黒神話:悟空やってみた!⑤
冒頭から、閑話。
すごく大事なことを打ち明けよう。
黒神話:悟空は、痩せる!!(超個人的主観)
一年ほど前からあすけんとゆースマホアプリをゆるーく使ってぷちダイエットをしていたのだが、体重というのはある程度下がると、一定ラインからは「食事制限だけでは」絶対に下がらない(経験則)。どうしてもそれ以上に下げるためには運動、すなわち「身体(筋肉)を動かし鍛える」という要素が必須となる。
…それが、黒神話:悟空を無我夢中でやっていたら初めて越えられなかったラインを下回った。まあそりゃそうだろうなと思う。というのも辛いリトライ対戦時などはかなり汗をかくため、度々タンクトップ1枚になっていたからだ(いい歳のBBAがタンクトップ一枚でアクションゲームで汗だくなんてアホの極み)。しかもヒドい日は翌日全身が筋肉痛だったりもした。要するに「全身に力をこめて」プレイしているのだ。何時間もぶっ続けで。
なので、敢えて声を大にして言う。
私にとって黒神話悟空は「ダイエットもできる一石二鳥!なゲーム」だ!
たとえ勝てなくてもカロリー消費の運動をしているのだからその戦いは決して無駄ではない!(と己に言い聞かせつつ)。
では、閑話休題。
さんざん悪戦苦闘しながらクリアした黒神話:悟空の4章「曲度紫鴛」。
阿呆らしい雄叫び、なまぬるく笑って読んでくだされ…
いつものように原作解説もするので、キャラ名とか設定とか原作がどうなってるか知ってもらえたらすごく嬉しい。(原作とはぜんぜん違う設定になってたりする部分もあるのでぜひ)
ちな、今回の4章舞台の原作主軸は8巻「72〜73回」の「盤糸嶺盤糸洞および黄花観(観とは道観のこと、道教の寺院)」。だが出てくるNPCキャラや隠しボスなどは別の話からの出典もある。
まずゲームから。
3章末で猪八戒と合流した主人公、4章出だしのムービーではなにやら長持ちのようなものに隠れ潜んで運ばれているところから始まる。
辺りはすっかり宵闇の時刻。長持ちから飛び出しプレイ開始すると、八戒が自動サポーターとしてそばにくっつき、妖怪と戦闘になると一緒に戦い、時には回復もかけてくれる。こっちからコントロールは一切できずただついてくるだけだが、複数の敵に囲まれそうになった時など大変心強かった。
さて村の入り口を通過しご立派な邸宅前までやってくるとイベントが始まり(詳細はネタばれを避けるため省く)八戒がまた離脱し主人公一人になる。んで手始めの中ボス1戦目。
ド級のへっぽことは言え一応3章までクリアした身。何とかやり直しもなく一度で打ち倒し、奥へ進む。ぽっかりと深ーーい穴に遭遇。
…ぶっちゃけるが、3章の序盤でさんざん「落下死」を体験した身としてはその穴に身を投じるのにかなりの覚悟がいった。多分「これ」に飛び込むのが次のステージだろ、だってこれ盤糸洞だもんな(原作脳)と判ってはいたのだが、それでも躊躇い、大分周辺をうろついたりした。結局攻略Pまで見に行き、間違いなく「穴に飛び込むと次のマップへ…」とあるのを確認してから渋々飛び込んだ。
(※ちな、次の土地神の祠を開放すればいつでもコマンド一つで行き来できるので清水の舞台もとい大穴に飛び込むのは一度きりでOK)
中は、それはもう恐ろしく深くてすさまじく広い底の見えない(まるでメイドインアビスのあの「穴」のような)壮観な洞窟だった。概ねは冷たく暗い岩だらけの風景、奥まった場所には蜘蛛の糸が幾重にも重なり、気味悪い虫らしきものの卵や繭がそこら中にびっしりとはりつき、しかし時折は(日中に陽が差す想定で)緑が生い茂る草原のような美しい場所もあり、水場もあり、下へ下へと道を探して降りながら探索していく。
あいかわらず遠隔攻撃ばっかりしてくる厄介な敵たち。しかも殆ど虫系ばかりでキモイのなんの。造形がリアルすぎて、虫系が苦手な人間にはこの4章をプレイするのは無理じゃね?とすら思う。(私はまあギリ大丈夫)
