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なるべく明るい乳がん日記15後悔がないように

〜前回のあらすじ〜
全摘手術後、日々地味ながら大切なリハビリに励んでいた。
ハンガーを後ろ手に持ち(気持ちの上で)高々と掲げる。
気付いたら背中が丸くなっている。無意識に胸をかばうようになっている。
胸がなくなったことで ”自分の内臓や骨” と ”外の世界” が、急に近くなったように感じて怖い。なんていうか、守りが薄くて心許ない。
 ”あつでのよろい” から ”ぬののふく” に防御力が落ちた感じ。
肋骨ってこんなに外と近いの?
慣れない距離感にとまどうばかりの私。

ーーーーーーー

病理検査の結果が出たと連絡をもらい、夫と病院へ行った。
退院して1ヶ月半が過ぎようとしていた。(GWを挟んだので)

手術で摘出した腫瘍とリンパ節を詳しく調べることで、術前の針生検で得ていた情報よりもさらに詳しいことがわかるのだ。


いつもの看護師さんに呼ばれ、夫と診察室に入る。
入院中は人一倍心配を掛けたので、無事に体調が回復したことを報告すると先生も看護師さんもホッとした表情だった。

主治医の先生は私の夫に「見ても大丈夫ですか?」と確認してからパソコンの画面に、摘出した私の右胸の写真を出した。
センチネルリンパ節生検の為の色素で、所々青く染まっている。
痛々しい赤黒い塊。とても生々しい。
でも確かにこれは私の胸だ。私の一部だ。

切ない気持ちはもちろんある。
ただ、もうちょっとボリュームあると思ってたので違う意味でも悲しかった。
思ってたより小さくて薄い……。

もう1枚の写真は組織をスライスしたもの。
斜めの線が並行に等間隔で引かれていてちょっと地層に似ている。
それを見ながら病理検査の結果を聞いた。

まず、私のがんの大きさ。浸潤径20mm、広がり31mm。
サブタイプがルミナルAというのは変わらず。
グレード(がん細胞の顔つき)は穏やかな1。
がんの増殖指標の数値は針生検のときより若干増えていたものの低い値。

「ステージでいうとⅡAになるけどこれはあまり気にしなくていい。」
と先生は言った。
そういえば自分のステージが何かを今まで特に気にしていなかった。
私の主治医の先生は、重要なことは全て丁寧に伝えてくれる人なので先生が言わないことは特にこちらからも聞かなかった。

先生は前回同様、手元にあった同意書をサッと裏返し勢いよくおっぱいの絵を描き始めた。
紙なんてなんでもいいのだ。
先生の細かいことを気にしないサバサバした感じがおもしろくて好きだ。
熱意がほとばしっている。

先生はグリグリと丸を描きながら
「わきのリンパ節を取りました。」
「9個あって、そのうち3個に転移がありました。」
と、赤い丸を3個描いた。

え、私リンパ少な!9個って。

いや、問題はそこではない。
3個転移があったことが重大なのだ。

ちなみにリンパ節の数はものすごく個人差があるものらしい。
全身で300〜600個とか400〜800個とか、どれを見ても書いてあることがまちまちで百個単位で個人差があることに驚いた。
あれこれ読んだけれど腋窩リンパ節の数に至っては10〜50個と振り幅が大きすぎたので参考文献はこれですと引用はしないことにした。

とにかく重要なのはリンパ節を取った数ではなく、取った範囲。
必要な範囲はしっかり取ってもらったけれど、そこに含まれていたリンパ節の数が私は少なかった。
少ないのに3個も転移している。

「おとなしいがんのわりに転移が3個ある。」
「これを無視することは出来ない。」
「やれる治療をやっておく方が、お互い後悔がない。」
先生はそう言った。

お互い。
主治医である先生と、患者である私。
他人事ではなく自分事として先生は私の根治を目指して考えてくれている。それが伝わってくる。
先生だって後悔したくないのだ。

先生に後悔を背負わせたくないし、私も後悔をしたくない。
隣で話を聞いている夫にも、もちろん後悔させたくない。
やれる治療をやっておく方が、お互い後悔がない。
確かにその通りだ。

私は、先生がやったほうがいいと提案する治療を受け入れることに決めた。

自分が納得して治療を受けることがいちばん大事だと思っている。
やらされるんじゃなくて、やる。
 ”やる” と自分で決めるのだ。

先生の提案はこうだった。
「抗がん剤3ヶ月の後、ホルモン治療と放射線治療を25回やります。」

フルコース・・・!!

いや、いいですよ。やります。やりますとも!!

「ホルモン剤の服用は10年になります。」

長いな〜長い。
でも、やったほうがいいことはやる。
先生の経験と今までの治療の歴史を私は信じる。

「抗がん剤には色々種類があるんだけど、TCという療法をします。」
「3週間をひとつのサイクルとして、4回投与します。」

抗がん剤の細かい説明を終えた先生は夫を退出させ、サッと視触診をした。
キズに貼られた茶テープは剥がれてきていたので前日に全部取っていた。
貼ったままの人も多いらしい。
取らなくてよかったのか。

腕の上がり具合もチェック。
私は常にわきに何か挟んでるかのような違和感や痺れがあることを伝えた。
術後はそれが普通らしく、特に問題ないという感じで診察は終わった。


夫と別室に呼ばれ、看護師さんから今後の話を聞いた。

「TC1回目は入院してもらって様子を見ます。」

えー。(←正直な感想)
また入院か。でもしょうがない。
投与してみて重篤な副作用が出たとしてもすぐ対処してもらえるし、その為の入院なんだから。
むしろ入院の方が安心だ。(理論により己を納得させる私。)

冊子もいろいろと頂き、副作用についての説明も受けた。
もちろん脱毛もする。
髪は前もって短くしておく方が楽だけど、坊主まで短くしてしまうと抜け毛を片付けるのがかえって大変になるからおすすめはしないとのこと。
なるほど。
私は元々ショートだったのでこのまま入院することにした。
美容院代を節約したともいう。

投与4回で少ない方だし夏だしウィッグはなくてもいいか。暑いし。
髪はまたすぐ生えてくるだろう。
と、この時私は脱毛をものすごく甘く考えていた。

この治療日記を書くようになってから己の見通しの甘さに気付かされるようになった。
しっかりしてそうに思われがちだけどすごい抜けてるな私。気をつけよう。


体重を測定し(抗がん剤の量は身長と体重で変わる)、入院に必要な説明を一通り受けた後、今度は薬剤師さんから抗がん剤の説明を受けた。

抗がん剤を投与された後2日間はトイレの蓋をして2回流すこと。
吐瀉物は手袋をして処理すること。
…などの対策が必要だという。(抗がん剤ばく露を防ぐため)

強い薬を使うことは少し怖くもあるけど、まぁ大丈夫でしょう。
これも今まで多くの人が受けてきた標準治療の一環なんだし。大丈夫。

これで、タンポポの綿毛のように全身に散っているかもしれないがんの種(微小転移という)を根絶させるのだ。


最後に採血をしてこの日は終了。
血液検査の結果、問題がなければ約1週間後に再び入院することになった。

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