレックスなどを拭うような声掛けをしてあげたかった。
ちゃんとあきちゃんの思いはパフォーマンスから伝わっているよ、と安心させてあげたかった。
待機時間の間、私は面接練習かのように左上のストップウォッチを使いながら何度も何度も練習した。
きっと他の宣伝部員さんもこんなふうに練習したりしているのだろう。
そう思ったら勝手に心強くなった。
時間だ。
いよいよ対面の時。
飛び込んできたあきちゃんは、くまさんお団子にもふもふの白いファーの飾りを付けていた。
爆発的に可愛い。
『こんにちは〜』
あのゆるい声色と天使の笑顔で挨拶され、意識を保つことに必死だった。
少しでも気を緩めれば、即・天界送り。
これは戦なのだ。
まずは社会人としての基本、自己紹介から行った。
「はじめまして〜いかです〜」
『はじめまして〜いかさん〜』
たわいも無い挨拶かと思いきや、あきちゃんはにこにこしながら頭の上に三角屋根のような形を作った"いかさんポーズ"をしてくれたのだった。
尊い。あまりにも尊い。
私、いかに生まれてよかったよ。
ありがとう、この世の全てのイカさん。
いや、イカ様。
そう思いながらグロテスクな笑顔と共に私もいかさんポーズをした。
いけない。気を取られてはいけない。
思いを伝えなければ。
懸命に意識を保ち、自分が伝える番だと強い意志を持って口を開いた。
「この前の幕張が初めて行ったライブで本当に素敵でした!」
『わ〜ありがとうございますっ』
「言葉じゃなくてもあきちゃんのパフォーマンスから気持ちや思いがたくさん伝わってるから、これからも頑張ってね」
『はいっ!ありがとうございますっ!』
「これからも応援してます!またね〜!」
『はーい!また!ありがとうございました〜』
そして、また静寂。
言えた。言えたぞ。
これが今回1番伝えたかったことだった。
なんとも言えない達成感に包まれながら、もう一度さっきまでの情景に思いを馳せていた。
かなみんもそうだったが、なぜあんなに目が大きいのだろうか。
ノーマルカメラであんなに綺麗なお顔なのも、今更ながら不思議でならない。
それにしてもあきちゃんのいかさんポーズの破壊力、やばすぎる。
「ファーーッッ!!!!!」
静寂を断ち切るように、気づいたら叫んでいた。
近隣住民からヤバい奴が住んでいると認識されていないことを祈りたい。
もはや緊張は興奮へと変わっていた。
早くあきちゃんに会いたい。
1分1秒にもどかしささえ感じていた。
そして最終の回。
あきちゃんにアピールしようといかさんポーズで待ち構える私。
いい大人がひとりの部屋で何をしているのだろうか。
しかしあきちゃんのイメージに訴えかけるためだ、と恥を押し殺した。
すると画面に映るあきちゃんもポーズをして待ち構えてくれていた。
ハートだ。
あの両手で作って小指かどこかを立てているハートだ。(老化により若者のポーズが正確に認識できていない)
当然のように撃ち抜かれた。
が、意識を保つことはできた。
自分を褒め讃えたい。
私のいかさんポーズを見てからは、同じポーズに切り替えてくれて、
『あ、いかさ〜ん』
と声をかけてくれた。
生きててよかった。
そうおもっていただけなのに私の口は
「また会いましたね」
とキレキレのダンディズムを決め込み口説き落とす紳士のような口調になっていた。
全く何様のつもりだと我ながら思った。
「あきちゃんが自分のブランドを持つとしたら何を扱うブランドにしたいですか?」
そう質問した。
なぜかというと単純にあきちゃんプロデュースのブランドグッズが欲しかったからだ。
推しが考えたグッズが欲しくないオタクなどいない。
"言霊"というものがあるように、声に出したら実現する可能性もある。
あきちゃんがその気になってくれて、オトナが動けば最高だ。
あきちゃんは悩むことなく空を見上げて微笑みながら答えた。
『やっぱりアクセサリーと雑貨がいいですねぇ』
私の理想の答えだった。
あきちゃんには服というよりアクセサリーなどの小物系をプロデュースして欲しかった。
うさぎやリボン、星のチャームとかも使うんだろうなぁ…と妄想が広がる。
「ぜひお願いします!」
ニチャァ顔のクソキモオタクがバカデカボイスで発すると、あきちゃんが続ける。
『んー…でもやりたいけど…やらせてもらえるかどうか……』
俯き加減で少し表情を暗くした。
「え!やろうよ!やってほしい…!」
思いが先行して敬語すら外れてしまった。
『…どうでしょう…』
すごく切なげな表情で、通信は途切れた。
込み上げる達成感と、
あのあきちゃんの切なげな表情が忘れられずにまた叫んだ。
運営様
今すぐあきちゃんプロデュースブランドのクラファンを設立しましょう。
きっとあきちゃん推し、いや全宣伝部員さんが総力をあげて札束をダンクシュートすることでしょう。
こうして私の1日目のお話会は幕を閉じたのであった。
まだ翌日にはひよりんとひとかちゃんのペアお話会を控えているため気は緩められない。
推したちの力はあまりにも偉大で、胃腸炎という私の厄介オタクを追い出してくれていたことに、のちに気づくこととなる。