そして、3章よりこの4章の盤糸洞のほうが「迷った」。何が阿呆って攻略Pのマップを見てさえ迷えるのだからすごい(おまえがな)。つくづくゲーム内でマッピング機能がほしい。降りられはするが上れない場所というポイントもいくつもあり、結局序盤の次の中ボス「百足虫」と対戦するまでにすさまじく迷って随分時間を費やした。
なお、この盤糸洞での「主人公の行動指標」は先に突撃し離脱してしまった八戒と合流すること、及び「斉天大聖の宝具(ゲーム上は「根器」と呼ばれている)を回収すること」である。
以下、ネタばれ領域ではあるが全く何も語らないのも4章解説としてはどうにもならないので軽く言っておくと、
離脱した八戒と合流する前に、八戒とは戦闘になる。しかも1戦目よりも2戦目のイノシシ形態+ナマズ形態のほうが激烈強い。
原作でも実は八戒強いんだよほんとは。孫さまが強すぎるのと、普段ぐうたらばっかりなせいでちっともそのへん知られてないだろうけど。
さて長く深い盤糸洞をやっとこクリアすると(虫嫌いな人にはトラウマ級のイベントを超えた後)黄花観というマップに強制移動となり、そこからは緑美しい山間が舞台となる。ガチで写真撮りまくりたい!くらいな風光明媚。そして出てくる妖怪はキモい虫系以外に一見人間ぽい道士も加わる。樹木の妖怪もいた。
以降は簡単に中ボスキャラの紹介をしながら、プレイ時に舐めた辛酸wwを軽く説明しよう。なお「魂魄」がとれる妖怪は今回はほぼ省略(概ねは倒して手に入れたが解説する必要のない雑魚キャラばかりなので)。
二女:一番出だしの邸宅にいる美女→馬鹿でかい蜘蛛の妖怪、初見で打倒。
琴螂仙:ちょっと特殊なイベント挟むのでいれとく。巨大な毒芋虫。琴螂の蛹というアイテムが手に入るのでこれを隠れ村(六六村)の辰龍に渡すと植木鉢wに植えてくれる。それに繭圓というアイテムを3つやると魂魄が植木鉢から生えてくるw(辰龍は他にもドロップした種を渡すと薬草生やしてくれる便利なNPCキャラだ、隠れ村はぜひ解放しよう、3章参照)
黒手の道人(1戦目・2戦目) :背中から腕が六本?生えてるへんな怪人。ネタバレ満載かつ意味深な台詞を吐く。1戦目は倒すまでに背中の腕を何本もぎ取ったかで特定のアイテム落とすらしいが、私はうっかりテキトーに倒してしまいアイテム取れなかった。2戦目は更に強いがまあどうにか倒した
百足虫:出会うのにさんざん迷って苦労したが倒すのは一晩かからなかった
(やり直してないとは言ってない)
右手虫:天井からでかい腕がぶら下がっててw実は手の形のしっぽ振り回してるキモイ顔の芋虫だったww数回リトライし撃破
猪八戒(1戦目・2戦目):前述の通り敵として登場、戦い方や逃げ方が原作初登場時を彷彿とさせる(2巻で三蔵一行は妖怪退治を頼まれるんだがその妖怪てのが八戒で、その嫁!に化けた悟空が寝床で待ち構えて対戦するのだ)。ちな1戦目は一度で勝ち抜いたが2戦目はやや苦労した。
紫蛛児:大蜘蛛の親玉(蜘蛛姉妹たちの母親、人間形態ではお婆ちゃん)。何度かリトライになったがとりあえず撃破。それよりも、撃破後のイベントで「脱出」するのにも何回か死んでやり直した。すげえぞわっとなる光景のイベントなので幾度もリトライするのマジでつらかった…
毒敵大王:隠しエリアの中ボス、サソリの妖怪。寅虎センセーを攻略してたときと同じくらい絶望に打ちひしがれた。くっそ強い。つうか毒付与が地味に強過ぎて即死の連続!とにかく攻撃パターンを熟知するまで延々死に続け、最終的に禁字術で強行突破した。指おかしくなった。
靡道人(びどうじん)第一形態、第二形態:キモい仮面?の道士。最初NPCとして会話し、某アイテムを差し出すと戦闘になる。毒付与に気を付ければ雑魚敵、一度で撃破。
晦月魔君(かいげつまくん)1戦目・2戦目:コケコッコー!!!と雄叫ぶデカイ鶏の妖怪。そうニワトリなの。攻略動画でこいつを鶏と認識してる方が殆ど居なくて(そらそーだ)気の毒すぎる境遇、原作改変甚だしいw
