新生・藤川阪神を占う
猛虎が誇る稀代の名将の最後は突然やって来た。
2024年10月、阪神・岡田監督の今季限りでの退任と藤川球児SAの新監督就任が発表された。そこで今回は、藤川氏が新たに指揮をとる、2025年の阪神タイガースがどう変わるかを予想していきたいと思う。
新しい布陣
新監督に求められること
タイガースが昨季優勝チームであり、令和以降全てAクラスである現状を考慮すると、チームの戦力としてはかなり整備されている方であることは間違いない。
しかし、そんなチームにも既にウィークポイントが浮き彫りとなっている。特に野手陣において、今季143試合を戦って明らかになった弱点は、「7番、8番打者」「捕手、遊撃手」である。今季はこれらをそれぞれ梅野と坂本の併用、木浪で乗り切ったが、打撃守備走塁のいずれでもチームに貢献したとはいえない成績を残すことになってしまった。これらのポジションに新たに若手を投入し、一軍の舞台で育てていくことが求められている。また、タイガースが常勝軍団になるためにも、今レギュラーがいるポジションも次の世代を育てていくことも求められており、藤川監督は今後のタイガースの命運を握っていると言っても過言ではない。
一軍
基本的に戦い方はこれまでと変わらず、守り中心の野球になるだろう。ここはおそらく藤川監督も同じ考えであると考えていい。
投手陣も先発ローテーションはこれまでと大きく変える必要はないと考えている。才木浩人、村上頌樹、ジェレミー・ビーズリーは勝ち星がなかなかつかなかった時期こそあれどローテーションの柱であることに変わりはなく、来季も中心としての働きが求められている。さらに、これら3選手と共に表ローテの枠を争って欲しいのが8月に怪我から復活した髙橋遥人である。試合数こそ少ないが4勝1敗、防御率1.52を記録し、実力を思う存分発揮した。今季嵌めていたプレートもオフの間に除去するとのことで、来季はさらなる飛躍が求められている。さらに移籍組の西勇輝や大竹耕太郎、不調からの復活が待たれる伊藤将司なども実績十分で、さらに大社卒ルーキーコンビの伊原陵人と木下里都、若手組の及川雅貴、西純矢らも一軍のローテ定着を狙う。ここに新外国人が1人入ってくればかなり強力な先発陣を形成することが出来るだろう。
ブルペン陣では、岩崎優、ハビー・ゲラのダブルストッパーが終盤戦でかなり機能したと言っていいだろう。ただゲラはボールの良さの割に被打率が高く、さらにピンチを招きやすいといった弱点もあり、そこをさらに修正してくれれば来季さらに飛躍を目指せるだろう。セットアッパーでは、桐敷拓馬、石井大智の二枚看板が今季大ブレイク。桐敷は70試合に登板し、疲労も心配されるが来季以降は元先発投手としてのタフさを見せて欲しいところだ。さらに来季3年目を迎える富田蓮、現役ドラフトで移籍して2年目を迎える漆原大晟らが信頼できる投手に。島本浩也、岩貞祐太ら優勝メンバーに若手投手陣らも二軍で控えており、虎視眈々とベンチ入りを狙っている。さらにもう1人新外国人でセットアッパー候補を獲得出来ればかなり強力なブルペン陣を組むことが出来るだろう。ここはブルペン陣を長年支えてきた藤川監督の現役時代の経験が大いに生きるに違いない。
野手陣に移るが、上位打線は大きくラインナップを変える必要は無いと見て良い。このままの中野を2番に置くとなると厳しいが、昨季レベルの成績に戻してくれるならば、1番センター・近本光司、2番セカンド・中野拓夢、3番ライト・森下翔太、4番ファースト・大山悠輔、5番サード・佐藤輝明の5人はほぼ固定で良いと考えている。さらに「6番・レフト」は今季主に前川右京が担った。来季は固定しても良いのでは、とも思ったが、そこに待ったをかけられるか注目されているのが井上広大。中距離打者の前川に対して1発の魅力がある井上。2人とも今季主に守ってきたレフトに加えファーストの守備練習をすれば、さらに出場機会が増える可能性があり、今季前半戦のように仮に大山が調子を落とした時でも空いた穴を最小限に抑えることができる。岡田前監督の時は1ポジションへの専念を求められたが、若虎の将来を見越してこのような起用も藤川監督には検討してもらいたい。
