カップラーメンにお湯を入れるのか問題
昨日、「現場の先輩に頼まれてコンビニで昼飯を買ってくる」という会話をやった。
うちの会話授業にはスクリプトがない。あるのは「発端」「中間」「ゴール」と状況に合わせた小道具だけだ。
ズンという女子生徒にカップラーメンやおにぎりやお茶を頼んだら、ちゃんとそれを選んでレジまで持っていき、まったく教えていないのに「お湯が欲しい」ということを店員役のぼくに言った。
おお、これぞ自由会話の授業!と、嬉しくなっていたのだが、お湯を入れ、お金を支払ったあとで、ズンはなぜか先輩役に電話して、「すみません、ラーメンを買ったんですが、お腹が空いていたので食べてしまいました」というようなことを言った。
ぼくも含め、教室中に「?」が乱立した。
あまりに意表を突いた展開だったので一度中断し、事情を聞くと、
「お湯を入れて持って帰ったら、先輩に怒られると思った」とのこと。設定では現場とコンビニはほとんど隣、ということになっていたが、「時間がかかるとラーメンがまずくなる」ということを、ズンはあり合わせの日本語で説明した。
ぼくはこのとき、2つのことを思った。
1、ここまで役にのめりこんでくれているのは、この授業の作成者としては嬉しい限りです。
2、こいつは、怒られる(かもしれない)のを回避するために、「お腹が空いたから食べちゃいました」と嘘をつくやつなのか。
そんなに怒られるの嫌なの?と聞いたら、「はい!」と言う。
でも、良かれと思ってラーメンにお湯を入れたのだから、嘘なんかつかなくても良いじゃないか。
そう言ったのに、彼女は「お湯を入れなきゃ良かった」と言った。
興味深いので試しに、「先輩に怒られるバージョン」をやる、と宣言して、続けてみた。
ズンはラーメンにお湯を入れて現場に持ち帰った。先輩役になったぼくが「なんでお湯入れたんだ!伸びちゃったじゃないか!」と怒り出す。
するとズンは「私は要らないと言った!でも店員が入れた!」と言った。
今度は反対に、カップラーメンにお湯を入れずに持ち帰らせた。先輩役のぼくは「お湯くらい入れて来いよ!気が利かねーな!」と怒り出す。
ズンは言った。「先輩、お湯はありませんでした」
ぼくはこのあと30分くらいかけて、生活指導をした。
この流れはすべて、日本企業から監理団体に寄せられるクレームの縮図だ。「嘘をつく」「ごまかす」「責任を回避する」は、ベトナム人技能実習生によくある行動パターンなのだ。
まさかおつかい会話でこんな一面があぶり出されるとは思ってもみなかった。
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