1戦目はともかく2戦目が猛攻激しく撃破に2晩くらいかかった。こいつを倒すと謎の(壮絶コワイ造形の)美女が出てきて「刺繍針」という法具をくれる。ラスボス戦でお役立ちキーアイテム。
なおこいつの正体については原作説明をご覧いただきたい。
小黄龍:盤糸洞の寄り道エリア、堕龍壁という祠の先にいる。
寅虎センセーより強いかも…あんまり勝てなくてマジ泣きした。敵の攻撃を確実に回避できないと勝てないという典型で…しかもHPの残り具合で攻撃パターンが変化、迂闊に攻撃すると手痛い反撃のみで簡単に死ねる。とはいえ形態は人型で攻撃しやすいし、地味にたたけばHPは減るし定身術はタイミングさえ間違えなければ確実に効くので、とにかくチマチマHPを削りつつ後半までは法力(MP)も可能な限り温存し、必死に(確実に)回避、最後には寅虎センセーでとどめをさした。
法具は攻略サイトお勧めの刺繍針ではなく2章で手に入れた「定風珠」のほうが大技キャンセルできてお得(大技=空中に飛んで激強連続飛来攻撃)。守るべきは以下3つ。
①「攻撃を欲張らない(いいとこ2.3撃までで止める、それ以上は手痛い反撃くらう)」
②「敵の連撃は必ず全部避け切ってから攻撃に移る」
③「HP半分以下になると重攻撃はほぼ気功術で回避され反撃がくるので使うなら大技の直後のみ厳守(ゲージMAXの重攻撃なら大技の前でも可、技をキャンセルできる、タイミング注意)」
王霊官:頭が手!になってるどびっくり外観の翼持ち妖怪(神仙)、ぱっと見カラス天狗みたい。札イベントの隠しボス。6章の中ボスっぽいんだが先行でサービス出撃。盤糸洞に3か所ある札を全部はがすと黄花観の最奥(ラスボス手前)4枚目の札がはがせるようになり、こいつと戦闘になる。HPをちょびっと(1割程度)減らしただけでイベントが始まるのでほぼアイテムゲットのためのボーナスステージと思っていい。とはいえむちゃくちゃ強いんで油断すると即こっちが死にかける、要注意ww(危なかった)
百眼魔君:4章ラスボス、ムカデ(百足)の妖怪。上半身人間でケンタウロスみたく下半身がバカでかいムカデ、特徴的な二股しっぽも忠実に再現されててぞわっとする。百足虫とかいう名の中ボス居たけどぜんぜん関係ない、こっちが本物のムカデ。因みに百眼真君とかいう名の中ボスも(2章に)居たけどそれもぜんぜん関係ない。こっちが本物の「百眼魔君」。別名を多目怪。
何で百眼かっつうと原作ではこの妖怪、両脇の下に千個の目がついてて(百眼じゃなくて千眼やんとツッコミしつつ)金光を放ち相手を弱体化させる大技を持つ。でもゲームでは脇の下に目ついてなかったよな…
こいつはめっちゃ腹立つ攻撃ばっか。ムカつくフェイント多いし毒も雷も火も使うし正面は足元スカスカでこっちの攻撃が当たりにくい。一晩で攻略できず翌日まで持ち越し。何度か「あと一撃だったのに!」とじたばたww
ラスボス倒すといつも通り章末の特別アニメーションが始まる。今回は猪八戒の話。というところで、じゃあ原作がどうなのか、特に「どう違うか」を知っていただきたい。
原作8巻の「第72回」が「盤糸洞」、「第73回」が「黄花観」である。一話完結、のように見せかけて実は2話連続だ。ごく簡単にまとめると
三蔵法師が通りすがりのよさげな邸宅へ托鉢へ行くも、そこは女妖怪たちの巣で、とっつかまり食われそうになる。どうにか弟子たちが助け出し一度は一件落着、になるが、そのまま近くの道観に立ち寄ったら、そこの主はなんとさっきの女怪たちの師兄であり、やっぱり妖怪だった。
さらにさっきの騒ぎで女怪たちも道観に逃げ込んできており、師兄へ裏で告げ口。すると道士は三蔵一行に毒を盛り、悟空以外の全員が卒倒。悟空だけ逃げ出し戦いになるも悪戦苦闘、最終的には強力な助っ人を呼んできて倒してもらった!
