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手紙

久々に、手紙を書いた。
本当なら半年前に書くはずだった、後輩への手紙。先輩たちがそうしてくれたように、自分が軽音楽部を卒業する時には必ず渡そうと思っていた。

 だから半年前に「今年も手紙書く?」と確認したとき、一部の同級生に否定的な意見を言われたことにとても困惑した。彼らはあの手紙になんの感動も感じなかったのだろうかと、悲しくなった。自分は先輩たちが後輩1人ひとりに手紙を書いてくれたことが嬉しかったから。20人近くの部員がいる自分たちの代全員に、しかも同じパートの1つ下の後輩にも書いていたから、それを含めると1人あたり25人程にもなる。それだけの手紙を書くのは大変だっただろう。それでも7人の先輩全員が、卒業ライブに向けた自分たちの練習や大学への準備がある中で、それだけの数の手紙を書いてくれたのだ。沢山お世話になった先輩は言うまでもなく、部活内での直接的な関わりが少なかった先輩でも、しっかり自分のことを見てくれていた。そして先輩たちに代わり最高学年として部活を引っ張っていく立場になった自分に、期待をしてくれた。応援していると言ってくれた。そのことが本当に嬉しかった。だからたとえ全員で書くのが難しくても、せめて自分だけでも1つ下の後輩全員に手紙を渡そうと決めていた。
 そんな矢先に、新型コロナウイルスによる臨時休校が決まった。手紙を渡す予定だった卒業ライブは延期のまま、部活には行けず、練習もできず、おまけに折角第一志望が通って楽しみにしていた大学にも行けない。そんな日々が続いた。当然手紙を渡すタイミングなどないし、いつ渡せるかもわからない便箋は白紙のままだった。そうしているうちに気づけば半年が経ち、後輩たちも仮引退する時期となってしまった。最後の文化祭は保護者しか見に行けないと言われ、仕方なく学校の敷地の外から、少しだけ聞こえる音を拾うことにした。半年ぶりに聞いた後輩の演奏は、驚く程に成長していた。正直な話少しだけ泣きそうになるくらい、音に込められた想いが伝わってきた。「今しかない。この感動を忘れないうちに。」そう思って、手紙を書くことにした。
 少し前から感染症対策も少し緩和されて普通の日は学校に入れるようになっていたから、手紙はとりあえず顧問の先生に預けて、副部長を経由して全員に配ってもらうことにした。直接手渡せないのは少し心残りだけれど、それでもあの子たちに何かしら伝わるものがあればいいなと、そう思う。先生に事情を説明して手紙を預けたとき、「(後輩たちはきっと)喜ぶぞ」と、嬉しそうに笑いながら言ってくれた。言葉を扱うのは苦手だから、少しでも応援できるように、励みになるように、そして傷つけないように、色々考えながら言葉を選んだつもりだ。僕が今先輩たちからもらった手紙を読み返して元気をもらえるように、あの手紙が後輩たちの支えになることを願う。
…喜んでくれるといいな。

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