なるべく明るい乳がん日記7全摘するか?温存か?
〜前回のあらすじ〜
どちらを選んでもそれぞれメリットとデメリットのある全摘と温存。
もし温存したらどうなるのか。
胸あんまりないんですけど悪いとこ取ったらもう残らないんじゃ……
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3月中旬。
「ご家族と一緒に来てください」と言われていた入院説明日。
晴れてご家族となった夫と共に病院へ。
先生は私のMRI画像を見ながら温存できるか、その可能性をしっかり時間をかけて考えてくれた。
全摘の場合、こうなりますという写真を見せてもらった。
胸に真一文字の切り傷。なかなかパンチがある。
これを受け入れるのは相当なメンタルが求められる。
再建を希望する場合は全摘手術と同時に ”ティッシュ・エキスパンダー” という皮膚拡張器を胸に入れる。でもそれは気が進まないので希望しない。
再建は術後数年経過した後でも出来るから、まずがんの心配をなくしたい。
その上で、再建したくなったらその時に考えればいい。
今は全摘するか、温存するかの二択で考える。
画像を見ると私のがんは胸の筋肉手前から乳頭にかかるくらいまである。
がんは乳頭を目指して進むという。
温存の場合。
取ってみて乳頭側を検査して断片陽性であれば乳首は残せない。
わきの下にあるセンチネルリンパ節(がん細胞が最初に転移するリンパ節)を摘出するためにわきにも傷が出来る。術後、放射線治療は必須。
温存した胸に転移があれば再手術になる。胸の形も変わる、とのこと。
じっくり考えて先生は「温存に挑戦しますか?」と言ってくれた。
挑戦。
私の場合、温存は挑戦なのだ。
画像を見れば自分でもそう思う。白くくっきりと写った私のがん。
………挑戦しても乳首を残せる可能性は低い気がする。
乳首も悪いところも全部取ってしまったらそれは温存と言えるのだろうか?
がんが残ってしまう可能性を含んだ温存と、胸はなくなりキズは出来るけどおそらくがんを取り切れるだろう全摘とを天秤にかけて考える。
私が守りたいものはなんだろう。
「手術の途中で温存から全摘に変えることはしない。手術中の判断は危ういものだから。」と先生は言った。
「まだ変えられるし迷っていいよ。」とも言ってくれた。
手術の日まではまだ時間がある。
でもこれはしてもいい挑戦とはどうしても思えなかった。
がんが残って再手術をするのは身体にとっても経済的にも負担が大きいし、温存すれば傷は2箇所になる。傷は出来ればひとつにしたい。
全摘を選んだ場合の自分の中の反対意見と、温存を選んだ場合の自分の中の反対意見を頭の中に並べてみる。
どう考えても私の場合、温存する方がデメリットが多いし、不安だ。
不安を抱えながら無理に温存するよりも、確実にがんを取り切れる全摘の方が安心できる。放射線もしなくて済むかもしれないし。
不安な方を選んじゃいけない。真っ直ぐ前を向ける方を、心の中が明るくなれる方を選びたい。
………これは全摘だな…。
私は納得した。
先生は『手術同意書』の【温存】に二重線を引き、【全摘】に丸をした。
説明のために先生は絵や文字をびっしりと書いた。
それが同意書の裏だろうが先生には関係ない。説明したいと思った瞬間手元にある紙をサッと裏返して猛スピードで書き始める。
看護師さんはそんな先生の後ろでアッという顔をしている。
先生は説明を厭わない。省略しない。
これから先、患者が納得して治療を受けるために。
後悔なく前に進んでいけるように、目一杯時間を使ってくれる。
その思いやりが嬉しかった。
たとえそれしか選択肢がなかったとしても、時間をかけて考えて、ちゃんと自分で納得して決めることが大事だと思う。
何かの、誰かのせいにしないためにも。
主治医であり執刀医でもある先生は黒の油性ペンを手に取り「ここをこう…これくらい切る…」と私の胸に直接線を書き始めた。え?先生?
戸惑う私にお構いなく、先生は私の胸に残った針生検の跡も一緒に取れるとシュミレーションした。
ここにあの真一文字の傷が出来る。
私はその覚悟を決めた。