という話になる。
しかしこれだけでは原作の面白さがちっとも伝わらないので、もう少し丁寧に原作のあらすじを紹介しよう。
まず三蔵法師、よせばいいのに「たまには師匠自ら托鉢に出かけたい」と奮起してよさけな邸宅に突撃する。もちろん悟空は「何かあったら危ないからおれさまが行きますよ」と止めたがいうことをきく訳がない。
しかし、いざ入ってみるとうら若い女たちばかり7人もいる。しかも入る前はごく普通の田舎家だったのに中はまるで深い洞窟の中のようだった。石の卓・椅子。寒々しい岩肌。やばい場所に入ったぞ、と三蔵はあわてて逃げようとするが、女たちは逃さない。というのも彼女らの正体は人間ではなく妖怪だったのだ。
あっという間に三蔵を捕らえ無体な縛り方でつるし上げた後、女たちは家全体を自ら(へそから)繰り出した不思議な糸で巨大な苫のようにまるっと覆ってしまうのだった。
不穏な状況に一番最初に気づいたのは悟空。師匠が訪ねていった家が、いつのまにか奇怪な縄状のものに覆われてキラキラ光っている。あわてて弟たちに一言告げてから様子を探りにいくが、近寄ってみてそのぐにゃぐにゃした縄のようなソレを棒でつつき、どうも厄介そうだと判断すると、悟空、まずは土地神を呼び出す呪文を唱えた。
土地神は斉天大聖を猛烈に怖がっておりびくびくしながらも、ここが「盤糸嶺」であり「盤糸洞」と呼ばれる洞窟に七人の女妖怪が住まうと教えてくれる。また近くには天然の温泉・濯垢泉があり、昔は天上の七仙姑が湯浴みに使っていたが、いつからかその七人の女怪が使うようになったため、七仙姑たちも争わずその場所を譲ってしまったとのこと。日に三回、だいたい同じ刻限で湯浴みに行くと聞き、なら待ち構えてみようとて、蠅に化けその場に待機。
やがて少し経つと、まるで「蚕が葉を食べるときのようなざわめく音」と共に家を覆っていた縄が全て消え失せ、美女が7人もゾロゾロ、キャッキャと楽しげに家から出てきた。悟空(蠅)、一人の女の髷にくっつき更に様子を窺う。女の一人が「お風呂から上がったらさっき捕まえた坊主を蒸かして食べましょうね」と言っているのを聞き、なんとなく事態も察し、女たちが裸体を晒してお湯に浸かるのを見ながらさあどうしようと思案。
<今すっぱだかの女どもを殺すのは簡単だが、可哀想だし男がすたる。それよりは脱いだ服をかっぱらえば湯から出られなくなってあわてふためくだろうし面白い、その間に師匠を救い出しておさらばするか>と考えた悟空は、蠅から今度は鷹に化け、女たちが衣桁にかけていた服を全部残らずひっつかんでその場からあっという間に飛び去った。
盗んだ服をおとうとたちの元へ持ち帰り、悟空は事の次第を説明する。ところが話を聞いた八戒が「正体が妖怪なら師匠を助ける前に全員ぶち殺したほうが間違いないだろ」と文句を言ってきた。悟空が「おれさまはいやだ、やりたきゃおぬしが自分で行け」と反論すると「じゃあ行く」と今度は八戒が勇んで温泉へ出掛けて行く。
さて濯垢泉に着くと、なるほど悟空が言ったとおり女たちは湯の中にうずくまって出られないで居た。八戒ゲラゲラ笑いながら「女菩薩さまがた、楽しくご入浴ですな、この和尚も一緒に入っていいですかね」などと言い服を脱いでずかずか入っていく。もちろん女たちは無礼な、と怒って拒絶しようとしたが八戒はまるで構わずざぶんと湯にもぐり、ナマズに化けて女たちの足の間をぬらりぬらりとすり抜け、さんざんからかい愉しんだ。悲鳴をあげ逃げ惑う女たち。やがて女たちがすっかりのぼせてぐったりしたところで八戒、元の姿に戻り女たちをどやしつける。