さらに注目したいのが先述した「7番、8番打者」「捕手、遊撃手」のポジション争いである。7番・捕手は梅野隆太郎、坂本誠志郎が、8番・遊撃手は木浪聖也、小幡竜平が担った。捕手陣に関しては2人ともが走攻守全てで結果を残すことが出来なかったため、二軍から新たに若手を抜擢する必要がある。その候補として挙げられるのが、来季高卒4年目となる中川勇斗と、大卒5年目を迎える榮枝裕貴である。中川は一軍の試合出場がこれまでなく、榮枝も出場歴こそあれど岡田前監督にリードを買われず一軍の経験は少ない。ここ2年間で本来なら次代の正捕手の育成をしたかったが、岡田前監督はそれよりもベテラン陣の経験を買ったというわけだ。また遊撃手では、本来なら小幡をレギュラーとしてこの2年間で育てたかったところだが、岡田前監督は木浪を起用することを選択した。木浪は実際に去年は打率こそ残したものの、今年は走攻守全てでブレーキと化した。こういったタイミングで小幡を使わず木浪に拘り続けたのは岡田前監督の失態と言えるだろう。藤川監督には「勝利と若手のレギュラー育成の両立」という新たな使命を託したいところだ。
控えにはこれまで代打の切り札として糸原健斗、原口文仁、渡邉諒らが、代走・守備固めとして熊谷敬宥、植田海、島田海吏らが起用されてきた。ただこのあたりも中堅からベテランに差し掛かり始めた選手が多く、藤川政権の間に若手で次の控え候補を探していきたいところではある。その手助けとなりそうなのが、来季から二軍監督に返り咲く、平田勝男ヘッドコーチである。これまで二軍監督を3期10年歴任し、鳴尾浜から多くの若手を一軍に送り出した。岡田前監督の下では、選手と首脳陣を繋ぐパイプとして「アレ」に貢献した名参謀は、来季から新たに開場する新二軍本拠地・日鉄鋼板SGLスタジアム尼崎で若手育成の現場に戻ることになった。明るいキャラクターと時に見せる厳しさでファンに愛される65歳は、育成のスピードスター・福島圭音や、期待の天才ショート・山田脩也などタレント揃いの若虎たちを一軍の戦力へと鍛え上げてくれるはずだ。
二軍
先述したように、新たに平田勝男監督を据えて戦う阪神二軍は、来季から戦いの舞台を尼崎・大物にできる新しい球場へと移すことになる。ここで来季の阪神二軍の布陣を見ていこう。
まず先発陣には、ドラフト1位で入団しながらここまで目立った活躍ができていない西純矢、森木大智のコンビに加え、そろそろ安定した結果が欲しい門別啓人、茨木秀俊の新成人コンビ、地元・報徳学園から入団した高卒No.1右腕・今朝丸裕喜、今季育成で加入したマルティネス、一軍への返り咲きを狙う青柳晃洋や伊藤将司、トミー・ジョン手術からの復帰を目指す下村海翔や小川一平らがいるが、これからも一軍に先発陣を送り込みたい中でさらに先発候補を揃えておきたいのも事実。ドラフトで獲得した、素材型の育成選手たちがこの争いに食い込めるかに注目が集まる。
リリーバー候補としては、2023ドラフトで入団した椎葉剛、石黒佑弥、津田淳哉の即戦力トリオ、今季最終戦で一軍デビューした川原陸、佐藤蓮や、先述したマルティネスと同じ経緯で加入したベタンセス、変則右腕の岡留英貴、黄色靭帯骨化症からの復帰を目指す湯浅京己、育成からの這い上がりに期待がかかる松原快、伊藤稜、ルーキーでは最速159kmの大車輪右腕・工藤泰成らがいる。こちらは数自体はそこそこ揃っており、今後は若干の新陳代謝を行いながら、一軍からの指名にいつでも対応できるよう実力を高めていってもらいたいと思う。
野手陣では、矢野政権以降のドラフトで指名した選手たちが主に出場できており、若手の鍛錬の場として陣容が固まりつつある。
捕手では、今季は主に榮枝裕貴、中川勇斗、藤田健斗の3選手が起用された。特に中川はその実力を思う存分発揮することができ、来季以降のレギュラー奪取に向け期待が高まっている。さらにドラフトでは、青柳からホームランを放ったこともあり、過去2年の阪神春季キャンプでブルペン捕手をしていた町田隼乙がドラフト4位で、藤川監督の高校の後輩でもあり、豪快な打撃が魅力の嶋村麟士朗が育成2位で加入。正捕手争いは熾烈なものになりそうだ。
