西田敏行さんとの思い出
いつもありがとうございます。鳥爺です。
西田敏行さんの突然の訃報に思わず声を上げてしまいました。
実は私が動物プロダクションに勤務しているときに共演させていただいたことがあります(共演というとおこがましいですが、、、)。
その番組は、TBSの「雲を跳びこせ」という近代日本の経済界に大きな足跡を残した渋沢栄一の青春期を描いた大型ドラマです。
西田敏行さんは主役の渋沢栄一を演じ、共演に武田鉄矢さんもいらっしゃいました。
他にも普段テレビや映画でしか拝見することができない女優さん、俳優さんがすぐ近くにいて、すごく興奮したことを覚えています。
私の役目はTBSのスタジオに朝8時に馬を一頭連れて行くことでした。
ただ、それだけだと思っていました。
(今日のブログ長文になりますので、何卒ご了承願います)
当時勤務していた会社には馬がいなかったので、車で2時間くらいのところにある牧場まで借りにいきました。
この馬をどの場面に、どのように出演させるか、私にはまったく知らされていません。
ただひたすら出番を待つのみでした。
馬がスタジオにいるせいか、いろいろな女優さんや俳優さんが見に来られます。
話しかけられても馬の名前すら聞く事ができなかったので、話が続かずとても残念でした。
スタジオ入りしてからお昼になり、そして夕方になり、夜になりました。
それでもまだ出番がありません。
自分はともかく早朝から車に乗せられ、知らない場所、知らない人にいる環境でじっとしている馬が気の毒です。
何度かディレクターの方に出番を聞いても、わからない、との一点張り。
会社に電話をしても、現場の指示に従えとのこと。
22時を過ぎた頃にやっと声がかかりました。
それは馬ではなく私にです。この衣装を着てくれと。差し出された衣装は馬子役です。
えっつ!? 自分も出演するの? 聞いてないよ!?
と思いました。
馬子の衣装を持ってきたディレクターに聞いても、やはり何も知らないと。
馬子の衣装を着たまま数時間経ちました。
さすがに24時を回ったときは、馬が可哀想で一旦帰らせてもらいたいとディレクターに伝えました。
そのディレクターがスタジオから戻ってきたのは25時頃でした。
するとまた着替えてくれ、ということで差し出されたのが羽織袴でした。
もう自分の頭の中は混乱状態です。せめて早く馬を出演させて帰らせてほしい。
26時頃になると、スタジオへ入って行く人が増えてきました。
ほとんどの人が自分と同じように羽織袴です。
そのときです。また馬子の衣装を持ってきて着替えてくれと。
ほんとうにいい加減にしてほしい。この怒りをどこにぶつけていいのか。
着替えてから30分後に、また羽織袴を持ってきて着替えてくれと。
そして、これが最後です、着替えたら出番です、と言われました。
時計を見ると27時くらい。
すかさずディレクターから
「本番です。時計ははずしください」と言われました。たしかに、、、💦
馬と一緒にスタジオに入ると、畳敷きの大広間になっていました。
結婚式の披露宴のような場面です。
すべての席に羽織袴の方が着席しています。
馬と私は何をするのでしょうか?
そこに台本を持った人が声をかけてきました。
「入口から暴れ馬が入ってきて、この会場をめちゃくちゃにしてほしい」。
さらに、
「めちゃくちゃにするので取り直しができない。1回で決めて」と
暴れ馬?
会場をめちゃくに?
1回で、NGなし?
ちょ、ちょっと待ってください。私は俳優でもないし、馬の扱いもできません。
しかもこんなに大人しい馬を暴れ馬にするなんて、できるわけがない。
台本を持った人と私とのやりとりを席に鎮座している皆さんが見守っています。
見守っているというより、「早くしろ!」という視線を感じてきました。
たいへんな現場に来てしまいました。
今までも動物を連れていけば、俳優さんやタレントさんが扱えないので、私が代わりに出演したことがありましたが、今回のようなことは初めてです。
でも、ここまで来たらやるしかありません。
監督らしい人から声がかかりました。
「1回で決めてよ。では本番行くよ!」
この大人しい馬を暴れ馬らしく見せて、会場をめちゃくちゃにすればいい。わかってはいますが、どうすればいいのか。
考えている暇もなく、本番が始まりました。
玄関の入口で馬が入ってきました(私が引きました)
中にいる人たちから怒声や悲鳴が上がりました(さすが役者さん)
そしてそのまま馬と一緒に座敷に上がり、馬だけを見て後ろに全力で引っ張りました。
ちゃぶ台返しではなりませんが、大量のちゃぶ台をひっくり返すような気持ちで、馬と一緒に座敷内すべてを回りました。
無我夢中でした。
怒声や悲鳴が続き、そこにいた人たちが逃げ回るので、余計にテンションが上がってきました。
どうにでもなれ!!
と、思いました。
そして
「カット!」の声が聞こえました。
台本を持った人がやってきて、「お疲れさま」と声をかけてくれました。
よかった、うまくいってよかった。
と、ホッとした瞬間、周りから笑い声が聞こえてきます。
皆さんも未明までの撮影が終わったので、ホッとしたのかなと思いました。
ところが皆さんも、監督も台本を持った人も、私を見て笑っています。
私が下手な駄洒落を言ったわけではないし、何がおかしいのだろうかと不思議に思っていたら、数人の人が私の下半身を指差しています。
その指先の方向、つまり私の下半身を見ると袴が脱げているのです。
つまり上半身は羽織で下半身は下着だけという有様でした(苦笑)。
袴を探していると、誰かが見つけてくれて私に手渡してくれました。
たぶん馬と一緒に会場をめちゃくちゃにしているときに、私の袴を馬か自分が踏み、脱げてしまったようです。
やっと全ての撮影が終わりました。
馬を乗せて帰るときには明るくなってきました。
馬さん、お疲れ様でした。こんな仕事が来たら今度は断るからね、といって馬主さんに引き渡しました。
そしていよいよ放送日。
どんな風に放映されるのか楽しみでした。
しかし
暴れ馬が会場をめちゃくちゃにするシーンは、馬と私の足だけが映っていました。ま、こんなもんでしょうね(苦笑)
実は後日談があります。
撮影が終わった後、足の甲の痛みが続いてたので病院に行ったところ、骨にヒビが入っていました。
撮影のときに馬に足を踏まれたからだと思います。
馬には罪はないですが、動物も人も体を張る撮影はほんとうにたいへんだなと思いました。
西田敏行さんの訃報を聞いて、もう何十年も前の話を思い出した次第です。
西田敏行さんのご冥福をお祈り申し上げます。
最後までお読みいただきましてありがとうございます。
(出典:https://www.tbs.co.jp/tbs-ch/item/d1941/)