相手が「天蓬元帥」と知りびっくりした女たち、一度は服従の意を示し素直に師匠をお返ししますと言ったのだが、なにしろ有頂天になった八戒は相手を殺すことしか考えておらず、「勘弁ならねえ、さあ首を差し出せ」とむちゃくちゃに女たちに襲いかかったので、女たち更にびっくりし、もう裸を恥ずかしがる気持ちなぞかなぐりすて、湯から出てへそから一斉に糸を繰り出し八戒を糸の苫に閉じ込めた。八戒はその中で糸に絡まり足にひっかけつまずきすっころぶ、を延々繰り返しへとへとふらふら。
女たちはグル巻きにした八戒を置き去りにし、急いで住処へ戻った。古着を着込み、養子にした7種類の蜂やトンボの精たちを呼び寄せ、ぐる巻き八戒の後始末を頼む。吊るした三蔵もそのままに、まず自分たちの身の安全を図ろうとし、近くに住む師兄のもとへ逃げ込むことに決め、いそいそと出掛けていった。
一方の八戒、いつのまにか覆っていた糸がなくなり自由になったので這々の体でいそぎ兄弟たちのもとへ戻り、事の次第を話す。それを聞いた悟浄が顔色をかえて「そりゃやばいよ兄貴、あんたはわざわざ禍いの種をまいてきたんだ。妖怪たちは師父に危害を加えるに決まってる、すぐ助けにいこう」と叫び、悟空も一目散に最初の田舎家へ。するとなにやら小さな虫たちが入り口で頑張っているので、悟空が毛を7種類の猛禽に変え、あっさりやっつける(※八戒はここでも虫たちに刺されまくってヒドい有様)。奥に入って吊るされた師匠をみつけ、縄を解いて下ろしてやり、「もう二度とひとりで知らないお宅を訪問して危ない目に遭ったりしません」と約束してもらう。田舎家は女たちが戻ってこれないよう火をつけ焼き払った。
そのまま師弟たちは西へ進み、少し行ったところで風雅な道観を発見。入り口には「黄花観」とある。
中へ入ると二の門の脇に鉄色の顔をした道士が一人いて、丁重に挨拶すると礼儀正しく返してくれた。三蔵たち一行が三清へ献香した後、改めてその道士へ挨拶し直しているころ、仙童たちが客のもてなしをしようとぱたぱた一生懸命動き回ったので、裏で一休みしていた七人の女妖怪たちががその慌ただしい気配に気づいた。女怪たちは道士と同門で、「近くに住む師兄のところ」とはこの場所だったわけだ。
仙童たちから客人の容姿を聞き出し、喰いそびれた最初の坊主と、温泉にやってきてナマズに化けたあと自分たちを殺そうとした無体な坊主がその中に居るとわかり、師兄である道士に(客に気づかれぬよう)合図を送ってくれと仙童に頼む。果たして道士は合図に気づき、さりげなく奥へと下がってきてくれた。事情をすっかり話す姉妹たち。
聞いた道士は怒り、「そういうことなら」と茶請けの棗に毒を仕込んで茶を入れ直して、客人に振る舞う。そして悟空がどうにもうさんくさい気配にいち早く気がつき、なんとか棗を道士の分(こっちは毒無し)と取り替えさせようとしたが、三蔵が「せっかくの振る舞いに無礼な」と叱りつけ、受け取らざるを得なくなった。口はつけずに黙って見守る悟空。
悟空の悪い予感は当たり、茶請けの棗を食べた三人は泡を吹いてその場に卒倒してしまった。悟空は持っていた茶を道士に投げつけ怒り出す。道士はといえば「盤糸洞で何をしでかしたか」をとがめるので「なんだてめえらグルかよ」と棒を取り出し対戦。姉妹たちも表に出てきてすかさず一斉に糸を繰り出すので悟空も危うく糸の苫に閉じ込められそうになるが、すんでのところで苫を破り空高く逃げ出した。空中に立ったまま鬱々と黄花観を見下ろしながら思案し、とりあえず奴らの正体くらいわからんかな?と再び土地神を呼び出してみる。ビクビクしながら再登場の土地神。