内野手では、今季は主に二塁、三塁、遊撃で遠藤成(今季限りで退団)、高寺望夢、戸井零士らが起用された。その他にも、ほぼ遊撃固定で山田脩也、二塁固定で百崎蒼生のルーキーコンビが起用され、ポテンシャルの高さをアピールした。今季は一三塁を守る大砲を育成することは出来なかったので、そこが今後の課題であると考えている。そんな中、新外国人のジーン・アルナエスが育成契約で入団した。一塁、二塁、三塁、捕手を守るユーティリティプレイヤーで、欠点は多いがハングリー精神があり、契約締結直後にチームに合流し、安芸で行われる秋季キャンプにも急遽参加することに。彼の他にも大砲候補の獲得は必要だが、焦らずじっくりと育ってくれることを願うばかりだ。
外野手では、今季は主に井坪陽生、小野寺暖、野口恭佑、井上広大、豊田寛、福島圭音らが出場。現在一軍の外野のレギュラーは確立されてきており、来季で一二軍ともに大きく陣容が変わることはなさそうだが、若手のホープである井上、野口、井坪をはじめ、若い選手が積極的に試合で起用され、いずれは一軍で結果を残すことができれば、チームにも新たな風が吹くことだろう。下からの叩き上げに期待したい。
新たに期待したい方針
若手の積極起用
今季の岡田阪神はとにかく成績ガン無視実績頼みの選手起用が徹底されていた。渡邉の昇格など、時に当たる起用もあれば、その他多くの起用は失敗だったと言わざるをえない。
そんな中、二軍では多くの選手たちが一軍の舞台を待ち続けていた。二軍で最高出塁率を記録した遠藤成や、期待の変則左腕・岩田将貴と実績も結果も残してきた加治屋蓮のリリーバーコンビらもそうだった。しかし彼らの中で今季は一軍で起用されたのは加治屋のみで、しかも僅かに13試合のみ。3人は先日戦力外通告を受け、今季限りでの退団が決まった。他にも中川勇斗や小幡竜平らも起用されることが少なかった。代わりに起用されていたのが成績を残せていないベテランだったこともあり、ファンからは不満が続出した。
一方藤川監督は「力のないベテランは不要」と忖度する気は一切無し。力量で選手を起用する方針を改めてハッキリさせた。力を蓄えた若虎たちは鳴尾浜を去り、次に目指すのは甲子園のグラウンドだ。
控え選手のマルチな起用
岡田前監督は選手に複数ポジションを守らせることを良しとしておらず、自分に与えられた仕事場を極めることを求めてきた。しかし、ポジションの関係でベンチ入りメンバーをベストな選手たちで揃えることが出来ないというデメリットも生じていた。
これからの藤川阪神ではかつての矢野阪神のように小野寺、熊谷、木浪などマルチな働きのできる選手たちの良さを活かす采配を期待したい。また既に、井上の一塁での併用が決定的に。これで手薄な内野陣のバックアップがさらに充実した。あまりにも多くのポジションを守り、守備に悪影響が出るのは本末転倒だが、控えの選手は1人2ポジションぐらいは守れるように鍛え上げ、そして起用して欲しい。
若手世代の指導者育成
藤川監督はまだ44歳で、監督してはかなり若手ということになる。しかも某誌によると、本来ならさらに1歳下の鳥谷敬氏に監督就任を打診するつもりだったというのだから、さらに若くなっていた可能性もあったわけだ。なぜこういう流れになったかというと、今の50代付近のOBに現場での指導歴がある者が少なく、指導者の世代交代に失敗したからである。しかもさらに40代前半近辺のOBも監督に適任といえる人材はかなり少なく、藤川監督への期待はなお一層高まるばかりだ。
本来その役割は岡田前監督に求められていたが、岡田氏は自分と年齢の近いコーチを多く招聘し、指導者の育成には失敗した。藤川監督は同じ轍を踏まないよう、選手だけではなく指導者の育成にも精進してもらいたい。
若く、フレッシュに生まれ変わった藤川阪神。代名詞の"火の玉"のような猛虎の快進撃に期待したい。