刑事コロンボのテーマで使われている電子楽器は?
日本では"刑事コロンボのテーマ曲"として有名な、Henry Mancini orchestraの"The N.B.C. Mystery Movie Theme"。
ここでピッチ・スライドを効かせた印象的なメロディを奏でる電子楽器の音は一体何によるものなのであろうか?自分を含め諸兄の間ではずっと疑問や誤解があった。一番の誤解は、「これはオンドマルトノによるもの」というもので、近年まで僕もそうだろうと思っていたし、Wikipediaのオンドマルトノの解説にもそう記述されていたりした(2017/12の本記事投稿時は記述されていたが、2019/8に確認した所、削除された様子)。しかしマルトノの第一人者である原田節さんにお会いした時に覗った所、「コロンボのテーマはニュアンスが違うので明らかにマルトノによる演奏ではない」とのご指摘を頂いた。では、一体どんな電子楽器を使っていたのだろう。絶対ではないが、ほぼ確実と言えそうで、かつ興味深いことが分かったので記しておきたい。
この曲は1972年にリリースされたヘンリーマンシーニ・オーケストラのアルバム"Big Screen Little Screen"のB面4曲目に収録されており、こちらのデータによると、
Mystery Movie Theme Organ [Solo] Clare Fischer、Performer Henry Mancini & His Orchestra、Trumpet [Solo] Graham Young、Written-By Mancini
と、問題のソロ楽器は、”オルガン”とクレジットされている。奏者のClare Fischerは、著名なジャズミュージシャンで、この曲が録音されたチョイ前の1970年に"Great White Hope"というオルガンと電気ピアノによるエクスペリメンタルなソロアルバムをリリースしている。そのデータベースによると、ここで使われているオルガンは、ヤマハのYC-30というコンボオルガンであることが記されている。彼は、YC-30をJapanese Friendと呼んでかなり気に入っていた様子。このアルバムの楽曲中、YC-30を使った"Music of the Spheres"という曲がある。
”コロンボのテーマ”の奏者がこういうことをやっていたのに驚くと同時に、この曲の後半でピッチがスライドするシーンが出てくるではないか!
そこでYAMAHA YC-30を調べてみると、
https://jp.yamaha.com/products/music_production/stagekeyboards/yc-30/index.html
なんかこのウェブサイトでは最近まで売ってたかのような紹介の仕方で笑えるが、Fischerのソロアルバムと同じ1970年発表である。(こちらを参照) そして・・・上記URLのサポート・お問い合わせのコーナーに、取扱説明書のPDFのリンクもある。見てみると、、、おお!!鍵盤の上方に長いリボンコントローラがあるでないか!!(その取り説ではリボンコントローラでなくポルタメントと称している) まだ動作品が現存していてYoutubeで幾つかデモ動画がある。下の動画はその代表的なものだが、リボンコントローラを使っているシーン(7:40~)では、コロンボのテーマのメロディを弾くに十分なピッチ変化幅があることが確認できる。
これらの事から鑑みて、刑事コロンボのテーマは、Clare FischerによるYC-30のリボンコントローラーの演奏によるものであるということはほぼ確実、というのが僕の見解である。他の国内サイトではこのことに関して言及しているものが現状(2017/8/16)見当たらないが、ある海外の掲示板ではこういう書き込みも見つけた。→Clare Fischer, the jazz keyboardist who played the Yamaha YC-30 solo (NOT a syntheizer) on Henry Mancini's "The N.B.C. Mystery Movie Theme" expanded yet faithfully recorded on Manicni's "Big Screen Little Screen" album・・・
それにしてもMoog以外のメーカー、しかも日本のヤマハが、1970年というかなり早い時期に(まだシンセサイザーが日本にごく僅かしか伝わっていない時期のはずである)リボンコントローラを搭載した楽器を製造していたことに驚かされる(その後、77年発表の高級シンセCS-80に搭載しているのはちょっと知られた所か)。他にも多彩なサウンドメイクが可能で、ファズも入っていたりもするというかなり意欲的な仕様である(1970年発売の国産オルガンに歪ませるという考えが入ってるのも驚きだ)。内容的に欧米のミュージシャンの意見が反映されていたのでは?、つまりFischerが開発に関わっていたのでは?とも感じる。しかし一方で、電子楽器マニアでもどれだけの人がこのYC-30というリボンコントローラが付いたモデルを知っているだろう?というのもある。(電子オルガンとしてはポピュラーな機種だったようなので、当時を知る人には馴染みがあるかもだが)
リボンコントローラーに関しては、キース・エマーソンがMoogで、スティービー・ワンダーや坂本龍一がYamaha CS-80でソロ演奏時に使っているのを観たことがあるが、テーマ旋律的にフィーチャーした"有名曲"はかなり少ない(ほとんどない?)かもしれないと感じている。なので、かなり有力な1曲が見つかったといえるかもしれない。しかもそれは実に馴染み深い曲で、、、。(因みに手前味噌であるが、私はリボンコントローラー奏者として自作曲を中心に色々演奏している。それに関しては拙noteや拙Youtubeチャンネルのリボンコントローラ動画リストをご覧頂けたら幸いである)
※The Beach Boysの"Good Vibrations"は、オリジナルバージョンでは、スライダーを左右に動かしてピッチを可変するElectro-Thereminという楽器による演奏である(つまり名前は同じようなものだが楽器としては別物で、Thereminを演奏したわけではなない。ここにも誤解が・・)。その後、グループはライブで、Robert Moogに作ってもらったというリボンコントローラーでこの曲を演奏していた。詳細は、こちらを参照。
※Mark Lewisohn著 The Beatles Recording Sessionによると、アルバムAbbey Road収録の”Maxwells Silver Hammer”のシンセソロは、マッカートニーがMoogシンセをリボンコントローラーで弾いているとの記述がある。しかし、その演奏は、リボコンらしいスライド演奏というより、シンセのポルタメントをONして鍵盤で弾いたのでは?・・・と感じるものであり、もしかしてリハ中にマッカートニーがリボコンを試していたのを証言者が観てたということなのでは?、、、とも感じる。勿論リボコン演奏の可能性が無いわけではないが、本件に僕は少々懐疑的である。
※ネット仲間の今岡祐一さんからの情報でテレビドラマ・水戸黄門の付随音楽でリボンコントローラーと思わしき楽器の演奏が聴けるとの情報を頂いた。こちらの5:20からの楽曲で確かにリボンコントローラーな感じの演奏が確認できる。時期的にも70年代の録音のはずなのでYC-30や姉妹機で演奏されている可能性も感じる。→(2024年1月18日追記)オンドマルトノ奏者の市橋若菜さんから、この水戸黄門の弥七のテーマは、オンドマルトノによる演奏との情報を頂いた。コロンボのテーマとは逆のケースであった。
★★他のノート★★
[自作楽器]リボンコントローラー(筆者の自作リボンコントローラー詳細)
擬似ステレオ(Mono to Stereo)の昔と今
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