彼が七人の女怪たちは蜘蛛です、あの苫はやつらが吐き出した蜘蛛の糸ですよと説明したら、じゃあ何とかなるかな、と土地神を帰し、黄花観の入り口にふたたび降り立つと、分身の術で七十人のちび悟空を作り出し、全員に刺股をもたせて苫に突き立て、道観を覆っている蜘蛛の糸を全部無理やり巻き取った。すると糸を巻き取る過程ででかい蜘蛛が7匹ひっかかってきてちび悟空たちが刺股でそれを押さえつける。
蜘蛛たちは一斉に命乞いをした。師兄に向かって「唐僧を返して、わたしたちを助けてください!」と叫んだが、道士は奥からやってきて「唐僧はわしが食らうのでおまえたちを助けることはできんな」と薄情な返事。もちろんそれをきいた悟空は怒り、「師匠を返さんなら、見てろ、妹たちがどうなるか」と言うなり、七匹の蜘蛛をあっさり鉄棒で叩き潰した。七十人の分身もしっぽをふたつほど振って本体に収め、一人に戻ると道士に打ちかかる。道士も宝剣を掲げ勇ましく迎え撃った。
しばらく戦ううちに徐々に追い詰められた道士、ばっと服をぬぎすて両腕を高く掲げた。すると脇の下に千もの目がついていて一斉に金色に光り、周囲も金色のまぶしい光と霧に包まれ、まるで熱い檻のようになったのだ。焦った悟空は必死に抜けだそうともがくが、足もいうことをきかずふらふらになり、宙へ飛び上がってみても壁を破れずバタンと倒れ込む。いよいよ進退窮まり、頭を絞って考えた挙げ句「上がダメなら下はどうだ?」とモグラに化けて地面に潜ってみた。無我夢中で二十里ほど地下を進んだのち地上に顔を出すと金の光からは無事逃れられたようで、そこで力尽きへたり込む。
「お師匠さま…!!」
悲嘆にくれ涙を流していると、遠くからしくしく泣きじゃくる女の声。こんな山奥で他にいったい誰が泣いてんだ?と悟空が様子を窺うと喪服姿の女が泣きながらこっちにやってくるところだった。
「もし、女菩薩、どなたのために泣いていなさる?」興味もあって聞いてみると「我が夫がいざこざで黄花観の主に毒殺された、紙銭を焼き弔おうと思ってここまできた」と答えるので悟空、ついぽろりと涙を流す。
女は、悟空がいきなり泣き出したことにむしろ怒り出し「なんで何も関係ないあんたがいきなり泣くわけ?わたしをなぶるつもり?」と言った。悟空は「いやそうじゃなくて」と説明する。丁寧に名乗り自分の状況を長々と話してから「おれも、師匠やおとうとたちが黄花観の主に毒を盛られて、やっとのことでおれだけここまで逃げてきたけど、すかんぴんで師匠を弔う紙銭の一枚すら持ってないのが情けないやら悔しいやらでついぽろっときちゃったんですよ、なぶるなんてとんでもない」と言った。すると女は態度を改め謝罪してから、あの道士のことをあまりご存じじゃないのね、と道士の正体を語ってくれた。曰く、彼は「百眼魔君」またの名を「多目怪」という。あの妖の金光を破り、下すことができる聖賢を知っているからその方を呼びに行くといいでしょう、と。
それはどなたですかと聞けば紫雲山の千花洞にお住まいの「毘藍婆」だといい、ここから南へまっすぐ、といったところで女の姿はかききえた。どうやら菩薩さまだと気がついた悟空、伏し拝みつつ「どちらの菩薩さまでしょうか、お礼を申し上げたいです」と言った。空中から応えがあった。
「大聖、わたしだよ」顔を上げると黎山老姆。
「毘藍婆さまにはわたしが居場所を言ったとはいわないでおくれ。気難しい方だからね」悟空は礼をいいすぐ雲に乗って紫雲山へひとっ飛び。
千花洞で目指す毘藍婆(毘藍菩薩)に無事出会えた悟空、事情を話してどうか力を貸してほしいと頼むと、最初は「誰から私のことを聞いたのかね?私はこの三百年ここから一歩も出ていないし名も隠しているのだよ」と微妙にとがめだてしてきたが、悟空がしれっと「おれさまは土地かんがありましてねえ、どこにいらしてもきっと探し当てちまいますよ」と言うと、「ま、いいだろう、大聖自らいらしたんじゃ仕方ない」と気を取り直してくれ、一緒に来てくれることになった。悟空、興味があって「ところで何の武器でやつをやっつけるんです?」と聞いてみたら、毘藍菩薩「刺繍針だよ」と答える。悟空はそれを聞くなり「お婆さん、この孫さまだって刺繍針なんかだったらいくらでも持ってるのに」と言ってしまうが、菩薩はこういった。
「おまえのはせいぜい鋼鉄か金の針だろう?そんなものは役にたたないよ。わたしのこの針はね、鋼でも鉄でもない、金でもない、せがれが太陽の目の中で練り上げたものなんだ」
「ご令息って、どなたです?」
「昴日星官だよ」
しゃべりながら雲に乗っていた二人、まもなく黄花観のあたりまでやってきた。悟空があの辺りです、と言うと毘藍菩薩は襟から細い刺繍針を取り出し空高く放り投げた。即座にすさまじい音がして金の光が消え失せる。
悟空「すげえすげえ」と大喜び。道観の中へ降りてみると妖怪の道士はじっと目を閉じ動くこともできず固まっている。それを悟空がぶん殴ろうとすると毘藍菩薩がすかさず止めて、「それより師匠を早く見にいきなさい」
奥の客間へまっすぐ向かうと、師父と弟たちが床に倒れているのが見つかり悟空は泣きながら「どうすりゃいいんだこれ」とおろおろしていると毘藍菩薩が「解毒丹を持っているから3粒あげよう」と言ってくれた。恭しくそれを受け取り、倒れている三人の口の中に無理やり押し込む。しばらくすると全員毒を吐き戻し、意識を取り戻した。皆で菩薩へ礼を述べる。
目が覚めた八戒が「こんちくしょう」と動けないでいる道士をぶちのめそうとするとそれも毘藍菩薩は止め、「うちの洞は無人だから、これでも連れ帰って門番にするかね」と言う。悟空「もちろん否やはありません、でももしよければそいつの正体を見せてもらえませんか?」と頼んだ。
毘藍菩薩「お安いご用だよ」ちょいと指を向けると道士はどうと倒れ、正体を現じた。七尺もあるムカデだったのだ。
毘藍婆はそのムカデをひょいと小指にひっかけ、祥雲に乗って去った。
八戒が見送りながら「あのおばちゃんすげえな」と呟いたら悟空はにやっと笑って「武器は刺繍針なんだぜ」と得意げに説明。「せがれが太陽の目の中で練り上げた特別製」っつうから令息ってどなた?って聞いたら昴日星官だそうだ。ははん、てことは雄鶏だろ? あのおばちゃんは雌鶏ってこった。鶏はムカデなんざへでもないから簡単に退治できたってことさ」
それから一同はいったん道観で休憩し御斎を用意して食べてから身支度し、最後に道観を出る際に火をつけて焼き払った。灰燼に帰す黄花観。
さあ、また長い旅がはじまる。
・・・・・・・・・・・・
…えっ「晦月魔君」どこ?「毒敵大王」どこ?
となるだろうから、ネタバレだが主人公のストーリーとは関わりがないのでがっつり説明しておく。
原作6巻第55回に出てくる「毒敵山琵琶洞」の女妖怪、サソリの精。こいつに三蔵が攫われ、さんざん手こずった挙げ句最後に天まで行き「昴日星官」(今回出てきた毘藍婆の息子、刺繍針を生成した当人)を呼んできて退治してもらったのだが、それをゲーム内で毒敵大王は「仇」と呼んでいた。サソリの女怪の「旦那」にあたる。(ゲームオンリー二次設定)
そして、分かりにくいが「晦月魔君=昴日星官」である。もちろんゲームオンリー二次設定、気の毒に、星官は妖怪に捕まってへんな化け物に改造されてしまっていたのだww 最後、黎山から来たといっていた蛇女が、晦月魔君(=昴日星官)のご母堂(毘藍婆)に恩がありその息子に直接手は下せないと言ってたので、これが黎山老姆当人と考えていいのかも?或いは黎山老姆に伝言を頼まれた妖かも。ビミョー。
また、八戒について原作基本設定を説明しておく。
まず天界から堕とされた理由は、天蓬元帥やってた頃に酒に酔って「嫦娥(じょうが)」にちょっかいを出したため。さらに下界で猪(ブタ)の妖怪になってから奥さんが二人いたのでバツ2である。
一人目は入り婿で相手も妖怪、八戒は「卯二姐(マオアルチェ)」と呼んでいた。が、彼女とは1年くらいで死別、財産である福陵山雲桟洞をそのまま受け継いで暮らしていた。
二人目は三蔵&悟空が出会った高老荘の裕福な商家の三番目の娘「翠蘭」。強引に売り込みこっちも入り婿に。仕事はまあ真面目にしていたものの段々妖怪としての姿形を現し、嫁を部屋に軟禁したりしたので「妖怪を婿にしたと言われ世間体が悪い」という手前勝手な理由で妖怪退治を頼まれる。ちょっと気の毒。とはいえ、もともと入り婿になる「前」に観音菩薩から「三蔵がやってきたら弟子としてお仕えしなさいね」と言い含められていたので、規定順路でもある^^;
西遊記二次(中国ドラマなど)で「嫦娥の生まれ変わりの女性」とか「離婚したはずの翠蘭」が登場!とかは時々見るが今回の「盤糸洞の蜘蛛姉妹」と前世からあれこれ、というのは目新しい(すげえな、原作ではナマズになって意地悪しただけなのに)、ゲームでは蜘蛛姉妹をぶち殺したのが(悟空の命令で)八戒ということになっており、「かわいそうで1匹逃がした」っていうのも二次らしい夢があってすごくいいなと思う。
(原作の八戒がンな殊勝なことするわけないからなww わざわざ丸腰すっぱだかの女をぶち殺しにウキウキおでかけするんだぜ? 悟空ですらかわいそうだからいやだっつってんのにww)
…すいません原作知らず美しい悲恋ものと思っていた方にはひどいぶっちゃけで申し訳ない。原作がどうであれゲームのあの話はよくできてたしすごく愛も夢もあって設定もよかったと思いますほんとに。なのであれはあれ、これはこれということで。
ついでに最初「天蓬元帥」が見惚れてた銀色の美女が嫦娥で、相手の男はたぶん羿(げい)かな、神話に出てくる弓の名手。たぶん、多分…。
ではでは4章解説はここまで。駄文長文でまことに恐縮ながら、少しでもお楽しみいただけたなら幸い。
次は5章、おそらく火焔山、ボスはたぶん紅孩児(牛魔王の息子)。えっらい強いってきいたからまた指おかしくするんだろーな…とりあえず冬コミ終わるまではちょっと封印します。しばしサヨナラ!